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感染症法上の分類:5類=ただの風邪ではない

新型コロナウイルス感染症の分類を5類にするかどうかという議論、およびそれに関する一般人の騒ぎは最近の話題であるが、多くの人間は大いなる誤解をしている点でもある。今回は感染症や病原体の分類について考えたい。

現在、話題の2類(相当)とか5類移行とかいうのは全て「感染症法」という法規制上の分類の話であり、病原体の性質や危険度そのものを規定するものではない。あくまで「危険度に対応した対策を可能とするための法的根拠」に関する分類である。つまり、この分類が下がったということは「ウイルスが危険ではなくなる」という事ではなく、「ウイルスに対する対策が不可能になる」というだけなのである。この点を大きく誤解している一般人はあまりにも多い。先にハッキリ言っておけばこの移行で得をするのは政府や行政であり、損をするのは国民である。

また、一般での感染対策についてもこの分類は当然関係無い。上記の通り、法規制上対策が不可能になる、というだけなので「対策しなくてもいい」という意味ではない。この感染症法上の分類を病原体の性質や危険性と同じだと考えてはいけないのだ。

仮に5類だから安全だ・対策しなくていいと考える人間がいるなら、その分類にどの様なウイルス感染症が含まれているか確認すればいい。免疫系に大きな影響を与える例で言えばHIVやそれによって引き起こされるエイズは5類に分類されている。HIVはCD4陽性Th細胞に感染し、長期間を経てそれらの細胞を減少させることで「後天性免疫不全症候群=AIDS」を引き起こす危険なウイルスだ。また根治は(研究が進んでいるものの)困難だと言わざるを得ない状況であり、「感染を防ぐ」ことが最重要であることは言うまでもない。

HIVは感染初期には殆ど症状が出ない。発熱がある場合がある程度だ。恐ろしいのは長期的な免疫系への影響であり、長年の研究を経てその分子生物学的機序や感染症としての特徴が明確になっているから、広く脅威が知られているし、感染対策も気を付けるのだろう。同時に対策としては5類で問題無いという事も言えるので、法規制上の分類はそうなっているが、それがウイルスや疾患の危険度とは全く別問題だという事はこの例だけで容易に理解出来るだろう。

新型コロナウイルスはその研究が進んでおらず、また一般人にまでその情報は周知されていないから危険度の認識が甘いだけであり、いつも言っている通り分子生物学的機序や中枢神経系に与える影響の報告を見る限りにおいて、長期的に非常に危険なウイルスとなる可能性が十分にある病原体なのだ。感染初期の短期的症状が弱くなったからと言って、その長期的危険性を無視できるわけでは全くない。それが5類になったから対策しなくていいと考える蒙昧はHIVは短期的に大したことない5類感染症の病原体だから対策なんてしなくていいや、と言っているのと同じ様なものである。

病原体の分類には他にBSL分類というものがある。これは実験で使用する際の取り扱いに対する規制と関連があり、病原体自体の危険性そのものに焦点を当てた分類となっており、感染症法上の分類とはかなり異なる。興味があれば比較してみるのも面白いだろう。ちなみに新型コロナウイルスは上から2番目の危険度のBSL3であり、現状はHIVよりも上である。未知の長期的影響が明確な分子生物学的機序の基に想定され、そのウイルスが史上最強レベルの感染拡大能力を有していると考えれば、当然と言える。


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