映画「バビロン」 夢の生贄
□バビロン(2023年2月公開)
ハリウッド黎明期を描いた
デイミアン・チャゼルの野心作は
ミュージカルも平伏すような音楽の濁流。
デイミアンとタッグを組み続ける
ジャスティン・ハーウィッツは
本作でもゴールデングローブ賞作曲賞受賞。
デイミアンは脚本ができるとジャスティンに渡し
ジャスティンがスコアを創り
デイミアンが音楽を聴きながら絵コンテを描く。
音楽先行で映画を具現化させていく最強コンビ。
□映画の下には死体が埋まっている
1920年代のハリウッド黄金時代。
映画製作を夢見る青年マニー(ディエゴ・カルバ)
野心に燃える新進女優のネリー(マーゴット・ロビー)
サイレント映画のスター、ジャック(ブラッド・ピット)
映画に魅せられた3人を軸としながら
絢爛な音と映像の”圧倒的物量”で繰り広げられる
ロマンと狂乱の世界。
日が沈むように
バブルが弾けるように
副作用があるように
このトランスには終わりがくる。
自分よりも「もっと大きなもの」を求めた者たち。
彼らは夢の生贄。
酒池肉林、アンモラル、軽挙妄動。
彼らを愚かだ当然の報いだと罵るのは容易い。
しかし夢を見ない者などいるのか。
サイレント映画からトーキーへ、
さらにはトーキーから現在の3DやVFXへ。
なにかが変わるたびになにかが滅ぶ。
我々が大好きな映画は
夢見て敗れた者たちの
死屍累々のうえに生きている。
□そして誰もいなくなった
象が舞い、小人が踊り、巨人が喰らい、
ブラピが吹っ飛び、マーゴットが露出する。
デイミアンが狂喜して差し出してくる
映画オタクと露悪趣味全開のデカダンスを
やれやれまあ好きにやってくれと観ていたのに
気がつけばみんな闇に消えていた。
セットもキャメラも演技論も
ダンスもセックスもドラッグも
一炊の夢だったのか。
人もなにもかもなくなって
ただ音楽だけが風に吹かれている。
でたらめな女だったマーゴットが
ひとりひっそりと闇に召された後ろ姿。
それがいつまでも忘れられない。
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