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コード進行のない子育てジャズ

 妻からの通知は普段、僕が仕事中でも軽くて温かいものだ。例えば「今晩何食べよう?」とか「買い物忘れてない?」とか。でも、今日は違った。「息子の便に血が混じっている」と。その瞬間、僕の仕事は一時的にスローモーションの世界に突入した。キーボードのキーも空気も、全部がゆっくりと動いているように感じた。

 「血液検査しよう」ということになったらしい。息子は突然スーパーヒーローになって飛び跳ねたわけでもなく、お尻が切れたわけでもない。ただ、何かが違う。そんな時、僕は自分がジャズクラブでコルトレーンとマイルス・デイビスの演奏を聴いていることを想像した。リアルタイムで即興の美を生み出すジャズと、この瞬間の緊迫感がなぜかリンクした。

 検査結果が来て、一安心。医師曰く、体質的に疲れや風邪でちょっとした炎症が起きることがあるとのこと。帰省の疲れか、と僕は思った。「よし、様子を見よう」というのが、我が家の新たな家訓になった。

 この出来事で気づいたのは、子どもの健康って、ジャズのような即興性が必要なんだってこと。いや、それ以上に複雑かもしれない。ジャズにはコード進行があるけど、子育てにはそんな安定した土台がない。全てはその瞬間、その瞬間の判断と直感にかかっている。

 なので、子どもの健康は一種の高度なジャズ演奏みたいなものだと僕は思う。指針も楽譜もない。ただ、その瞬間瞬間で最高の演奏を心がける。それが親としてできる唯一のこと。もし、僕がサックスを吹くなら、今日の一件はきっと新しい即興のソロになっただろう。それに、きっとコルトレーンもマイルスも、微妙なバランスで成り立つこの「子育てジャズ」に頷いてくれるはずだ。

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