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賄いのスゝメ

※ こちらの内容は、ウェブサイト(現在は閉鎖)にて2016年~2019年に掲載したものを再投稿しています。内容等、現在とは異なる部分があります。ご了承ください。

うちの店は、まだ渋谷のレフェクトワールがないずっと昔から賄い料理を作るという習慣がある(新宿を除く)。人手が足りなかったり忙しいときを除き、基本的には作る。ぼくが作ったり、スタッフが交代で作ったり。
ぼくがお世話になったパン屋さんが1軒しかないため、他所のお店から来たスタッフには必ずというほど訊ねる質問があった。

これまでお昼ご飯はどうしていたの?

圧倒的に多いのが「空いた時間にコンビニでおにぎりとか適当に」という答え。
その他には「前日の残ったパンを」「各自お弁当を持ってくるなり」といったものも。ぼくがお世話になったお店もお弁当を配達してもらっていた。

料理屋さんというのはONとOFFがはっきりとある仕事で、ランチ営業が終わればディナーの準備、仕込みなどをしながら並行して賄いを作るお店がほとんどだと思う。
そしてみんなで一緒に賄いを食べ、夜の営業まで休憩を取るなり試作をしたり、仕込みが残っている人は続きをやるのが一般的なものだと思うけれど、それに比べパン屋さんはONとOFFがほとんどなかったり曖昧だったりする。
お昼ご飯など休憩のために交代で仕事を止めることはあっても、厨房そのものが止まることはその日の仕事が終わるまで恐らくない。これがパン屋さんという仕事の性格なので仕方がない。

そんなパン屋さんでは賄いなんて作っていたら仕事が遅れるし、そんな暇があるなら仕事を進めた方が良いのが現実だろうとは思うけれど、やはり作れるに越したことはないと思う。

この習慣は、ぼくが料理屋さん出身ということに由来するけれど、選択肢も少なく冷たいものを空腹を満たすためだけに食べるのでなく、いろんな料理を温かい状態で食べさせてあげたいし、食に携わる仕事である以上パンに限らずいろんな食に興味を持って欲しいといった思いや狙いもある。
人員や時間に余裕が必要だけれど、賄いを作れるのであればスタッフにとっても良い経験になる。

スタッフはパン職人であり、それを目指してくる子たちなので料理は作ったこともないような子がほとんどだけれど、それも仕事の一つとして賄いを作らせるとどうなるのか?
まず男子の場合だと大抵、得たいの知れない野菜炒めのようなものが出てくる。
そのたびに「少し辛い」「焼き過ぎ」「火が通ってない」「酸味もあった方が美味しい」・・・とアドバイスを繰り返していると、もう目も当てられないような料理を作っていた子がとても美味しい料理を作るようになる。
美味しいと思っときには、そのまま作ったスタッフに伝える。
「美味しい」と言われれば誰だって嬉しいものだし、ぼく自身が作った場合、それが「美味しくない」とは言えないスタッフからの言葉だとわかっていてもそうなのだから。

他にも良いことはたくさんある。
食全般の勉強になるのはもちろん、包丁や火をコントロールすることが上手になるし、それなりの人数分を用意しないといけないので段取りなどを考えるトレーニングにもなる。
そして何よりも食を仕事とする人にとって必要不可欠な味に対する物差し(判断基準)が明確になって来る。
また引き出しが増えることで、中にはこうして賄いで作ったものがサンドイッチの具材として商品化に繋がったこともある。
ちなみにうちの店では美味しくても美味しくなくても食費として1食100円をお給料から引いている。そんなセコイことをしなくても・・・と思うけれど、これは税務上のルールなので100円だけもらうことにしている。

こうしてしばらく賄いを作り続けていると、献立に行き詰まる日が必ず現われるので、毎日家族のためにご飯を作られている主婦の偉大さをきっと思い知らされることになる。普段、当たり前のように思っていることに感謝するきっかけになるかもしれない。

画像は、ぼくが作ってきた賄いの一部。

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