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美術展の仕込は4年がかり【前編】

メディアが提案・主催する展覧会では、大型の企画は実現までに4年程度かかるのが一般的です。「そんなに長く?」と思われるかもしれません。

美術展の開催期間は数週間・・・でもその作業は膨大!

今回はメディアが主催する展覧会の一般的なプロセスを2回に分けてお話します。(あくまでも個人の経験に基づくものです。ご承知おきください)
前編は、端緒から展覧会開幕1年前あたりまでの動きです。
 


1.企画:開幕4年前〜1年前 

*以下が同時並行で進みます

①端緒は思い付き?

世の中のトレンドだったり、プロデューサーのひらめきや好みだったり・・・美術展の端緒は様々です。以前プロデュースした「大エルミタージュ美術館展」は、“西洋美術史400年の流れを1時間で知りたい!”という無謀な欲求から始まりましたし、「京都展」では、“徳川慶喜の目線で当時の二条城の障壁画を見たい!”という大胆な思い付きから始まりました。
始まり方はどうであれ、ここからが長い道のりの始まりです。

②企画立案はしっかりと

いくら端緒が「無謀で大胆な思い付き」でも、美術展であるからには学術的裏付は必須です。美術史家や大学の先生などその分野の専門家に監修をお願いします。

③地道な作品借用交渉

展示する作品の所蔵館(者)にリクエストレターを出し、貸出を依頼します。所蔵館(者)は企画内容、作品の状態などによって貸出を検討しますが、当然のことながら貸出側の立場が圧倒的に有利。作品によっては借用料に大きく影響する場合もあります。貸出館の超有名な”看板作品”となればハードルは高く、世の中には様々な理由で“門外不出”の作品は多数あります。

ロシア サンクトペテルブルク 
エルミタージュ美術館

④開催館への提案

企画にふさわしい美術館などに提案し、館内の学芸会議などで開催の可否を検討しいただきます。美術展は美術館の学芸的な裏付けがあってこそ「美術展」として認められます。当然開催館の立場が圧倒的に有利。ここでも売り込むメディアの立場は強くありません。(「美術展とメディアの関係」で書いたように、金銭的リスクはメディアが負うのですが・・・)もちろん、集客見込みは開催館の収入にも直結するだけに大事な検討要素です。 

⑤メインの作品が借りられない!

大型展は国内(時に海外も)複数会場を巡回することがあります。巡回展は借用料、保険、輸送費などを複数の主催者で分担できるので予算的にはありがたいのですが、作品や所蔵館によっては長期間の貸出ができなかったり、借用期間が長くなれば借用料が高額になったり・・・一筋縄ではいきません。
以前、国内3会場、のべ9か月間巡回をした展覧会で、とある海外の美術館から、日本人もよく知る”ザ・名作”を借りようとした際、所蔵館には一旦了承を得たものの、後に「やはり連続して9か月もの間その作品を貸し出すのは、それを目当てに自館を訪れる来観者に影響する(=来観者が減る)」と言われ、危うく約束を反故にされそうになったことがありました。
日本展主催者としても当然その作品をメインビジュアルに据えていただけに一大事!数か月にわたるタフな交渉の末、展覧会期間中に一旦その作品を返却して再度借りる、つまり9か月の間にその作品は日本と本国を2往復!ということもありました。

こうして展覧会の概要はほぼ開催の3年前には確定します。でもせっかく作った展覧会をよりたくさんの方に見てもらい、満足していただくにはどうするか。日本国内での本格的なプロセスはここからです。
主催者にとってはまだまだ胃の痛い日々が続きます。
 
次回は後編、開幕1年前あたりからの動きです。



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