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詩集

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2016年1月の記事一覧

『ガマ仙人の憂鬱。』

ある雨上がりの夜のこと。

それぞれ違う色の帽子を被った四人の男女が湖のほとりを歩いていた

すると一匹のカエルが茂みの中から現れて、大きくジャンプしながら四人の前を横切っていった

その光景に驚いた四人の男女は、互いに顔を合わせるとすぐに議論を始めた

「カエルだ!カエルが横切ったんだ」と赤い帽子の男が言った

「何を言っているんだ、今のは蛇だ!冥界から来た蛇に違いない」と黒い帽子の男が言った

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『沈黙という言葉。』

言葉の終わりには必ず沈黙がある

沈黙とは言葉への断念ではなく

時には言葉以上の力を持っている

音楽の背後に無音が潜んでいるように

言葉は沈黙によって支えられているが

言葉にとらわれている時には気づかない

言葉が終わった時にはじめて意識されるもの

それが沈黙であり

沈黙とは現象であり

現象とは存在である

沈黙とは決して、言葉の消失のことではない

そんな見すぼらしいものではない

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『おかえり。』

ある日、道路のわきに立っている女性がいた

しばらくすると、小さな女の子が駆け寄ってきて

気づいた女性は満面の笑みを浮かべ、そして手をひろげて

小さな女の子を抱きしめる

「おかえり」

「ただいま」

たったそれだけのことなのに

その光景は名画のように美しく、沈む夕陽のような悠然さでぼくの心を無抵抗にした

優しさが波を打ち、愛しさが凪いでいる

無垢な親と子の間にあるやわらかな伝達

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『世界にひとつだけの草。』

自然界にある植物の全てが

美しい花であるとは限らず

そうである必要もない

あなたは名も無きただの草

大地に根を張り

開くこともなく

実を結ぶこともなく

ただ、天に向かって伸びる

その緑は地球を彩り

雨風から花を守り

虫や動物の寝床となり

やがては土に還っていく

愛でられることもなく

惜しまれることもなく

語り継がれることもない

青き星の巡礼者よ

あなたは名も無きただ

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『ソラ、カガミ。』

夕焼けの空はまるでパレットのようだ

空の青、太陽のオレンジ、灰色がかった雲、すき間から顔を覗かせる月の光

マグリットが魅せられた空の色には調和という賛辞がよく似合う

やがて空全体は紫色に変わり、パレットを閉じるかのように色彩は夜の闇へと戻っていく

それは人間が一日の生活の中で様々な表情を作っているように、この空もまた様々な表情を浮かべる命のアートなのかもしれない

『晴れてよし 曇りてもよ

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『序、破、急。』

目を閉じて 心を開く

心地良い風の匂いがして 水色の音楽家たちが歌う

ここは暗礁に乗り上げた船の上

為す術が無くても 存在が舞う夜の海

序の舞で凪が生まれ

破の舞で波が起きて

急の舞で渦を巻く

海に浮かぶ油のように 私たちは混じり合えない

ならば漂う思念を手放して 身も心も落としてしまおう

その目が開けば 国が開ける

ツクリモノの夜が明けて ツナグモノの世が来たる

願うは共に

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『私は言葉なんて知らなかった。』

まだ言葉なんて知らなかった

あの頃の私は

「いやだ」と言うかわりに思いっきり泣き叫び

「だいすき」と言うかわりにあなたに思いっきり抱きついた

今こうして新しい言葉を覚えるたびに

大事なものが一つ一つ消えていくような気がするの

誰かに罵声を浴びせられた時も

お医者さんに余命を告げられた時だって

言葉に惑わされることもなく、言葉で傷付くこともなかった

この手紙にありったけの言葉を書い

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