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日本は世界屈指の食糧自給国家だった!?

 一般に、日本は食糧自給率が低い国であると言われている。実際、カロリーベースの食糧自給率は36%[1]、世界で見れば179ヵ国中127位(偏差値38.5)、OECD加盟国38ヵ国内に限っても32位(偏差値39.6)と低水準である[2]。

表1 食糧自給率[2]

 それじゃあ、表題は嘘ではないかと思われるだろうが、ある一面では日本は世界でも指折りの食糧自給能力を誇る国であるのだ。これを深堀することで、日本の自給率に関する課題の根底を考えたい。


そもそも食糧自給率とはなんぞや?

 食糧自給率を探るのだから、まずは食糧自給率の中身を知らなければ論ずることはできない。
 食糧自給率の計算式は2通りある。カロリーベース生産額ベースだ。カロリーベースは総人口が消費する熱量(kcal)に対して自国の生産する熱量(kcal)の割合だ。計算式は以下のようになる

生産額ベースは付加価値の高い作物を生産しているかどうかである。計算式は以下

 霞を食べる仙人とは違い、我々はカロリーが足りなければ飢えるのみであるので、生産額に関して今回は言及はしない(食糧輸入のための外貨獲得の重要な手段であるのは確かである)。よって、本文において以降に自給率と書く場合、基本的に前者のカロリーベース食糧自給率、特に穀物自給率を指すこととする。

緑豊かな日本と黄緑豊かな欧米

 まずは以下の衛星写真を見てほしい。日本と欧州である。これを見ると緑の濃さの違いが見て取れる。拡大写真を見てもわかるように衛星写真では濃緑は森林、黄緑は田畑である。


図1 欧州と日本 同縮尺[4]

 この違いがどこから来るのか?それは地形である。
 日本は山がちな地形である。それは、日本列島は環太平洋造山帯でプレート境界に位置するためであり、平地が少なく急峻な地形は耕作に向かない。
 反対に欧州は平坦な地形である。古く安定した地質で風化の進んでいる為であり、なだらかな地形は耕作向きの地形だ。

 ここで、G7の国土に占める森林の面積割合[3]と耕地面積の割合[3]、そして食糧自給率を見てみよう

主要7ヵ国

 主要国の中では日本だけが国土の70%近くを森林が占めており、耕作地割合も森林割合に反比例して少なく見える。カナダの耕作地面積割合が小さいのは凍土や寒冷地地帯などで地形や森林とは別の影響で耕作に向かない土地が大きいからと考えられる。そのくせ自給率が高いのは少ない人口(3800万人)とバカでかい面積(世界2位)に由来する物だと考えられる。

 とはいえ、7ヵ国では傾向を読むためのデータ不足感が否めない。傾向を読み解くためにもう少し多くの国で比較する必要がある。以下は信頼のおけるデータソースとしてOECD加盟国を比較した。

OECD加盟国
OECD加盟国の森林/耕地割合

 以上のデータより、森林面積と耕地面積の関係をみると耕地面積と森林面積に負の相関があることがわかる。相関から外れた左下の5点はカナダ(寒冷)、ノルウェー(寒冷)、アイスランド(寒冷)、チリ(砂漠)、イスラエル(国土小さい、砂漠)と森林ではない耕作に不向きな環境である。

 これら相関関係からは日本の耕地面積が少ない理由は地形によるものであり、地形と耕作地の関係は妥当な水準であることがわかった。次項では、耕地面積の少ない傾向を持つ国であるフィンランド、スウェーデン、韓国、日本、スロベニアを比較してみる。

人が多すぎる

森林割合6-7割の国家比較

 前掲のデータより森林面積割合に比して耕地面積減少する。しかし、食糧自給率を比較すると耕地面積の最も少ない北欧2か国は100%を超え、スロベニアも54%と日本韓国の約25%と比較して耕地面積のわりに食糧自給率が高いように見える。何が違うのだろうか?
 さて、ここで一度、自給率の計算式を見てみよう

 耕地面積は国産熱量に関係する変数である。これが低い水準であるとしたら、食糧自給率を上げるためには消費熱量を下げる必要がある。しかし、人間一人当たりの消費熱量は一定である。

つまり、そもそも北欧2か国とスロベニアは人口が少ないから食糧自給率が高いと考えることができる。

OECD諸国の1万人当たりの耕地面積と食糧自給率の関係
(オーストラリア/イスラエル/ニュージーランドは枠外)

 一万人当たりの耕地面積を比較すると日本と韓国が3.5km2/万人である一方で、フィンランド42.0km2/万人、スウェーデン31.8km2/万人はスロベニアは23.3km2/万人とその差は圧倒的だ。

 そう、そもそも日本は人が多すぎるのである。しかし、ここで一つ注目したい点がある。それは耕作地の生産効率だ。

天穂の国

 耕作地の面積が食糧自給率と相関があることは先述のとおりであるが、その耕作効率を食糧自給率の計算式にあてはめると以下のようになる。

OECD諸国の単位面積当たりの耕作効率

 OECD加盟国で耕地1km2当たりの生産効率を見ると、首位の日本1,775,295(kcal/km2)に対して、次点韓国(89.5%)、3、4位は欧州農業大国ドイツ(69.7%)フランス(55.2%)と続き、穀物輸出大国はどれもカナダ(13.8%)アメリカ(12.5%)オーストラリア(2%)と日本が圧倒的な生産効率を誇ることがわかる。

世界の単位面積当たりの耕作効率

 これを全世界に広げると日本は、バングラディシュ、エジプト、ベトナム、ルワンダ、北朝鮮(ホンマか?)に次ぐ6位である。つまり、日本の農業は世界トップレベルの農業生産効率を誇る国ともいえるのだ。

どくさいスイッチ

 それでは、世界トップレベルの生産効率を誇る日本で何をすれば食糧自給率を上げることが、あわよくば100%とすることができるのだろうか?

もう一度食糧自給率の計算式を確認してみよう

生産効率は世界トップクラス、耕地面積はほぼ頭打ち、すると取りうる手は2つのみである。

①1億総仙人化
 分母の一人当たりの消費熱量を低減すると自給率が上がる。つまり、仙人になって霞を食べることで消費熱量を0にすることで自給率が#DIV/0!となる。

②人を減らす
 これまでの議論を見ての通り日本はどうやら国土に対して人口が多すぎるらしい。そしたらその人数までスリム化すると自給率100%を達成できるのだろうか…? 答えは3566万人、ちなみに首都圏の人口が3814万人なのでそれ以下ということになる。日本は関東すら養い切れていないのだ…

 よく話題にされるのが耕作放棄地だが、平成26年度で27.6万haで再生可能なものは13.2万haであり、総耕地面積449.6万haに対して3%程度である[4]。この農耕地の減少の主な原因は宅地や工場用地への転用で、昭和56年の608万haから平成26年までの減少分159万ha(約25%)のうち約50%は、この宅地や工場用地への転用である[5]。

 耕作放棄地によってどれだけの耕地が失われたかは統計が平成5年以降であることからそれ以前についても考えるべきで、少なくとも20%程度は耕作放棄地と考えても良いのではないだろうか? ただ、交通の便の悪い農村の消滅やダム建設による消失など、戦後高度成長期からバブル前後までの耕作放棄地が再開墾可能であるかは疑問が残る。恐らくそのために、農林水産省も耕作放棄地を27.6万ha程度と推計しているのだろう。

 これによって何が言いたいかというと、そんなに耕作地も増やせないということだ。

余談

 日本の自給力を論ずるにあたって、その数字をわかりやすさを優先し、ランキング的に示した。しかし、これは実態に沿わない場合がある。例えば、30人クラスで29人が100点を取った場合、99点は30位となり実態以上に下位に見られることとなる。そのためみんな大好き偏差値で見る方がその実態に近い数字で比較することができる。

日本に関して偏差値
OECD加盟国内では
食糧自給率:39.6 1km2当たりの熱量生産効率:66.6
全世界では
食糧自給率:43.0 1km2当たりの熱量生産効率:56.0

以上

参考文献
[1]農林水産省,"その1:食料自給率って何?日本はどのくらい?",https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/ohanasi01/01-01.html
[2]農林水産省,"食糧需給表".https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/attach/pdf/013-6.pdf
[3]The World Rankings,http://top10.sakura.ne.jp/IBRD-AG-LND-FRST-ZS.html
[4]農林水産省,"農地・耕作放棄地面積の推移",https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/2030tf/281114/shiryou1_2.pdf
[5]農林水産省,"農地転用等の状況について",https://www.maff.go.jp/j/nousin/noukei/totiriyo/tenyou_kisei/270403/pdf/sankou2.pdf


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