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懺悔小説「青春パラフィリア」第2話 ~歪んだ愛の果て~

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さて、あの夏の日の体験から私は彼女に対して憎悪と愛情の狭間で錯乱状態になっていました。

なぜあの日彼女はあんなゆるゆるのTシャツを着てきたのか?
しかもスポブラも付けずに!
ぼくが性衝動に負けてあんなことをしたのはY子ちゃんのせいだ
Y子ちゃんがあんなことさせたんだ
ぼくはそんなつもりはなかった
きっと彼女のせいであんなことをしてしまった
彼女があんな格好さえしてなければこんな気持ちにならずに済んだのに
そんな風に彼女を憎むようになりました

しかし同時に清楚でかわいい彼女のおっぱいを見てしまった責任も感じていました

彼女の恥ずかしいもの、いけないものを見てしまった
ぼくはどうすればいいんだ
たしかに彼女のことは嫌いじゃなかったし
だけど今まで好きっていう感情までは無かった
なのにっっ
あの日から彼女のことが気になって気になって
あの映像が頭から離れなくなって
彼女を見るたびにあの映像がフラッシュバックしてしまうし
毎日授業にも集中できないし
こんなこと人に相談もできないし
なんなんだ一体!
Y子ちゃんのせいだ!

ぼくだってあんなことしたくなかったよ
けどどうしようもなかったんだ
見たくなっちゃったんだよ!
Y子ちゃん・・・どうしたらいいんだよおお!

悩み続けたぼくはある結論に達しました

そうだ彼女のすべてを愛そう
彼女をもっと好きになって彼女から好かれるようになって
いつか彼女にその事を話して知ってもらおう
そのとき変態だって思われてもいい
彼女に正直になろう
彼女のすべてを知った上で
誠意を伝えよう

ぼくはまず彼女を毎日観察することから始めました
そしてそれを観察日記として記録しました
生物観察や科学実験の授業のように事細かに綴りました

彼女の好きなマンガ、好きな音楽、好きなキャラ、持っている文房具、誰と話していたか、苦手なもの、得意なこと、ありとあらゆる情報を集め続けました
最終的には爪を切った日まで書き起こしていました

いま思えば完璧なストーカーです
ただ当時のぼくはそれが彼女への誠意だと思っていました

彼女のことをほぼ完璧に調べ上げたぼくは
徐々に彼女に接する回数を増やし
彼女の気を引くために、彼女の好きなものの話題をしたり
同じキャラグッズを集めたり、苦手な給食メニューは代わりに食べてあげ
困ってることがあると助け、とにかく彼女のために尽くしました

そうして仲良くなっていくうちに運動会の頃には一緒にお弁当を食べたり
秋口の修学旅行では同じ班になって一緒に遊んだりしてとても友好的な関係を築いていきました

たぶん彼女はぼくのことが少しずつ好きになっている
少なくとも嫌いではないはず
そう思っていました

そして冬になり冬休み
いくら仲が良かったとはいえ彼女と連絡を取ってまで休みの日に会うことはなかったです
お互いに友達付き合いもあったし別に付き合っているわけでもないのでそれは普通にそうでした

しかしぼくはその頃には彼女に特別な感情を抱いており
いつかこの気持ちを伝えたい
そう思うようになっていました



どうしよう・・・
冬休み中ずっと会えないな
休みになる前に遊ぶ約束でもしてれば良かったな
けど電話して遊ぼうっていうのはちょっと恥ずかしい気もするし
どこかで偶然を装って会う?
いやいやそれはダメだ
あーもう一層のことラブレターでも送って告白しようか
いますぐ気持ちを伝えたい
もう抑えられない
会えないだけでなんでこんなに切ないんだ
彼女に伝えなくちゃ!
いますぐに!

そのときふと頭によぎったのです



そうだ、年賀状だったら送れる!





????????????????




おそらく皆さんの頭は「?」で埋め尽くされているんじゃないでしょうか
安心してください、私も同じです

今でも理解不能ですが
どうしたことか

このぼくは彼女に送る年賀状をラブレターとして送ることにしたのでした
感情が高ぶり完全に頭がイッてました

年賀状の内容はたぶんこんな感じでした


明けましておめでとうございます
寒い日が続くけどY子ちゃんは元気ですか?
ぼくは元気です
修学旅行は楽しかったね
あの時買ったおそろいのキーホルダーは一生の宝物です
冬休みになってY子ちゃんに会えなくて少しさみしいです
会えない間こんな気持ちになった自分に気づきました
ぼくはY子ちゃんのことが好きです
ぼくはY子ちゃんのことが好きになりました
最初は普通で途中で嫌いになったけど
今は好きになってしまいました
Y子ちゃんはぼくのことをどう思っていますか?
Y子ちゃんの気持ちが知りたいです
もし良かったら返事をください

そう年賀状に綴ったのです

どう考えてもおかしな行動でした
年賀はがきですから当然誰でもその告白文を見れる状態なのに
そんなことを1ミリも気にも止めず
ただただ気持ちを伝えたくてラブレターとして年賀状を書いたのでした
そしてそのままの勢いでポストへ投函しました

1月3日、彼女から年賀状が届きました

内容はこんな風でした

あけましておめでとうございます
私は元気です
とみーくんが元気そうで良かったです
とみーくんからもらった年賀状は読みました
だけどとみーくんの気持ちには答えられません
ごめんなさい
私は私立の〇〇中学校に行くことにしました
中学校は別々になるけどそれまでの間
これまで通り仲良くしてください
冬休みが終わったらまた学校で会いましょう
Y子

当たり前ですがフラれました

ぼくは
ぼくはその年賀状を母親から受け取りました
母親の
あの得も言えぬ表情で息子を見る目は今でも忘れられません

母親から年賀状を受け取りその場でそれを読み終えたあと
ぼくはその年賀状持ってライターを手に取り
少し離れた河川敷まで行きました

川の土手に座りライターに火を灯し
年賀状を燃やしている間
数日前のことを色々と回想しまた想像しました

年賀状でラブレターを書いたこと
それに切手を貼ったこと
それをそのままポストに入れたこと
年賀状に判を押した郵便屋さんのこと
それを配達した郵便配達員のこと
年賀状を受け取った彼女や彼女の家族のこと
ぼくの年賀状を読んだ上で年賀状を書いている彼女のこと
書いた年賀状を彼女がポストに投函したときのこと
返ってきた年賀状をポストで手に取った母親のこと
その年賀状を息子に渡すときの母親の顔
そして年賀状を受け取ったぼく




うわあああああああああああああっっっ!!!




なんで年賀状で送ったんだよおおお
どうしてこんなことしたんだよおおおお
キモすぎるだろ!だいたい!まじでさあああああああああ
頭おかしいじゃん!どうかんがえてもさああああああああああ
よく考えろよ!何してんだよ!!!バカかよ!!!!
もう氏ねよ!!!氏ね氏ね氏ね氏ね氏ね!
しんじまえ!!!くっそ!くそくそくそくそsくそあがいtげdhjぃk
全部、全部、Y子ちゃんのせいだ!!
あの日Y子ちゃんがあんなゆるゆるのTシャツさえ着てこなければ
いや、あの日Y子ちゃんがスポブラさえ付けてれば
そうだ!スポブラさえ付けていれば
あんなことやこんなことにならずに済んだのにさあああああああ!
何やってんだよ一体・・・

死にたくなりました
あの日、生まれて初めて死にたくなりました
フラれたショックよりも
なんでこんな脳みそなんだと
どうしてバグっちゃったのかと
自分自身を恨み
このまま冷たく淀んだ冬の川に飛び込んで
そのまま死んでしまいたい
死んじまえばいいんだと

泣きました
人生ってなんだろう
そんなことも考えました
たぶん3時間くらい考えて夕日が沈み始め
夕方になって体が冷え切って
耐えきれなくなって

結局、ぼくは死ぬ勇気もなく
そのままトボトボと家路につき
無言で夕飯を食べて
無表情で正月特番を見て
風呂に入って温まって
疲れて普通に寝ました

幸い
家族は誰もそのことについて話題にせずいてくれました
親は年賀状でラブレターを送った息子をどう思ったでしょうね
今となってはどうでもいいことですが
頭のおかしい子に育ったんじゃないかと思ったかもしれません

そして冬休みも終わり
最初の登校日には何事もなかったかのようにY子ちゃんと挨拶し
普段どおり普通に接しました

彼女は怖かったんじゃないかなと思います
突然、年賀状で変なラブレターが送られてきて
気持ち悪かったんだと思います
変な逆恨みでもされたらとんでもない
だから「冬休みが終わっても今まで通り仲良くしようね」と
そう返事に書いたのかもしれません

そうして何事もなく彼女とはこれまで通り普通に接し
月日は過ぎ、卒業式の日を迎えました

式も終わりこれで彼女と会う日も最後となったとき
みんな各々が運動場で記念撮影や最後のお別れをしているそのとき
ぼくだけは友達との最後のお別れそっちのけで
あの過去をどうやって自分なりに最終処分しようかと考えていました

そうです
Y子ちゃんのおっぱいを見たことをです
ぼくは運動場にいた彼女を見つけ
彼女が友達と記念撮影をしたり
お別れを言い合っているのを見ていました
彼女が友達と離れて一人になるその時を
ずっと待っていました

そして遂にその瞬間が来たのでした
ぼくは急いで彼女に駆け寄り
こう口火を切ったのでした

Y子ちゃん!
ぼくはY子ちゃんにどうしても謝らないといけないことがあるんだ!
あの年賀状のことじゃないよ!
いや年賀状のこともだけどね・・
それよりももっと酷いことをしたの!ぼくは
Y子ちゃんに
覚えてる?夏休み前に

朝Y子ちゃんが教室に来たときにね
Y子ちゃんゆるゆるのTシャツ着てたのね
それでぼく、見ちゃったの
あれあの、む、胸をね、胸が見えちゃったの!
偶然だよ!?
そ、そう偶然だったの偶然!けど
それでね、それも謝らないといけないことなんだけどね

ぼくはそのあとその胸のね
その、その胸のあの、先のあの
その、そそのち、ちく、ちくびも見ちゃったの!
それはわざと、わざとだったのっ!
あとでわざと見たの!
覗いて・・
見ちゃったの
だから!!!!
だからごめ、ごめんなさい!!
ぼく、ごめんさない!!!!ごめんなさい!!!ごめんなさああい!!
ごめんなさああああいいい!!!ごめんなざあああああいいい!!!
うわああああああああうええええええ・・・

ぼくはそのままその場で泣き崩れました
地面に膝をつき彼女の顔を見つめて号泣しました
涙が溢れ出し鼻水が止まらず嗚咽するぼくを

そんなぼくをY子ちゃんは困った表情で見つめ返し
少し微笑んでからぼくの肩にそっと手を掛け
優しい声で

とみーくんだいじょうぶ?
もういいよ、もういいから
私はとみーくんの言ってること
よくわかんないし
けどもう大丈夫だし
忘れたから
ね、気にしないで
とみーくん、私は大丈夫
だからとみーくん、立って
もう泣かないで、もういいよ
わかったから
ね?はい、これで拭いて

彼女はそう言ってスカートからハンカチを出し
ぼくの顔に近づけてそのまま涙を拭いて渡してくれました

ぼくがいきなり泣き出したので
辺りが少しざわついたのはなんとなく覚えています

彼女はそのハンカチを渡したあと
トイレまでぼくを連れて行ってくれました
洗面所で顔を洗ってトイレから出ると
そこにまだ彼女が立って待ってくれていました
少し離れた場所に彼女のお母さんの姿も見えました

黙ってハンカチを返そうとしましたが
彼女は

それはとみーくんにあげる
それじゃ、私達もう行かなきゃ行けないから
とみーくんも元気でね
わたし嬉しかったよ、けどごめんね
じゃ、またいつか、ね
バイバイ

そう言って彼女は母親の方へと颯爽と駆けていきました
去り際に
夏にはまだ短かった彼女の髪が
伸びてキレイなロングヘアーになっていたことに気づき
それが風に靡いているのがとても綺麗に見えて
あまりにもその後ろ姿が清々しくて
何もかもが許されたような
或いは祝福されたような
まだ少し肌寒い空気と
煌々とした早春の光に照らされて
心にあったすべての靄が
すべてが溶けだして
消えていくような
そんな気がしました

こうして、ぼくの小学校生活は終わりました
結局、これが自然な恋愛感情だったのか
自分が生み出した成りすましの歪んだ憎悪だったのか
いまでも良く分かりませんが

それはきっと
「青春パラフィリア」

このお話は、ここまでです
最後まで読んでくれてありがとう
この続きは・・またいつか


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夏の思い出

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