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『関心領域』を観てきた!

先週末、友だちがカンヌで賞を取った映画が近所の映画館に来てるので行きたいという。
内容を聞いたらアウシュビッツ関連だし気分が暗くなりそうだからイヤだな、と思っていたのですけどね。

そしたら日曜にアカデミー賞で国際長編映画賞、音響賞を取ったというので戦々恐々としながら観に行ってきました。


関心と無関心

日本語タイトルは『関心領域』。
イタリア語になると『La zone d'interesse』。
原題は英語で『The zone of interest』ということでわりと直訳ですね。

ほら、日本語タイトルになったとたん、原題とは似ても似つかなくなることってあるじゃないですか。
今回はそのまんま。

「関心領域」という言葉だけ聞くとよく分かりませんが、今回ばかりは変えるわけにいかなかったのだと思います。
原題自体が当時のアウシュビッツにおいて使われていたドイツ語の英訳だそうで、収容所の周りに造られたユダヤ人以外の人々の暮らすエリアを総称してそう呼んでいたそうです。

インタレストゾーンで関心のあるゾーン。
収容所はその反対の無関心ゾーンということでしょうか。

ケンカや意地悪と言ったイジメの中で最も堪えるのが「しかと」と言いますけど、それは無関心さを見せつける行為ですよね。
収容所もそこにいる人々も、インタレストゾーンの人々にとっては無関心の中にいる、ということかと思いました。

音響賞だけど音楽がない

『関心領域』は前情報からして難解な映画なんだろうなと思ってました。
なので事前に日本語でさまざまな情報をゲット。
もしかしたら原語の英語上映でイタリア語字幕かもしれません。
少しでも理解しやすくしておこうと思って。

でもイタリア語吹き替え上映だったので良かったです。
逆にコレ、字幕をつけるのが難しいんじゃないかと思いました。
ずっと遠くのほうから聞こえる小さな声とか、途切れ途切れで聞こえてくる会話とか、どこまで文字にして拾うのかなと。

事前情報によると音楽はほとんど付けられていないということでした。
よくある感情や情景を表現するような音楽が一切排除されているのです。
そしてその効果がホントにすごかった!

アウシュビッツから漏れ聞こえてくる音、風の吹く音、水の流れる音、鳥のさえずりなど、環境音を丁寧につくり上げ、それをそのまま観客に聴かせるのです。
まるでその場にいるような臨場感を味わうことができました。

無関心にもほどがある

何の説明もなく情景音楽もなく、ただ淡々と日常が映し出されていくだけなのに見終わった後の圧倒的な重苦しさがハンパなかったです。
さすがのイタリア人がシーンとしたまま席を立ち、何も言わぬまま会場を後にしましたからね。
たいてい誰かが感想を言い始めて騒がしくなるのに!

主役はアウシュビッツの収容所の隣に整備された家の住人たちです。
収容されている人々は一切登場しません。
2つの領域を隔てる壁の向こうにそびえ立つ収容所の建物群の屋根と煙突、そして煙突から立ち上る煙が見えるぐらい。

住人たちはちょっとした工場があるぐらいにしか思っていない、または思わないようにしているのでしょうね。
そうしないと精神崩壊すると思います。

とくに女主人のエゴイストさに驚かされました。
アウシュビッツで働いているご主人のほうが日常的に収容者たちと接しているわけで、まだ関心が失われていなかったんじゃないかな。
女主人は自分の家と庭と子どもたちにしか関心がありません。
実際に目にしていないことは、彼女にとってこの世に存在しないも同然といった感じ。
まさに究極の「無関心」です。

ブラッチャーノの対岸の町にある小さな映画館
観終わった後も次の回の人の行列ができてました
めっちゃ小さいスクリーン
でも全体的なデザインはとてもカワイイ

鑑賞後の注意点

とにかく重い映画です。
無防備に観に行くことはオススメしません(汗。
それなりの覚悟を持って挑まないと精神的にやられちゃうと思います。

そして鑑賞後は、感想を誰かに吐き出しましょう。
私みたいにnoteに書くのもいいですね。
とにかく自分の中にため込んだらトラウマになりそうなレベルです。

私は友だち4人で観に行ったのですけど、帰りの車の中で誰も映画の感想を言いませんでした!
午後の回だったので、このあと改めて集合して一緒に夕ごはんするのですけどね。
きっとそこで色んな意見が出るでしょう。

ヨーロッパの人々にとってアウシュビッツの存在は、日本人とはまた異なる感情をもって受け止められていると思います。
アングロサクソン系、スラブ系、ラテン系など多くの民族が混在してるので。
そういえば映画館にはラテン系以外の人種ってワタシだけだったかも!

ドイツ女子、ポーランド女子にとっては、また全く違う視点で語られるべき映画なんじゃないかなと思いました。
今度彼女たちに会ったら聞いてみようっと。

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