私がイギリスに語学留学した時に滞在したホームステイ先は、ホストマザー（以下おばあ）1人と猫1匹に留学生3人（私を含む）で、計4人+1匹暮らしでした。
留学生は各々の留学期間に合わせて出入りするので、私は半年の滞在期間中、ブラジル人、韓国人、イタリア人、台湾人と代わる代わる一つ屋根の下でした。

（私にとって）初期メンバーだった韓国人男性のハウスメイトが5月末に帰国した後、空き部屋にやってきたのがイタリア人のパオロ Paoloでした。
パオロは9月に大学卒業を控えた22〜23歳で、夏休み的な期間を利用して、6月と7月の2ヶ月間、語学留学に来ていました。

パオロはローマ出身。
正確なルーツは本人に聞かなかったのでわかりませんが、パオロは実にローマっぽいというか、まさに古代ローマ彫刻が現実に飛び出してきたような掘りの深い顔をしていました。けれど身長はそんなに高くなく（おそらく170cmないくらい）、時おり少年のような笑顔を見せるので、造形の美しさと愛らしさが同居したような外見でした。一緒に海に行った時、彼のスイミング姿は動く彫刻のようでした。そしてマッチョ。

それでいて中身も好青年。
朝は必ずおばあや私たちに会うと、立ち止まって"Good morning"と挨拶し（私は歩きながらHiで済ませていた）、ディナーの後も必ずおばあに向かって"Thank you for dinner”（私は歩きながらThank youだけ）と言うような、とても礼儀正しい人でした。
体調不良以外で学校を休むことはなく、ましてや遅刻もなく、夜はパブにもクラブにも行かず、放課後は友人とフットサル、お休みの日は公園でジョギングか海でひと泳ぎ、というヘルシーな留学生活を送っていて、めちゃくちゃ真面目でした。

レイシストのつもりはないのですが、パオロと出会うまで、私の中のイタリア人のイメージは完全にジローラモさんで固まっていて、イタリア人はみんな明るく陽気で情熱的、そしてそこそこいい加減、だと思っていたので、真面目で礼儀正しいイタリア人っているんだなあ、と驚いた記憶があります。

さらに彼は振る舞いが紳士。
家でも学校でも、女性と同じタイミングでドアをくぐる時は、パオロがドアを押さえてどうぞのポーズ。バスを降りる時も、ディナーでお水を注ぐ時も、必ずレディファーストでした。
「なんでそんなに自然にレディファーストができるの？」と聞いたところ、「イタリアの男は6歳くらいから紳士のマナーを父親から徹底的に教え込まれるんだ。僕にはお姉ちゃんもいたしね。だから体で覚えたよ」と教えてくれました。

そんな彼には愛する彼女がイタリアにいて、毎晩のように自室で長電話をしていました。（壁が薄いから声がよく聞こえる。）
パオロたちはおそらくイタリア語で話していたのでどんな会話だったのかわかりませんが、何をそんな話すことがあるんだろう、といつも不思議でした。

お酒を飲んでる姿を見たことのないパオロをパブに誘ったこともあります。
その日は日本人、韓国人、台湾人の留学生が集まったアジアンクラブみたいな会で（民族意識みたいのがあってアジア人を集めたわけでなく、普段から仲良くしていて声をかけやすいから集まった）、パオロも呼んでわいわい飲みました。
面白かったのはパオロが「日本人、韓国人、台湾人の顔が全く見分けがつかない！」と言っていたことです。私もドイツ人、スイス人、オーストリア人が並んでいても見分けられる気がしませんので、さもありなんと思いました。（パオロはなんかイタリア！って感じがするので直感でわかる。）

かわいそうなことにパオロはその会合でどこからかコロナをもらってきてしまい、2ヶ月しかない留学期間のうち1週間を部屋で過ごさなくてはいけなくなりました。その一件のせいかわかりませんが、以降は誘っても「うーん、いいや」って感じであんまり来てくれなかったです。（帰国前のお別れ飲み会には来てくれた。）

彼は帰国前のある日「帰ったら仕事を探さなくちゃいけないから、帰りたくないなあ」とぼやいていました。
聞くとイタリアの就活事情は非常に厳しく（そもそも失業率が高い）、大学卒業後に日本のような新卒一括採用システムもないので、自力かコネで仕事を探してくるしかないそうです。それで希望の職が見つかるか、そしてそこに就けるのか、全く先が見えないと嘆いていました。

でもインスタで彼の様子を見る限り、彼女とは変わらずラブラブで、友だちとも楽しそうにしている写真が多いので、元気にやっているようです。

彼の帰国後、私がヨーロッパ周遊旅行でローマに寄った時、パオロに連絡してみました。
残念ながら旅行期間と彼の予定が合わずで現地では会えなかったのですが、会えない代わりに、とローマ市内の美味しいお店を紹介してくれました。

それがこのピッツェリア。
Gino Sorbillo
https://www.sorbillo.it/gino-sorbillo-pizza-gourmand-roma/

さすがローマっ子がおすすめしてくれるピッツァ屋さんなだけあってとっても美味しかったです。地元人にも美味しいと評判らしい。

そしてびっくりしたのが、こちらのお店、日本にもあるということ。
Gino Sorbillo Artista Pizza Napoletana

パオロに教えてたら「えっ！マジで？」みたいな反応でした。
そういえばまだ行けてないなあ。
ピッツァの写真をパオロに送らなくちゃ。

ではまた。