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”私の笑顔は虫の裏側に似ている”


”死にたい夜にかぎって”-爪切男

私がこの本に出会ったのは いや 実写化されたドラマとしての媒体と出会ったのが先であるが ただ 動画サイトで勧められただけである。


賀来賢人が主人公役を演じていた。

「私の笑顔は虫の裏側に似ている」から始まった物語に 違和感を覚えるのは私だけでは無い筈である。

賀来賢人の笑顔は虫の裏側では無いだろう...

もちろん演技力は素晴らしいし アイナ・ジ・エンドの歌う主題歌も良かった。

然し どうしても感情移入出来なかった私は 本屋に走って原作を買ったのだった。



原作も同じように”私の笑顔は虫の裏側に似ている。”  から始まる。


主人公は冴えない男であるが 母親に棄てられた過去から 女 という存在に振り回される経験を多く持つ。

この本は 六年付き合ったアスカに振られるシーンから 過去に戻って 彼の人生を綴るものである。

それは時系列では無い為 果たしてこんなに変なこと(変なこと という表現は正しくないかもしれない)がそうそう起こるものかと不思議な気持ちになる。


こういう女性経験は普通とは違うから 恋愛遍歴 というのだろう と最初は感じていた。然し私には どうも遍歴と言うには正しく無いだろうと今では思う。

初体験の車椅子の女性も 初恋の女の子も 六年間一緒に過ごした彼女も みんな素敵な女性で どの女性に対しても主人公は等しく 恋慕の感情を抱いている。遍歴と言ってしまうには 登場する全ての人の 文章には書かれることのなかった想いに失礼になるのではないかと そう思うのである。 普通とはなんなのだろう と。

最後のシーン アスカにこの本を出版する許可を得るところで アスカは主人公のいいところを一つ挙げる。 それは ”どんなに辛いことがあっても『まぁいいか』で済ませるところ”   だという。

”苦しいことに鈍感”  という性質は 彼の父と過ごした幼少期から成されたものであると考えられるが それが 彼の魅力となって人を惹きつけているのではないかと感じる。 どんなに辛いことも 鈍感に受け流されたら救われる人がいる。



少なくともこの主人公と私では 経験していることが違いすぎるし 想像できないような世界が描かれている部分もあった。然し 読み終えた後になんだか 主人公を身近に そして愛しく感じてしまうのだから不思議だ。


全然違う境地でも この男が『まぁいいか』という気持ちで生きているならば 辛いことを飲み込んでいるならば 私も なんだか頑張れる気がするのだ。 虫の裏側のような しわくちゃな笑顔を浮かべて 生きてみようかなと思えるのだ。



inn


 



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