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コントな文学『ベーブ・ルースや軽自動車の所有者のように』

コントな文学『ベーブ・ルースや軽自動車の所有者のように』

元気になってまた大好きな野球がしたい。

その為には手術を受けて病気を治さなくちゃいけない。

でも手術の成功確率は30%だ。

手術を受ける勇気が出ない僕の病室に現れたのはベーブ・ルースのようなホームランバッターじゃなくて軽自動車の所有者でした。

「俺はベーブ・ルースじゃないから君の為にホームランを打つ約束はできない。代わりに今から軽自動車に乗って六本木でナンパをする。もし俺がナンパに成功したら手術を受けてくれないか?」

軽自動車の所有者の年齢は30歳。
年相応で平均的なルックスと身長の一般男性。
所有している中古の白い軽自動車は10年落ちで12万キロ以上走っていた。

あまりに無謀過ぎると、ほとんど自殺行為だって子供の僕でも分かる。

でも軽に乗って六本木でナンパに成功したらホームランを打つよりも凄い事だと思うし、とても勇気がいる挑戦だと思った。

六本木に移動した軽自動車の所有者がナンパする様子を僕は病室でモニタリングした。

「お姉さん、今からドライブ行きませんか?」

「・・・」

港区女子に無視される軽自動車の所有者。 

「お姉さん、今からドライブ行きませんか?」

「頭大丈夫ですか?ここ六本木ですよ?」

港区女子に不審がられる軽自動車の所有者。

「お姉さん、今からドライブ行きませんか?」

「軽のくせに六本木でナンパしてんじゃねえよ」

港区女子にストレートな正論で罵倒される軽自動車の所有者。

チャレンジ開始から5時間が経過した。100人以上の港区女子に声を掛け続ける軽自動車の所有者。

何度失敗しても、何度恥をかいても、何度傷付いたって僕の為に挑み続ける姿に胸が熱くなった。

そして奇跡が起きた!

0時を過ぎた頃、CLUB帰りの泥酔した港区女子を相手に軽自動車の所有者がナンパに成功した。

僕には軽自動車の所有者が、まるで逆転満塁サヨナラホームランを打ったように見えた。

きっとシラフだったら無理だったと思う。

それでも僕は感動で涙していた。

いつか僕も人に勇気を与えられる大人になりたいと思った。

僕はプロ野球選手になった。

今度は僕が、あの日の軽自動車の所有者のように誰かに勇気を与える番だ。

「という訳でサトシ君、僕が今夜の試合でホームランを打ったら勇気を出して手術を受けてくれないか?」


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