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駆けてゆく少年

少年は 樹木と夕陽と詩が好きだった

少年は樹木を愛し過ぎたので
彼の涙は夜露に似ていた
少年は夕陽を愛し過ぎたので
彼の頬は人に遇うと赫くなった
少年の言葉は少し異様だったので
詩を書くことはいつも少年を傷つけた

機械工場の片隅に
油にまみれた工具と
おどけた瞳をもつ仕上工がいて
それがかっての少年だったりする
彼の毎日は同じ繰り返しで
一週間が一年に思えたりする
あすにはきょうがきのうになり
あさってにはあすがきのうになり
きのうときょうとあすのあいだから
たいせつなものがすべりおちる

心にどこまでも拡がった空洞に
彼は幾枚かの紙幣や
プラットホームでしつらえた
架空の愛などを埋め込もうと試み
自分の後をおいかけ
ほとんど全速力で駆けた

そんなとき
ひとつの死が生まれる
あるいは
ひとつの詩が始まる

(詩集『夕陽と少年と樹木の挿話』第3章「逃走する春」に収録した『ひとつの死が生まれて』を改題・改訂した)


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