人生を振り返って見ると、いつも心に飾ってある何枚かの風景がある。
幼稚園の友達とお気に入りの遊具を取り合ったこと、小学校初登校日に校門をくぐった時のざわめきと緊張感、中学一年の時に初対面の不良少年にいきなり殴られたこと、近所の公園、夜気に溶ける桜の香り、好意を示してくれた子を無視してしまった後悔、校庭の隅に作った秘密基地の狭さ、秘密を共有する興奮、幻覚かも知れない心霊現象らしき体験、他にも色々。
全部ずっと忘れずにいる。時々何かの拍子で思い出す、そしてすぐに鮮やかに蘇る。
見たもの、聞いたもの、感じたもの、経験が積み重なって今の自分がいる。今の自分が思うことや感じることは、これまでの経験から大なり小なり何らかの作用を受けている筈だ。決して真っ新な白紙に描かれていく訳ではない。生きている限り重なっていく。たとえ見えなくなったとしてもそれは確かに在る。