例えば都心に生まれ育った人でも、まだ山頂に残雪を戴く山麓に広がる畑を見て、冬の冷気が去った水田に燦めく陽光を見て、畦道に伸びるツクシやフキノトウを見て、春風にふわふわ揺れる白や黄色の蝶を見て、この国の美しさを、心に想起される原風景との重なりを、感じない人はいないのではないだろうか。あの胸の安らぎは、湧き上がる喜びは、日本人でなければ感じ得ないものなのだろうか。あの風景、あの空間の中に居て、邪念を逞しくする事なんて、それこそ悪魔でも出来ないだろう。この星の生命の強さ、美しさ、その象徴たる絵が、日本の原風景とぴたりと一致する、それは奇跡以外の何物でもない。この日本という島々はきっと、自らが住まう場所として、神々が創った箱庭なのではないか、そう思うのは傲慢だろうか。