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【考えごと】 BLTサンドみたいな


 『ジャクッ』とした歯応えのある文章やストーリーが好きだ。
 種類はいろいろ、それぞれにおいしいものを重ねた層を、歯で一気に噛む感覚が好きだから、私はBLTサンドも好きだ。
 変な言い方かもしれないが、おんなじように『噛みごたえ』がある『歯触りのいい』、『歯に気持ちいい』文章が好きなのだ。伝わるだろうか。
 ちょっと自信がない。
 なんかこう……『じゃくっ!』と噛み切ったら歯が気持ちよくないだろうか? そのままむしゃむしゃっといきたい。So happy、I feel so good だ。

 サッと読むためのシンプル・レイヤーな文章もスマートでいい。
 でも時間があるならば、荒い塩胡椒を振ったカリカリベーコンや酸っぱいトマト、濃いめのチーズ、じゃくじゃくしたみずみずしいレタス、こっくりしたオーロラソース、たまねぎなんかもいいね、とにかく色々挟まったBLTサンドみたいな文章やお話が読みたいのだ。
 色んな味がしておいしい。
 いやBLTがおいしいという話をしたいのではないのだ。そうではない。

 世には色んな小説がある……とは前回⬇️

 でなんとなく書いた。
 色んな小説、諸々ひっくるめて『作品』があるということは、つまり内容も色々であって、具沢山で分厚いのに食べやすくて更にめちゃくちゃおいしいものから、正直『うわっ薄っ』的なものもあるわけだ。

 まあ私が『うわっ薄っ』とか『うわっまずっ』と思った作品が、他の人からしたら最高めちゃうまサンドかもしれないし、逆もあると思う。そして私が書くものも『うわっ薄っ』とか『うわっまずっ』と思う人がいるかもしれない。『おいしー💕☺️🥪』としてくれる人もいるかもしれない。
 みんなそれぞれお互い他人な上にいい大人なんだから、そのへんはそれぞれでいいんだけど、やっぱり私個人で言えば『層がある』作品が好き。

 言い換えるなら、世界観であったり、登場人物であったり、その物語を構成する要素が何層もあるといい。ここも言い換えると、つまり設定が細かいといい。
 
 たとえばファンタジーものによく出て来る『魔法』ひとつとったとしても、どれだけ種類があるか、邪悪なものなのか聖らかなものなのか、歴史を変えるような出来事はあったのか、誰が祖なのか、それとも現象を操る技術なのか、学べるものなのか、学べるのだとしたら機関はどんな構成なのか、性差はあるのか、それとも特定の種族が特異的に用いることができる技術あるいは生体機能なのか、文化的迫害はあるのか、差別はあるのか……。

 たくさん考える部分がある要素を、たくさん考えている人が好きだ。
 そういう人と話しているとすごく楽しい。創作が捗る。さらに料理上手な人だと、ともすればついつい『僕の考えたさいきょうの設定』を詰め込みすぎて FAT burger になりかねないところを、うまーく引き算して、いい感じのBLTサンドにしてくれる。私はそれを生きている限り無限にいただきたい。強欲の権化ミズノさんである。
 (まあ『僕の考えたさいきょうの設定』を思うまま詰め込むのも最高に面白いんだけどね。オールでみんなで考えたりネタ出ししたりお絵かき大会するのが最高に楽しいんだよね。わかる。わかるよ。)
 
 あるいは、ベーコンやらトマトやらを登場人物で喩えてもいい。
 主人公がベーコンなら相棒はレタス、頼れる兄貴分はバンズ、一癖ある二枚目はトマト、セクシー・ダイナマイトはこってりしたチーズ、場合によってはたまごが入ってもいいよね。
 それぞれを単体で味わってもおいしいけど、まとめて同じ方向に向かって『じゃくっ!』と噛んで味わうとなおのことおいしい。
 食べ応えがあるものはおなかもいっぱいになる。
 私はこの『おなかいっぱい』も大好きだ。

 これもまた誤解が怖いから先回りしておくと、私はいわゆる『転生もの』やその中でも『主人公最強もの』がそんなに得意ではない。
 理由はいくつか考えられるが、最も有力なのは『想定されているターゲット層から離れた年齢や社会的立場になった』こと。ミズノさんは老けた大人になったのだ。

 つまり、

 冴えないオレが異世界転生したら〇〇で、レベル最強Sクラスのうんたらかんたらで魔王討伐楽勝でした!

 ……が、苦手なのだ。
 でもこれはおそらく、思春期くらいの子たちには猛烈に受けるに違いない。
 ひょんなことから退屈な日常を抜け出して、別の世界で大冒険をするというのはストーリーとしては鉄板、物語の基礎だと思う。そこは一切否定しないし、私はそういう王道ものだって好きだ。
 ただ、昨今流行っている『転生もの』系は苦手なのだ。

 もちろん、一回も読んだことがないのではない。
 何かについて否定的な意見を出す場合は、その『何か』にきちんと触れていなくてはいけないと固く信じている。ただただ、気に入らないからといって、知りもしないで、知ろうという努力もしないで安易に否定するのは最も愚かなことだ。
 なので、ちゃんと読んだ。
 それで、ちゃんとつらかった。

 書いた方を傷つけるのは全く不本意なので作品名やお名前は伏せるけれど、ファンタジーの世界に転生した冴えない主人公が文字通り無双するお話で、コミックにもなったしアニメにも映画にもなっている。
 超大ヒット作で、その経済効果たるや想像もつかない。
 一世風靡とはまさにこのことで、みんながみんなできることじゃない。
 そこについては本当に尊敬しているのだけれど、私にとっては『うわっ薄っ』ながっかりBLTサンドだったのだ。
 
 どうしても文章や台詞回しを受け付けない。
 世界観が薄っぺらい。
 薄っぺらいのに登場人物ばかり増えていく。
 登場人物の味付けで層を出そうとしているのはよくわかるのだけど、お醤油にお味噌と豆腐が重ねられた感じなのだ。その組成なら具沢山豚汁にだってできるはずなのに、なぜか豆腐が浮かんだしょっぱい汁になっている。
 登場人物の濃い味付けはいいんだけど、世界観の味は薄いままなのだ。
 仮に、『魔王』にしちゃあ人間に与しすぎるし、『隣国の冷血悪魔騎士兵長』にしちゃあへなちょこすぎるし、『古の時代に封印された禁断の呪文』にしちゃあお手軽すぎる。
 だからつらい。
 読んでいてつらい。
 しっかり読んで、『じゃくっ!』と噛みしめたいのに、濡れた新聞紙をずっと食べているような気持ちだった。

 繰り返すけれど、これはあくまで私が『非ターゲット層』だからであって、作品だったり、作品を書かれた方が悪いのでは全くない。
 好きか苦手かというだけのお話なのだ。
 好きな人は絶対に好きだし、絶対に楽しめるし、『面白い』と感じるその人自身の感性が間違いなく正しい。

 だからこれは、BLT好きのおばさんの、めんどくさい愚痴だと思ってほしい。

 さっきから『薄っぺらい』というワードを出しているけれど、これは台詞回しに対しても地の文に対しても『薄っぺらい』と感じる。語彙力に乏しいとした方がいいかもしれない。
 もちろんここには戦略や意図があると思う。
 スマホで横文字を読むことが当たり前になった時代だし、より『転生もの』として身近なイメージを持ってもらうために、わかりやすいカタカナや英単語、スマホゲームの設定、技術用語、義務教育で習う四字熟語を出しているのだと思う。没入感のための表現上の技術だと思う。

 だから、サクッと食べられる。
 サンドイッチというよりはポテトチップスかもしれない。
 しっかり食べて味わって『おなかいっぱい』ではなくて、ちょっと手軽に濃い味付けのものを味わって『このポテチうまいわ』なのかもしれない。 
 
 ポテトチップスが大好きな思春期の人々、わかるよ。おばちゃんもお仕事が立て込むと、時々やけ・・を起こして突然サワークリーム・オニオン・チップスとか一袋食べて胃もたれ起こして太田胃酸飲んでる。かわいそうでしょ。
 できれば、一回でいいから、しっかりしたBLTサンドを食べて『おなかいっぱい』に挑戦してみてほしいなと思う。

 具体的に名前を出すなら原作の方のゲド戦記』なんかどうだろうか。
 あれはいい。漢字の勉強にもなる。
 それか『パルムの樹』なんかもおすすめだ。
 ちょっと国語が得意で忍耐力のある子なら『天路歴程』もどうだろう。
 『天路歴程』が読めたら本当にかっこいい。大人でもそうそういない。
 語彙力がものすごく伸びる。
 一度音読してみるともっと良い。
 『歯に気持ちいい』が、もしかしたら伝わるかもしれない。
 『リズム感がいい』だったり『言ってみて気持ちいい』にも近いかもしれない。

 ちょっと脱線するけれど、一時期、『アナと雪の女王』を古い言葉に置き換えたバージョンが爆裂に流行った。私もあれは大好きだ。細かいことを言う人もいるけれど、とにかくあれは『歯に気持ちよかった』。
 以下に歌詞の画像を添付する。

(しばたまさあき氏)

 特にここ。

 あはれ垂氷も珠のごと
 ゆめ帰るまじ、悔ゆるものかは

 どうだろう?
 これ、一回しっかりお腹から声を出して読んでみてほしい。
 私にとっての『歯に気持ちいい』はこれなのだ。
 

 さて本線に戻って、私はこんなにえっらそうなことを書いているけれど、『天路歴程』にはなかなか挑みかかれなかったし、もう一回読めと言われても、こればっかりは『忙しいんで……』と言うと思う。
 
 設定の分厚い、読み応えがあり、言葉づかいも『アナ雪古語版』とまではいかないけれどそこに近い、味付け濃い目の(人によっては最高に)おいしいBLTサンド。間違いなく『おなかいっぱい』になる。超おすすめだ。

 だけど、これらのBLTサンドを『おかわり!』したり『もういっこ別の味食べたい!』できるのって、実は、ほとんどの場合、それこそ思春期のうちだけ。
 大人になってくると味にはっきりと嗜好性が出てきたり、胃もたれを起こしやすくなったり、食べる時間がなくなったり、諸々の事情で難しくなってくる。

 だから是非とも、思春期のうちに味わってほしい。
 BLTサンドみたいな、噛むと『じゃくっ!』として『めちゃうま』な作品を、それこそおなかいっぱい楽しんで、それで、もしよければ一番美味しかったおすすめをおばちゃんに教えてほしい。
 太田胃酸飲んで、どんな味付けでも、絶対に一回は、しっかりそのBLTサンドを食べさせてもらうから。





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