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雨乞いヤギラッタ

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記事一覧

煙草と羽衣

永遠に続く悪夢などない

声を失くし、一日が一年の様に長く感じた日々にも
終わりがきた

学年が一つ上がり、クラス替えにより運良くカナコと別のクラスになった。

だからと言って、また誰かを信用する気も取り繕って仲良くする気も起きず相変わらず下を向いたまま
静かに新学期を迎えた

デブ、ブタ、と罵られるだけあり145センチで63キロあった体重も、ご飯の味を失ってから50キロまで落ちていた

軽くなっ

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メリバの醜い人魚姫II

あの日から、世界が真っ暗になった

通い慣れた通学路は果てしなく長く感じ、歩いている感覚すら分からない

どこを歩く時も背中を丸め下を向き、なるべく端っこを歩いた。

「全員無視ね!」

女王様の命令通り、私は誰からも話しかけられず
空気の様にただ席に座っていた。

ノートの端を破きぐしゃぐしゃに丸めた紙がいくつも机に置かれ
【死ぬ、デブ、ブス、出っ歯、菌、居るだけで気持ち悪い】色んな言葉が、黒い

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メリバの醜い人魚姫Ⅰ

悪夢の始まりは、突然やってきた――

中学に上がっても相変わらず私の隣にはカナコがいた

入学式を終え同じクラスになり、私達は両手を繋ぎ上下に何度も揺らして喜んだ

カナコがいる

これからの学校生活を思い浮かべ、満面の笑みで片手を大きく上げ二人で寄り添って写真を撮った

中学校は隣の地区の小学校と合同となり、転校前に仲良かったクラスメイトとも同じクラスになった。

前の小学校では分け隔てなく仲良

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灰色ジゼル II

母の質問から半年後、家の取り壊しが決まった。

この頃、完全に心を閉ざした私は特に深い意味を考える事もなく

「そっか」

どこか上の空で
他人事の様に事の成り行きを見守った。

11年過ごしたお城には何一つ愛着もなく
離れるのが寂しいほど心を許した友達もいない

涙ひとつ出なかった

どうしてこうなったのか詳しくは知らないが金銭的な問題である事は明らかだった

取り壊しの前に、灰色のコンクリート

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灰色ジゼル I

「パパとママどっちと暮らしたい?」

夕方、お菓子を食べながら賑やかな笑い声のするテレビを観ていた私は母の唐突な質問に困惑した。

「ママ」

考える余地もなくそう答えると母は、困った様な顔で
力無く微笑んだ

以前は体裁を気にしてか毎週末は家族で連れ立っていたが、ここ最近では父は朝から出掛けていて
ろくに口もきいていなかったのだから、当然だ。

父は、どのレジャー施設へ行っても癇癪をおこした

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手かざしの先にあるもの

毎週土曜日、道場と呼ばれる場所に父を除いた家族で通うのが日課になった。

これがいわゆる宗教である事に気が付いたのは随分先の話である

3日間の魂の洗礼とよばれる研修に参加しはれて私は、信者になった

周りを見渡すと、そこには張り付いお手本の様な笑顔の大人がたくさんいて居心地の悪さを感じた

エントランスで靴を揃えていると目の前にパンが二つ並んでいた

【手かざしをしたパンは腐らない】

そこには

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群青色の恋

「ユウカって、可愛い!」

彼女は、綺麗な顔と美しい声でそう言った。

スラッと伸びた手足、フランス人形みたいなシュッとした高い鼻に色素の薄い大きな目、綺麗な歯並びに弾けるような可愛い笑顔、大人びた仕草。
本物のバービー人形の様な彼女は誰もが憧れる

学年一番人気のクラスメイトの女王様マイコだった

こともあろう、誰がどう見たって豚である私に
彼女は皆に聞こえる大きな声でそう言い放った

「そ、そ

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ドーナツの朝

新しい朝が来た 希望の朝だ

夏休み、ラジオ体操のスタンプを欠かさず集める事にハマっていた。

ひとつ、ふたつ増える度に気分は高揚し
スタンプで埋まるカードを見ては誇らしかった

祖母と早起きして、少し遠回りして公園まで行き
朝露で濡れた遊具を手で拭うと二人で並んで座った

毎日、昨日のお話の続きを聞かせてくれたので
ワクワクしながら祖母のやわらかい声に耳を傾けた

ラジオ体操のスタンプはよくある

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もうひとつの世界

学年がひとつ上がり、我が家に新しい大きな学習机が届くと私は飛び上がって喜んだ。

それまでずっと近所のお姉さんのお下がりを使っていたが、母は突然ユウカが欲しいのを買ってあげるね!と言った

父が家に帰らない日が増える度、母は私をデパートに連れて行っては何かしら欲しい物を買ってくれた

当時、大人気のキキララのデザインが入ったキャラクター机でベージュの木材に所々にピンクが使われ一番上の引き出しには鍵

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偽りドロップ

お面の一件以来欲しい物を素直に言うことに恐怖を覚えた私は、あえて欲しくない物をほしいと言って周りを騙し一番欲しいものを仕方なさそうにあたかも我慢して選んだ風に手に入れる術を身に付けた。

我ながら姑息な小娘に育ったと感心する

劇でセーラームーンをやる事になった時も
一番人気のうさぎちゃんは倍率の高さから視野から外し、皆に他のキャラの良さを語りつつ二番目に人気だったちびうさの座を上手いこと手に入れ

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夏時雨の少女仮面

無意識に被っていた少女の仮面はあの日以来
より一層厚みをました

良い子ちゃんを演じる事にもすっかり慣れていた。

友人にも隣のおばさんにも真面目に明るく接しては

「ユウカちゃんは良い子だね」

そう言われる度、頑張りが認められてるみたいで誇らしかった

ランドセルを下ろした後、こっそりつくため息は
きっと誰にもバレてない

夏休みがはじまり、町内の小さなお祭りに参加する事になった。

面倒くさ

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転生前夜

相変わらず時折バケモノが顔を出す父ではあったが
DV男の典型か暴れた後はやけに優しく、洒落たレターセットやらハガキやらお土産を持って帰宅した。

この人にとって「ごめん」の変わりなんだな、と
物分りの良い娘に成長していた

崩壊寸前だった玩具の城にある出来事が起きた

7歳年の離れた弟の誕生

あんな崩壊スレスレの状況でいつ仲良くしていたのかは知らないが、弟の誕生は我が家に暖かい空気をもたらした。

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玩具の城と化け物スイッチ

「さよならヤギラッタ」

それは、ふにゃふにゃの文字で端っこに小さく書かれていた。
ボロボロになったノートのはじめと終わりに書かれていたこの言葉は、彼女を蝕み続けた彼女自身なのか

もしかしたら、私や他の誰かの中に眠るもう一人の
自分なのかもしれない

ページをめくる度心が乾き、上手く唾を飲み込めない

まるで彼女を初めて知ったような、初めから知っていたような.......

「私ね、今度こそホン

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