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既婚子持ちでカムアウトしたトランス女性は独りじゃないし、誰も傷つけてないよ。

少し前の話になりますが、豪州でトランスジェンダーの方々のパートナーの会に参加した事があります。トランス女性のシス女性パートナー限定という括りは無かったのですが、10人程度の参加者は全て長くお付き合いしてきたトランス女性が大体6ヶ月以内にカムアウトしてから、受け入れてあげたいけれど、どう受け止めてあげれば良いか分からずいるシス女性達でした。年齢は様々ですが、ご家庭をお持ちでお子様がいらっしゃる方々ばかりでした。サポートグループとして来ている人達の横で、交流会をイメージしてお友達でもできたら良いなと思っていた私は、場違いな所に足を踏み入れてしまったと思ったわけです。

トランス女性を受け入れられない女性はさぞかしジェンダーロールに縛られ、女性に対する偏見や固定観念が強い専業主婦達なのではという勝手な想像がありました。しかしお会いしてお話を聞いてすぐに、そうでない事や共通点に気づきました。それは大変優秀でお仕事も子育ても力を注ぎ、それだけでなく明るく優しくて面倒見が良い方々である事、そして女性の人権問題に対して関心がある事でした。場違いだと思い後ずさる私を止めたのは、トランス女性の妻を受け入れられないと言いつつ、自分なりにまじめにノートを取ったりして向き合おうとしている姿と、私を見てちゃんとしている人もいて良かったと言ってくれた事です。

そしてパートナーの方々は口を揃えて「ユニコーンを見つけた」と唯一無二の存在である妻達の事を嬉しそうに語ってくれました。お仕事をしながら自分のキャリアにも理解があり応援してくれて、何も言わなくても子育ては腕をまくり、教えなくても家事もしっかり半分やってくれる。「まるで」女性の様に優しく、聞き上手で自分の一番の理解者であり、俳優やアスリートなど表に出るお仕事をされている方が多く、かっこいいと少し近所でも有名なカリスマ性のある自慢の妻であるという事。

彼女らはジェンダーロールに縛られていないどころか、彼女らこそジェンダーロールに縛られていては幸せになれないというのが分かっている人達でした。それはパートナーの会の方々だけではなく、カムアウトした彼女らの奥様方も、私もそうです。彼女らはやっと見つけた「ユニコーン」が女性だったなら、これから男性と付き合う事を考えたら、仕事を応援してくれるなんて事はないし、仕事が上手くいっていると劣等感を寄せられたり、子育ても言わないとやらないし、子育てを先回ってやるとか教えなくても家事ができるなんて夢のまた夢なわけで、男性と付き合えば再びジェンダーに苦しむ事が目に浮かんできてゲンナリすると口を揃えて言うのです。そういう彼女らだからこそ、彼女らの奥様方からしても、ジェンダーロールに括り付けられ男になれない「ユニコーン」の自分をむしろその方が良いと必要としてくれていて、ジェンダーロールを取り除いたらそんな大層でレアなものではなくなってしまって、「ただの女性」だったとしても、二人の関係はそんな薄っぺらい物ではないし、そう変わったりはしないと思うのです。思い返せば、彼女らが受け入れられないと言っていたのは、トランス女性の事ではなかった気がします。社会のキツい目や自分の偏見から妻を守ろうとするあまり、自分のケアや気持ちを後回しにしてしまったりなど、「トランスだから」ではなく違う所でモヤモヤが溜まっていたと思います。

私がその会で目の当たりにしたのは深い絆で結ばれている人達と、カムアウト後も愛し合っている事を再確認しながら妻に歩み寄っていく妻達の姿でした。完全に愚痴大会になる日もあり、ストレスが溜まっているのでこれくらい言って良いだろうと「気が緩む」と一線を超え女性を軽視する発言が飛び交ったりもしていました。本人が聞くよりかはましかと話を聞いていた事もありました。そんな事があっても、社会もそうですし彼女らが他の女性を差別化して卑下したりする事は、自分で自分の首を絞めている事にもなると説明した時が随分前の様な感覚に陥って、かかる時間は人それぞれでしたが、カムアウトした自分の妻の事を「妻」と呼べる日が訪れていました。辛い期間は永遠の様でもほんの数週間から数ヶ月の話で、長い目で見れば二人が笑顔でいる期間の方が長いのではと思いました。初めて交流会でお会いして、どの方々もげっそりしていた顔がぱっと安堵の表情に変わったのを今でも鮮明に覚えています。そして、彼女らが妻の事を「妻」と呼んでから、ノロケ話を耳にする様になったりと、私までもどこか達成感で心が満たされた気持ちになっていました。

ここまで参加者が似ていたという事は、トランス女性がシス女性のパートナーにカムアウトした時、周りの反応など人一倍強烈で孤立してしまうのかなと思い返していました。今のネットの声を見ると、一層そう感じます。言葉の暴力が飛び交っている中、忘れないで欲しいのは普通にトランス女性とシス女性のレズカップルもいるし、ご結婚されている方々がいたり、お子様がいらっしゃる人達もいて、それはただそれだけの事。

だから、大丈夫。もし貴方がトランス女性なら、独りじゃないし、誰も傷つけてないよ。自分勝手とかじゃないよ。貴方がトランス女性のパートナーなら、ちょっとだけ一人の時間が必要かも。二人とも今まで幸せだったなら、女性同士のカップルだったわけで、二人のママだったわけで、変わる事ってお互いもっと素直になれる事かなって思う。それは良い事。


最後まで読んで頂きありがとうございます。これからもよろしくお願い致します。