完璧主義と市松模様のクッキー
市松模様のクッキーが好きだ。
あの「サクッ」と「カリッ」のあいだの食感。プレーンとココアの絶妙な味わい。大好きなチェック柄を思わせる交互の色合い。
そんな市松模様のクッキーを、家で作れるキットというものを買ってみた。
「アイスボックスクッキー」と呼ばれるクッキーであることを初めて知った。冷凍庫(アイスボックス)で冷やす工程があるからであろう。
ところが。僕はなかなかキットの封を切れずにいた。
うまくできる自信がない。
レシピによれば、生地をこねたあと、平たい延べ棒みたいな形にして冷蔵庫で冷やすという。
それを白黒交互に組み合わせてからカットしていくので、市松模様がたくさんできるという仕組みだ。いわば金太郎飴である。
僕は「こねる系」のものをきちんと四角くするのが苦手で、考えれば考えるほど「四角く成形して冷やす」工程の心理的ハードルが上がっていった。
先延ばしに次ぐ先延ばし。
放置すること、1ヵ月半ほど。
時間が経つにつれ、プレッシャーも上がってくる。
(賞味期限は半年後とはいえ)お菓子作りキットをここまで放置していたことはない。早く作らなければ。
というか、買ったあの瞬間「市松模様のクッキーが食べたい」気分だったから買ったのではないか? 僕は市松模様のクッキーが食べたくて、作れる材料があるのに、なぜまだ食べていないのだろう。
ああでも上手くいかなかったら悲惨な気持ちになることだろう。不均衡な断面を見ながらクッキーを食べることになる。何枚も何枚も……。
僕を救ってくれたのは友人だった。
何気なく「クッキーを焼きたいけどプレッシャーが大きくて焼けない」とこぼしたら、
友人:「初めてこのタイプ(アイスボックスクッキー)を作るんでしょ?」
僕:「そうだよ」
友人:「だったら練習としてやってみたらいいじゃない、実験だよ。2回目3回目に上手くできるようになっていけばいいんだよ」
意訳だが上のようなことを言われ、一気に視界が開けた気がした。
言われてみれば、そうかもしれない。
キットのこの1回で完璧なもの、見た目も味も綺麗なものを作ろうと意気込んでいるから失敗が恐ろしい・許せないのであって、これは最初の実験と思えば急に気が楽になる。
キット自体はそう高額なものではないのだし、再挑戦したければまた買ってくれば良いのだ。
材料の計量さえ間違わなければ、見た目はともかく味はしっかりしたクッキーは作れることだろう。仮に失敗したとしても、「食べられるもの」は作れそうだ。と、思わせてもらった。
友人と別れて帰宅。善は急げでさっそくボウルと泡だて器を用意する。
元来、お菓子作りは好きだし楽しい。しかもクッキーは工程を手早くする方がベターだから、情熱さえ燃え上がれば1時間くらいで作れてしまう。
レシピ通りにバターを計り、たまごを割って混ぜ合わせる。
キットの粉を入れる。かるくこねる。
生地をふたつにわけて片方にココアパウダー。
ラップではさんで延べ棒に成形。
冷凍庫で寝かすあいだに器具を洗う。
延べ棒を切って組み合わせ、(不格好だけど)市松模様に。
再び冷凍。
切って天板に並べていくと、(やはり不格好だけど)白黒の模様がこまこま展開した。まあまあの出来かなと思う。
手作りの特権。焼き立ての少し冷めたやつを食べてみた。
うん、まあ悪くはない。
生地を半分にするはずが、ココアパウダーを混ぜた方だけ少し量が多かったみたいだ。ココア味の強い、市松クッキーになった。
けれどもはしっこがきつね色になったカリッと食感も、かわいらしい市松模様もどきも、思ったほど悲惨な出来ではない。友人に画像を送りつけると綺麗なところを見つけて褒めてくれた。
一度では食べきれないほどたくさんできたので、瓶詰めにするお気に入りのスタイルで保管しようと瓶のふたを開く。
最初で最後だと思うから緊張するのか。機会を作ってまたやろうと思えば良いんだな。意外とちゃんとできたな。
工程を回想しているうちにも、ついつい手が新しいクッキーをつまんでは口に運んでしまう。
瓶に詰められるのは一体何個なんだろう。
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