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美容師との会話が苦手なのはアーティストの邪魔をしたくないから

髪を切ってもらっているとき、美容師との会話が苦手だという人は多い。

そういう話はたくさん聞くし、最近はそのあたりの配慮からか、アンケート用紙のようなもので事前に希望を聴取したり、会話が不得意そうな、いわゆる陰の気をまといし者にはあまりしつこく話しかけないようにするといった対応をしている美容室もあると聞く。

かくゆう僕も美容師との会話が苦手ではあるのだけど、その理由についてはよくわかっていなかった。

個人的によく聞くのは、

「共通の話題がないと何を話していいかわからない」
「人見知りだから話せない」
「表面的な会話がそもそも苦手」
「髪を切ってもらうのに会話をする必要性がわからない」
「美容師の会話のノリが嫌い」
「はさみがこわい」

といったあたり。
少々過激な意見が混ざっているのは、僕の交友関係の狭さと偏りがなした事故のようなものなので、美容師の方がもしこれを読んでいても落ち込まないでほしい。「そんなやつ美容院にいくな」とかそういう正論もついでにやめてあげてほしい。

なるほどたしかに。
よく知らん人と半ば強制的に会話を強いられる状況は、苦手とする人が多いのもうなずける。僕もそういう感覚をもっているから苦手なのかもしれない。

と思いながら、この前、髪を切りに行ったとき、なんだかそういうわけでもないような気がしてきた。

僕はもう3年ほど同じ美容室に通っていて、はじめは担当者はまちまちだったけれど、ある程度通った頃には特に希望したわけでもないのに同じ人が切ってくれるようになった。落ち着いた雰囲気のお兄さんで、腕も確かだったし、決してノリが鬱陶しいとかそんなこともなく、僕はその人が嫌いではなかった。

でも、相変わらずカット中の会話は苦手だった。

お兄さんもそれをなんとなく察してるのか、たまに話しかけてくることはあるものの、おおむね黙々と髪の毛を切りきざんでいる。その様はさながら新進気鋭の若手彫刻家が作品を造り上げているかのよう。

そのとき、はたと気づいた。

なるほどそういうことか。

僕は、美容師が髪を切っている姿を、アーティストが作品をつくっているのを眺める感覚でみていたのだ。

おーけー、大丈夫。いまあなたがキョトンとしているのもわかってる。ゆっくり、ゆっくりでいいからついてきてほしい。

逆にアーティストの側から説明しよう。

あなたがたまたま、路上でパフォーマンスをするアーティストに遭遇したとしよう。なんでもいい。目の前ででっかい発泡スチロールをチェーンソーで削って等身大フィギュアをつくりあげる人とか、マンホールに魔方陣を描いて異世界へ転送される瞬間のムーブを路上へのペンキの落書きで表現しようとしてる人とか。ちなみにそんなやつがいたらめちゃめちゃ観たいから発見したらだれかおしえてくれ。

なんにせよ、目の前で何かを創作してみせるアーティストがいたら、とりあえず足止めて観るでしょ、みんな。なんも言わずに。

そんな最中、「すげえ」とか感嘆を漏らすことはあるかもしれないけど、作品づくりの邪魔にならないよう、なるだけ私語は控えると思うんですよ。

ましてや、アーティスト本人と会話なんてしないはず。

アーティスト本人から「最近どうすか」とか突然話しかけられたら、いったいどれだけの人が上手に、自然な会話にもっていけるというのか。

この感覚。これを髪の毛切られてる間抱きつづけているということになる。そんな状況での会話が得意なやつの方がおかしい。絶対映画みてるときぺちゃくちゃしゃべるタイプだろ。

それに加えて、目の前で作品をつくりあげているのは、3年近く新作をリアルタイムで追い続けるくらい思い入れのある、尊敬すべきクリエイターだ。作品と関係ない話をして茶々を入れるなんて、恐れ多くてできるわけがない。僕のせいで新作のクオリティが落ちたりなんかしたら、と思うとぞっとする。

そんな気持ちで作品づくりに没頭する期待の若手ヘアクリエイティブパフォーマーに熱いまなざしを送っていると、

「お客さん、どうかしました?」

突然、話しかけられた。めちゃくちゃびっくりした。いいから作品づくりに集中してよ。邪魔しないから。あれ、もしかしていま僕邪魔になってる?なってるね、ごめんなさい。

いや、かといって作品をつくりあげる貴重な瞬間を無視して、身の丈に合わないファッション誌やら、買ったその日しか満足感のなさそうな雑貨ばかり紹介するカタログ誌を読みふけるだなんて、そんなもったいないこと、できない。

じぃっと、アート観賞を楽しむのも邪魔になるとあらば。

いったい。

いったい僕はどうすればいいんでしょうか。

だれかたすけて。

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