神戸クラシックコメディ映画祭2021 レポ(1)
神戸クラシックコメディ映画祭(通称「クラコメ」)とは、毎年1月に神戸で開催しているコメディに特化した映画祭です。
神戸映画資料館(神戸市長田区)と旧グッゲンハイム邸(神戸市垂水区)の2会場で上映を行なっており、主催は古典喜劇映画上映委員会です(神戸映画資料館、旧グッゲンハイム邸、筆者と実行委員2名で構成)。
映画がサイレントだった時代から、だいたい戦前くらいまでに作られた世界のコメディ映画の中から、毎年選りすぐりの作品を上映しています。新年の初笑いイベント、現代版「ニコニコ大会」としてみなさまに親しまれ、今年で5年目を迎えました。
いつもはTwitterの公式アカウント上で振り返りをしていますが、今回は初めてnoteを使ってレポをしてみようと思います。
1月9日(土) 旧グッゲンハイム邸
コロナ禍に見舞われた2020年、クラコメ映画祭も不安と戸惑いを抱えながら準備を進めていました。延期や中止のおそれが何度も頭をよぎりましたし、オンライン開催の可能性も模索しました。
でも、やっぱり、コメディは劇場でみんなで観るべきじゃないか。こんな状況だからこそ、みんなで一緒に笑う場も必要なんじゃないか。
と、実行委員の意見が一致してからは、例年通りの “フィジカル開催” の実現を目指して走り出しました。
ところが開催直前、関西から緊急事態宣言の要請が出るらしいとの報道が。
スタッフの緊急の話し合いの末、初日に予定していた「こども活弁ワークショップリターンズ」は中止。その後の全プログラムは座席を半数に制限して開催することに決定しました。
ある程度想定していたこととはいえ、ショックは大きく・・・。
こども活弁ワークショップは、昨年のクラコメで開催し大好評でした。こどもたちが豊かな発想で書き上げる台本はとても面白く、無声映画の世界と直にふれあう有意義な体験の場を提供できました。
活動写真弁士・大森くみこさんの講師ぶりもあまりにすばらしく、参加を楽しみにしてくれていたキッズたちには本当に申し訳なかったです(いつかきっとリベンジを!)。
フライヤーデザインはグ邸管理人の森本アリさん
キッズマチネー 『要心無用』活弁上映
そういうわけで、初日は【キッズマチネー】プログラムからのスタートになりました。会場は旧グッゲンハイム邸です。
「キッズマチネー」とは、こどもを対象に行う昼間の映画上映のこと。欧米の映画館では今でもさかんに行われています。
旧グッゲンハイム邸では以前から、地元のこどもたちがたくさん無声映画上映を観に来てくれており、今回も、やや数は少なめながら、「常連」のちびっこたちが集まってくれました。
「バスター・キートン知ってる人〜!」の大森くみこ弁士の問いかけに、元気よく手を上げるこどもたち。「すごい!こんな地域、他にあります?」と感服する大森さん。でも今日はキートンではなく、ハロルド・ロイドの上映です。
いつもはこどもたちが大声で映画にツッコミを入れるのがグ邸の「名物」なのですが、今回はコロナ対策のため自粛・・・
そこで大森さんが提案してくれたのが、「応援拍手上映」でした。大森さんの「ロイド、ガンバレ!」の掛け声に合わせて、観客が拍手をするというもの。
これが、とっても楽しかった!
四苦八苦しながらビルをよじ登っていくロイドの姿は、思わず応援したくなっちゃいます。そんなハラハラドキドキのシーンに応援上映はぴったりで、客席から何度も自然に拍手が湧き上がりました。
大森弁士、さすがです!!
他にも、都会で一旗あげようと頑張るロイド君の清純な婚約者ミルドレッドを、意外と打算的な小悪魔風に解釈して演じてみたり(笑)と、弁士のノリノリの説明が大いに楽しませてくれました。これぞまさに無声映画の醍醐味!
大森くみこ弁士、ありがとうございました。
それにしても『要心無用』、何度観てもやっぱり傑作です。
ビルの高層階でドタバタが展開する喜劇映画は「スリル・コメディ」とも呼ばれ、『要心無用』以外にも実はたくさん作られています。
でも、他の作品の多くが、高層階から主人公が落ちそうになるスリルを描いているのに対して、『要心無用』がユニークなのは、逆に地上から一階ずつ登っていくという、ただそれだけのシンプルなプロットを描いた点にあるでしょう。
シンプルなスラップスティックであると同時に、リアルなシチュエーション喜劇(サラリーマン喜劇でもある)としても完成している。そこがロイドのモダンさ、スマートさだなあ、と感じました。
100歳映画 バスター・キートン短編集
続いてグ邸夜の部は、クラコメ恒例プログラム【100歳映画】。100年前に制作・公開されたコメディ映画を観る企画です。
今回は、1921年に公開されたバスター・キートンの短編3本を特集しました。
『キートンのハイ・サイン』The High Sign
『即席百人芸』The Playhouse
『キートンの船出』The Boat
大変な状況にもかかわらず、こちらのプログラムにもたくさんのお客様が。キートン人気を実感しました。「密」を避けて座席の間を広くとったり、頻繁に換気をしたりなどの対策をしっかりとりながらの上映でした。
『要心無用』に続いて、無声映画ピアニストの天宮遥さんに、グ邸常設のグランドピアノの演奏をお願いしました。2プログラムを続けて観た方は、活弁と演奏のみの2つの楽しみ方ができたと思います。
模型のようなセットの中でギャング団との追っかけを繰り広げる『ハイ・サイン』。
多重露光の映像トリックでキートンがいっぱい登場する『即席百人芸』。
船と運命を共にする一家の冒険を描く『船出』。
1921年といえば、キートンが独立プロで監督・主演をスタートしてまだ1年も経っていない時期です。なのにこの完成度はどうでしょう!キートンが仕上がりに満足できず、一度はお蔵入りしたと言われる『ハイ・サイン』(キートンの監督処女作)でさえ、抱腹絶倒の秀作なのです。
上映後レクチャーでもお話ししたように、キートンの短編作品は長編のプロトタイプになっているとも言えます。そのことがよくわかる3本でもありました。
映画監督として作品を撮り始めた最初から、確固としたマニエリスムを持っていたキートンは、コメディの枠を超えたすぐれた映画作家だったと言えるでしょう。
天宮遥さんのピアノ演奏は、時に優しく、時にドラマチックに、キートンの世界を盛り上げてくれました。『船出』のクライマックスなどはディザスター・ムービーの大作を観ているような気分に。すごい伴奏でした。
天宮遥さん、ありがとうございました。
スクリーンを一心に見つめ、笑うこどもたちの横顔。観客のみなさんの笑い声。心に強く焼きつきました。
初日にご来場いただいたすべてのみなさんに、心から感謝します。
2日目のレポへ続きます!
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