幼児教育の理念と現実

変化しつづける現代そして未来では、必要な人材も変化していきます。

言われたことをこなすだけの人の価値は低下し、自ら考え行動できる人の価値が上がっていきます。

当然、学校教育も変革すべきときを迎えています。従順でお利口なことに価値があると刷り込むような現在の教育では、将来活躍するはずの芽を潰しかねません。

学校教育が変わっていくうえで参考になるのは、保育園・幼稚園で行われる幼児教育であると私は考えます。

幼児教育の理念

タイムラインに流れてきた熊本大学教育学部の先生のツイートに強烈な違和感を抱き、引用してツイートしたところ、やはり多くの共感の声をいただきました。

社会に出る若者たちが「指示待ち人間」になっていることを、小学校が幼稚園や保育園のせいにしている(ことが結構多い)とのことですが、これを幼児教育の専門家たちが聞いたら「小学校に言われる筋合いはない」と憤慨するでしょう。

「指示待ち人間」とは主体性がない人間のことだと思いますが、幼児教育は小学校とは比べ物にならないほど主体性を大切にした教育をしているからです。


指示待ち人間を幼児教育のせいにしている小学校関係者を見たことはないのですが、幼児教育への理解不足から、

「幼稚園・保育園はただ遊ばせているだけ」
「授業が出来ないから仕方なく別の方法で教育している」
「幼児教育では小学校教育を受ける準備をしている(べき)」

などの誤解をしている方はどうやらいるようです。

幼児教育が理想としているのは、子どもたちひとりひとりが自ら興味・関心を抱いたことに夢中になって遊び、それによって学んでいくことです。

遊びを通じた学びの中には、動物や植物と触れ合ったり数や言葉を扱ったりと、小学校以降の教科学習に繋がるものも含まれます。しかし、それ以上に大切な学びとは、自立心や社会性、思考力などの「非認知的能力」なのです。この非認知的能力こそ、テクノロジーが急速に発展する社会のなかでより重要となる力です。(非認知的能力については、「大学受験に必要なのは非認知的能力か先取り学習か」でも触れています。)

非認知的能力は授業ではなかなか伸びません。「頑張ることは大切」、「友だちと協力しあおう」、「自分の頭で考えよう」と黒板に書いて子どもたちに復唱させても身につきません。自分がやりたいと心動かされることを成し遂げるために頑張り、協力し、考えることを通して伸びていくものです。だから遊ぶのです。

ただ放任して遊ばせていればよいわけではありません。遊びに連続性・関連性・発展性が生まれるよう、環境を構成し、適切に援助し、効果的に学びが得られるよう仕向けるのです。そうすることで、子どもたちは自由に遊んでいるつもりでも、いつの間にか学んでいるというわけです。

相手はひとりひとりに個性のある子どもですから、計画どおりには進みません。その日その時の子どもたちの様子や反応を見ながら即興で作り上げていくものです。

保育園や幼稚園の先生は子どもたちと楽しく呑気に遊んでいるだけのように見えるかもしれませんが、実はかなり高度なスキルを求められているのです。

幼児教育の現実

子どもたちの主体的な活動を通して学ばせるという幼児教育の理念は、あらゆる教育者・指導者が目指すべき理想です。教科学習も受験勉強も、スポーツも仕事も、努力を努力と思わず、まるで遊ぶように没頭する人間が圧倒的に伸びるからです。

ただ、その素晴らしい理念を全ての園で実現出来ているかというと、現実はそうではありません。

幼稚園や保育園の中には、幼児教育の理念を置き去りにし、まるで小学校予備校のように窮屈な教育をしている園もあると聞きます。早くから算数や英語などの先取り学習を施したいと考える保護者が一定割合存在していることも関連があるのでしょう。

また、経営規模拡大や園長など一部の職員の報酬を優先し、現場の先生の人員や給与を極限まで絞り込んでいる「ブラック園」なんて呼ばれる園も存在します。そのような環境では先生方に幼児教育の理念を追求する余裕はないでしょう。

きっとそれらの園は少数派で、園長はじめ先生方がよりよい教育を目指している園が大半ですが、それでも国の定める最低基準の人員配置(3歳児で1:20、4,5歳児で1:30)では厳しいと私は感じています。

この基準は保育が「ただ子どもを預かっていればいい」と考えられていた時代から変わっていない古いもので、現代の幼児教育の理念を実現するために十分な人員配置にはなっていません。かなり知識経験技能の高い先生でないと、全ての子どもたちに目を行き届かせ、適切に関わるのは難しいはずです。

子どもたちの学びだけではなく、健康や安全にも配慮しなければなりませんし、運動会や発表会があれば保護者に見せられるくらいには指導しなければなりません。保護者対応も重要な仕事のひとつですし、そのほか雑務も非常に多いと聞いています。

幼児教育は素晴らしい理念がありながら、それを追い求めるためのリソースは不十分です。人員も給与も十分でないなか、現場の先生方の努力と献身で、出来る範囲でよりよい教育を目指しているのが現実です。

本来であれば国をはじめとする行政が幼児教育の充実に力を注いでいくべきです。しかし、ご存知のとおり国は無償化に躍起になっていますし、地方自治体の多くも気になるのはまず待機児童の数でしょうか。

無償化も待機児童減少も間違いではないと思いますが、より優先すべきことがあるように思います。

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