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言葉の羅列

12
昔の言葉も今の言葉もごちゃ混ぜに。
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記事一覧

手紙

手紙

届かなくなってしまったものを
いつまでもこの手に握りしめて
もう届かない届けられない
うつむいたその瞬間に
風に運ばれ手紙が届く

差出人の名前はなくて
ただ真っ白な便箋を
指でなぞって
あなたは一体誰なのですか
尋ねてみても返事はなくて
群青色した封筒を
静まり返った水面に浸す
氷に覆われていたはずの
あの湖のほとりで
空には渡り鳥

浮かび上がってきたものは
使い古された愛の言葉でもなく
何度

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修復

修復

ガンジス川のほとりには
痩せ細った犬が一匹
静かに目を閉じて眠っている

砂埃の舞う喧騒の中で
わたしは靴を修理している
誰の靴だろうか

わたしの髪は短い
サリーが風に揺れている
真っ黒に汚れた自分の手を見つめながら
ひとつひとつ
綻びを直しては
ためつ眇めつ眺めている

孔雀が羽を広げたような
あの音楽が
鳴り響いている

あのひとは
修復し続けてきたのだ
だからこそうつくしい

通りすがりの

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出口はこちらです

出口はこちらです

出口はこちらです
促されるまま歩き続けて
看板が目に飛び込んでくる

出口はこちらです

ドアの前に置かれた
白いテーブルの上には
コーヒーカップが二つ

さぁどうぞ
ミルクと砂糖はご自由に

ひと息ついてふと顔を上げる

辿り着いたはいいけれど
このドアはどうやって開けるのですか?
ドアの向こうの世界には
一体何があるのでしょうか

それは
あなたにしか分かりませんよ

付加価値

付加価値

それは
付加価値として
用意すべきものであって
メインディッシュにしてはならない

そうあるべきだと
これまでも考えながら
生きてきた自覚があるし
たぶんこれからも変わらない

それは
付加価値として
用意すべきものであって
メインディッシュにしてはならない

それだけを
いつまでも
待ち望んでいるような
人生にはしたくない

並んだ皿を見つめては
何度でも繰り返す

真っ白な皿の真ん中に
うっか

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Polaris

Polaris

線香花火の赤い色
ぱちぱち弾けて散らばって

少女はじっとうずくまり
蠢くひかりを胸に抱え

あぁ もうすぐ消えてしまうわ
うつむく顔は赤く染まり
ぽろりぽろりと涙が落ちる
なんと悲しそうな顔!

星は小さく微笑んで
そよぐ風に言葉をのせる

どうして貴方は泣いている?
そんなに悲しそうな顔をして
どうして貴方はうつむいている?
わたしは変わらず空の上
こうして貴方を照らしているのに

少女はただ

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ある時

ある時

ある時思ったのだった。

世の中にはうつくしい人が沢山いて
家事も育児も完璧にこなしていて
美しい服と美しい心
いつまでも愛されるべき存在で
ママ友がたくさんいて
センスが良くて素直で明るくて
爪はいつでもピカピカで
メイクも完璧の完璧で
いつだっていい匂いがする
周りから憧れられる存在で
自分に自信を持っていて
悩みなんてひとつもない
わたしは生まれながらに完璧です

そんな人いないんだって。

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林檎

林檎

赤い林檎が落ちてくる
ぽとり ぽとり
空高くから落ちてくる
荒野はいつしか埋め尽くされて
あなたはそれをひとつ拾った
さぁ おひとついかがです?

甘い甘い蜜が入った
小さな林檎の匂いが満ちて
ひとくち齧ってみましたら

もう他の林檎は食べられないよ
手の平で転がしながら
あなたは笑う

もう他の林檎は食べられないよ
小さく小さく泣きながら
あなたは笑う

でてくるでてくる

でてくるでてくる

でてくるでてくる
つぎからつぎへと

でてくるでてくる
いやだだるいいやだだるい

でてくるでてくる
あのひとなんにもしないのよ
ほんとになんにもしてくれないのよ
もういやなのよほんとうに

ずいぶんいっぱい
でてくるでてくる

あなたがかるくなるのなら
ぜんぶぜんぶはきだしてしまえ

わかるよ
なんていえないまま
ひどいよね
なんていえないまま

わたしはあなたを
だきしめる

いくつもの世界

いくつもの世界

空になった瓶を覗きこんだ。
魚が二匹泳いでいた。
ぐるぐると同じところを泳ぎ続けていた。
光が反射して鱗がひかっていた。

空になった瓶を覗きこんだ。
大きな黒い手が伸びてきた。
思わず目を逸らした。

空になった瓶を覗きこんだ。
何かが零れ落ちていった。
底の方で幾重にも波紋が広がった。

空になった瓶を覗きこんだ。
正座した母が遺影の前に置かれた皿に
トマトを置いた。ひとつ、ふたつ。
暑うなっ

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忘れ物ですよ

忘れ物ですよ

忘れてしまったことがある
ということをしばらく忘れてしまっていた

あの頃の感覚はどんなだっただろうか
あの真夜中の無敵感は
どこから生まれてどこへ消えていったのだろうか

薄暗い部屋で
寝る間も惜しんで聴いていた音楽の色彩は
どんなだっただろうか

最終の電車に乗って
真っ暗な夜道を時々振り返りながら
むせるような深い夜の匂いと共に
去りゆく電車の音と共に
わたしは
どこへ向かって
歩いていたの

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揺れる

揺れる

揺れている
ゆらゆら ゆらゆら
揺れている

頭の中が震えてる
睫毛もふるふる 震えてる

わたしは揺れる
音楽を聴く
遠ざかろうとすればするほど
誰かの声に面影を探す

グラスは揺れる
氷は溶ける

わたしは溶ける
闇に溶ける

伸ばそうとする
その手で
自分を抱きしめる

明日になったら
あの鐘が鳴り響いたら
ぜんぶ
溶けてくれればいい

あとかたもなく

花の名前

花の名前

ふらりふらりと歩いていたら
ぽつんぽつんと雨降り出して
振り返れば白い花
雨粒落ちたところには
ひとつふたつと花が咲き
あの花の名は と君が問う

咲いた花びらは宙を舞い
風に吹かれて遠くまで
甘い匂いが漂って
はらりはらりとゆり落ちる

軽やかな足音と子どもたちの笑い声
あの子は遠くへ行ってしまったよ
花の匂いに誘われて

ギター抱えた少年が
音なき音をかき鳴らす
むせかえるような甘い匂いが

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