【随想】芥川龍之介『舞踏会』
この星に現在何十億という人間がいて、過去には千億を超える人間がいて、また未来には恐らくそれ以上の人間がいる。そして夫々が夫々の意識を持ち、即ち世界があり、数秒数分から数年百年の間、生命活動を行い、この宇宙の一部を成していた。少なくとも、地球に生まれた人間でさえ、これ程壮大な規模の世界観を持つ事が出来る。他人を他人と認識し、他人と自分を意識の上で分かつ為には、同じ世界に住みつつも、異なる認識を持っている事を認めなければならない。認識も世界も共有してしまえば、それは同じ人間になってしまうからだ。だから一人の人間にとって、他人は常に不可解であり驚異であり、且つ僅か以上に相似を見出だせる程には近しくなければならない。誰かを好きになる時はきっと、僅かな相似が興味を招き、大きな差違が畏れと興奮を生んでいる。好意と恐怖は殆ど同じ成分で出来ているが、恰もダイヤと黒鉛の様に、結晶の仕方が違う為に全く異なるものに見えるのだ。
素晴らしいことです素晴らしいことです