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【映画雑記】「ヒルコ/妖怪ハンター」/私は14歳の夏を思い出した。

 塚本晋也監督による1991年の映画「ヒルコ/妖怪ハンター」を鑑賞。初見は中学生の時で、最後に観たのも相当前だと記憶する。

 原作は諸星大二郎の漫画「妖怪ハンター」シリーズ。他に映画化されたものでは2005年公開の「奇談」があります。

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異端の考古学者、稗田礼二郎が様々な怪異と遭遇するスキモノにはたまらない傑作です。その原作では喪服のような黒服に長髪、物怖じしない姿勢など、手塚治虫のブラックジャックのような硬質な印象を受けるキャラだった稗田が、塚本監督の脚色により冴えないルックスの柔和で少し寂しげな人物像に書き換えられています。演じるのはなんと沢田研二。ジュリーです。繊細な演技を見せていて驚きました。名優ですね。

 映画は、ある夏の日の一夜に起きた恐怖を、一人の少年を主人公に据えて描きます。ジュリー、もとい稗田礼二郎は途中から登場となります。今回初めて気づいたのですが、彼の登場と退場の仕方が市川崑の「犬神家の一族」の金田一耕助へのオマージュになってます。ジュリーがかぶる帽子と大きなカバンがヒントでした。そうなると稗田の人物像の書き換えも納得がいきます。柔和で寂しげ印象は非常に市川崑版の金田一像に近いものです。

 初めて観たのは中学生の時だったけど、今回はその頃の夏を肌感覚で思い出さずにいられなかった。夏って喪失感を感じずにはいられないどこか寂しい季節っすよね。学校という限定された空間の中で、少年が行方不明になった女の子に寄せる想いや、友達と過ごすまったりした時間をしっかり描いているのですが、こうした一連のシークエンスから実はピュアな青春映画でもあったんだとようやく理解しました。おっさんになってから気づくなんて。  
 
 観終わった時には逞しくなった少年と、過去のトラウマと向かい合い、人生の二周目に一歩進んだ中年の姿に爽やかな感動を覚えました。

機会があったらぜひどうぞ。


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