マガジンのカバー画像

逃走生活

27
夫の暴力からの逃れての逃走生活にまつわるエッセイ。受けた傷から回復していくこと、どうしようもない心の動きのこと。
運営しているクリエイター

記事一覧

「元気が出ない」が治らない

「元気が出ない」が治らない

 1ヶ月ほど、ひどい肌荒れに悩まされていた。生え際から顔の皮膚がぽろぽろとはがれ落ちて来るのだ。朝にメイクをした顔が夕方には端からひび割れ、はがれた皮が今にも落ちそうになっている。指先で触れるとそれは粉になって崩れ、髪についたりはらはらと肩に落ちたりした。
 私は焦った。自分は一体どうしてしまったのだろう。
 友人の勧めやインターネット上の口コミに従って、荒れた肌に良いとされていることを片っ端から

もっとみる
もっと泣いたりわめいたり

もっと泣いたりわめいたり

 区役所に一人で離婚届を出しにいった日からあっというまに一年余りが過ぎ、2017年も終わりを迎えようとしている。元夫と暮らしていた短い日々や、その暴力から逃げて隠れて暮らしていた日々が幻であったかのように私は平穏に毎日を過ごしている。
 自分はすっかり離婚のショックから立ち直っているように見えるはずだ、と思う。この一年でがつがつと転職をし、友人達と何度か国内旅行をし、欧州3か国に出張に出掛け、ヨガ

もっとみる
「離婚後時間がたってから旧姓に戻る」という選択肢

「離婚後時間がたってから旧姓に戻る」という選択肢

 転職を間近に控えたお盆休み、ずっと心に引っかかっていたことを片付けた。
 それは姓を旧姓に戻すということだ。

  *

 そもそも、結婚の際に姓を変えた人(多くの場合は女性だと思う)は、離婚にあたって旧姓に戻ることが原則である。しかし、仕事上で不便がある場合や、子どもの事情を考慮して不都合だと判断した場合等には、婚姻中の姓を名乗り続けるという選択をすることもできる。
 私の場合は昨年の12月に

もっとみる
タフネスって何だろう

タフネスって何だろう

 数日前から帯状疱疹を患っている。首から右肩にかけてひどい水疱がでてきて皮膚がただれ、何か恐ろしい爆発事故にでもあったかのような有様になった。
 半休をとって駆け込んだ皮膚科で、患部にたっぷりと薬を塗られて首と肩をしっかりとガーゼで覆われた。首回りが広めに開いた服を着ていた私はとても痛々しい風貌になってしまった。
「こんな見た目だと、なんだか随分具合が悪いように見えてしまいますね」
そう言ってぼや

もっとみる
思い出し怒りのUFO

思い出し怒りのUFO

 認めたくないことなのだけれど、どうにもこうにも過去の辛かった出来事を思い出してしまって怒りの感情が収まらなくなることがある。それが起こるのは大抵一日の仕事を終えて帰宅する途中だ。仕事を終えたという気の緩みと一人の家に帰らねばならないという寂しさのせいなのかもしれない。
 元夫の暴力と暴言。結婚前には隠されていた彼のアルコール依存症。かばってくれなかった義両親。
 この場所に居ながらにして感情だけ

もっとみる
余生という影

余生という影

 離婚してから3ヶ月間、ずっと逃れられずにいる感覚がある。
 これはもはや余生なのだ、という冷めた感覚だ。
 暴力を振るう夫から逃れて新しい人生を始められたのだから、もっともっと希望をもてるものだと思っていた。しかし、必死に駆け抜けた離婚協議でエネルギーを燃やし尽くしてしまったのかもしれない。実際のところ、私は余生を一コマずつ塗りつぶしていくような気分で毎日を過ごしている。

   *

 いや、

もっとみる
頭の中に自由を!

頭の中に自由を!

 離婚して最初の里帰りというのは、何にせよとても気が重いものだ。12月の初旬に離婚して、大晦日から正月にかけての帰省は何よりも憂鬱だった。
 しかも私は離婚したことをずっと両親に言えないでいたから、一層気が重かったのだ。

   *

 DVとアルコールの問題を抱えた夫との離婚を決意したのは夏前のことで、このタイミングで両親に簡単な報告はしてあった。親に一切頼ることなく一人で弁護士を探し、すでに契

もっとみる

離婚は人を狂わせるのか?

 離婚後に気が狂ってた時期がある いま正気かはわからないけど

 元夫との別居が始まった頃から風呂場にkindleを持ち込んで読書をするようになった。空白の時間があると苦しいことや良くないことを思い出したり考えたりしてしまう。だから、常に本を読んだり落語を流したり、隙間を埋め尽くすように生活している。
 今日は枡野浩一さんの短歌と文章を読んでいた。
 そして目に留まったのが冒頭の一首で、歌の中に自

もっとみる
取り戻す

取り戻す

 この1年ほど、好きだった音楽が聴けなくなっていた。

 もともと音楽が大好きだった。長く楽器を趣味にしていたし、毎日、隙間時間を埋めるようにiPodで音楽を聴き続けていた。コミュニケーションがあまり得意でない私にとって、音楽という趣味を持つことが人との関係を作るうえでどれほど助けになってくれたか分からない。「今度一緒に演奏できたらいいね」という言葉がどれほど人間関係を繋いでくれただろう。
 思え

もっとみる
そんな時にはあたたかいお茶を

そんな時にはあたたかいお茶を

 数か月にわたる仕事の修羅場がようやく一段落した。

 差し迫る期日や、チームメンバー同士のすれ違いや、計画通りには進捗しないタスクや、様々なぐちゃぐちゃを抱えた仕事場はどんどん殺伐としていく。終電で帰ることが増え、残業時間が積み増されていくとともに心身の余裕がなくなっていく。

 ましてや私は仕事の傍らで秘密裏に離婚協議を進めている身で、心に葛藤と不安を抱えながら大きな意思決定を迫られる局面が続

もっとみる
目を閉じて暗闇で跳ぶような

目を閉じて暗闇で跳ぶような

 自分の人生を左右する大きな決断をするのは、とても怖いことだ。それは目を閉じて暗闇で跳ぶようなことに思える。足を踏み入れる先がどのような場所なのかは跳んでみるまでは分からないのだ。
 夫との離婚の意志を固めるのは私にとってひどく怖いことだった。夫の抱える様々な問題が明らかになってからも、決断までには長い時間が必要だった。

   * 

 初めて「離婚」という選択肢を意識させられたのは結婚してたっ

もっとみる
どうしてカウンセリングを受けるのか?

どうしてカウンセリングを受けるのか?

 家族の問題を抱えるようになって、1年以上カウンセリングを受け続けている。2週間に1度、ベテランの女性カウンセラーと話をすることは、私を穏やかに支え、そして大きな決断をして前進することを後押ししてくれる。

   * 

 そもそもカウンセリングを受けるようになったきっかけは夫の主治医の勧めだった。
 夫が家庭内に大嵐を起こしながらアルコール依存症で入院し、私はこれからの生活に対する不安感や恐怖心

もっとみる
「被害者」になるということ

「被害者」になるということ

 夫に暴力を振るわれたこと。その暴力から逃げ出して一人で生活していること。私はそのことを職場ではひた隠しにしている。「旦那さんは元気にしているの」なんて言われる度に、あいまいに笑って「まあまあです」などと答えてごまかしている。
 自分が悪いことをしている訳ではないはずなのに、私は自分の傷をひた隠しにせずにいられない。 

    *

 私は「被害者」として特別視されることを自分でも嫌になるくらい

もっとみる
そんな時はなにもせず眠る眠る

そんな時はなにもせず眠る眠る

 暴力とアルコールの問題を抱えた夫との離別に向けた協議が始まってから、早くも一か月あまりがたつ。
 弁護士を通じた協議というのは、数日から一週間おきに一手ずつしか指すことのできない将棋のようだ。一週間に一手しか指すことができないから、当然徹底的に考え抜いて、あらゆるシミュレーションをして、最良と思われる手を指す訳だが、それに対して相手が指してくる一手をまた一週間悶々としながら待たなくてはならない。

もっとみる