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受け継がれる「建具」の精神。広がる木製品の可能性 | 川﨑クラフト株式会社 川﨑賢広

産業が発展し大量生産の時代へ突入すると、それまで人間が行なっていた仕事は機械へ代替されていく。そんな流れがある意味では当たり前になっている現代。しかし、どんなに機械が精密・精確に、そして高速でものづくりを再現できたとしても、代替できない何かがある。かえって人の手が加わることの「遅さ」や「細やかさ」に価値が宿るのかもしれない。そんなことを考えさせる木製品の会社と出会った。


廃業の危機から生まれたヒット商品「木製ままごとキッチン」


宮崎県小林市にある川﨑クラフト株式会社は木製家具・雑貨を製造販売している。小林市の中心地から離れた住宅街のなか、趣ある自宅に併設された工場(こうば)からは木材を削る音、トントンと叩く音が聞こえてきた。現在、同社の代表を務めるのは川﨑賢広(たかひろ)さん。賢広さんは二代目に当たり、1977年に父が創業した川﨑建具店を前身として2016年8月31日より現在の社名で活動している。

建具とは、外部や部屋の仕切りとして用いられる障子や襖などの扉を指す。建具づくりがルーツとしてあるように製品はすべて職人の手づくり。細部にまで目と手が行き届いた丁寧な仕事。大量に「生産」される既製品とは異なり、つくられるものはどれ一つとして同じものがない。

工場の戸には精細な意匠が施されていた

そんな川﨑クラフトの名前を一躍有名にしたものがある。
それは「木製ままごとキッチン」という小さな子どもを対象にした木製玩具だ。
 
2008年ごろ、既製品として生産された同品質・同規格の建具の供給が増えたことにより、一点ものを製作する同社の経営は悪化。依頼がほとんどない月もあり、廃業するか・しないかの選択に迫られていた。
 
転機となったのはネットショップを運営する友人のふとした一言だった。当時、賢広さんは娘が生まれたタイミング。「おままごとのキッチンセットを製作してみたらどう?」「木製品をつくったらネットショップで販売するよ」。そのアドバイスを受け、木製ままごとキッチンをつくることにした。ちなみに、賢広さんが建具以外の製品をつくるのはこのときがはじめてだったという。

木製ままごとキッチン ドイツもみシリーズ デラックスハイタイプ|写真提供:川﨑クラフト

試行錯誤の末に出来上がった第一号は、ネットショップの掲載から数日後に売れ、さらにはその年のクリスマスを前に予約注文がどっと押し寄せた。評判は評判を呼び、木製ままごとキッチンは人気商品となり経営状況は改善。廃業の危機を免れた。その後、小林市のふるさと納税の返礼品にも登録され、注目を浴びるようになる。テレビ、新聞、雑誌などメディアの取材も相次ぎ広く知れ渡っていった。

ままごとキッチンを製作する賢広さん。細部にまでこだわる|写真提供:川﨑クラフト

ただ受注したものを製作するだけでなく、子どもたちにとって安心で遊びやすい形を追求し、改良を重ねることで品質は向上。その精巧なつくりから子ども向けの玩具としてだけでなく、インテリアや贈り物として購入していく人も出てくるようになった。
 
「2016年〜2017年ごろが一番売れていましたね。ネットショップとふるさと納税が重なっていたこともありフル稼働していました。嬉しい悲鳴でしたね。当時の仕事量は今ではさばけないですよ(笑)」

訪れた転換期。職人技を生かしたキャンプ用カスタムギア


木製ままごとキッチンの経験から、賢広さんは幅広いものづくりをしたいと考えるようになった。
 
「ままごとキッチンをつくってから建具の技術をもっと生かせるなと手応えを感じるようになりました。可能性が広がり自信がついた部分もありますが、ずっとままごとキッチンに頼ってはいられないという危機感も出てきて。方向性を変えて選択肢を増やしていきたいと考えています」
 
賢広さんは「これまでは、ままごとキッチンにすがっていたところもある」と心の内を明かす。そんななか、次の一手として製作・販売をはじめたのがキャンプ用のカスタムギア。2019年ごろから仕事の合間につくっていたというが、コロナ禍をきっかけとしたキャンプ需要を取り込むため製作を本格化させた。
 
川﨑クラフトのキャンプ用カスタムギアのなかで主力となっているのが、スノーピーク社製シェルフコンテナに取り付ける「スライド式天板」。天板のフレームには、ウォルナットやオークなど強度があり加工もしやすい、高級家具に好まれる素材を使用。天板の表面は耐熱・耐久性に優れ、傷の付きにくいアイカ工業社製のメラミンを使い、裏面も同じアイカ工業のラビアンポリという化粧ボードを使っている。キャンプユーザーの期待に応えるため、建具職人として培った素材を選ぶ目、ものづくりの技術を申し分なく発揮している。

シェルフコンテナ25タイプ 専用カスタム3点セット
(スライドトップ・サイドウイング・サイドバー)|写真提供:川﨑クラフト
キャンプ時の使用風景|写真提供:川﨑クラフト

「見た目の仕上がりもそうですが、そもそものギアとしてのつくりの良さ、精度には自信を持っています。キャンパーたちは目が肥えていますから、実物を見なくとも画像だけで良し悪しが判断されてしまいます。なので、いっさい手は抜けないですね。幸い、SNSやウェブサイトを見たお客さんからは川﨑クラフトは間違いないだろうと評価されているようでありがたいですね」

シェルフコンテナへカスタムできるサイドバーはレーザー刻印したものもある
天板へレーザー刻印した一例|写真提供:川﨑クラフト

キャンプをはじめアウトドアを趣味にする人が増え、世の中にグッズが溢れてくると消費者は周りと違ったものを持ちたがるようになる。つくり手にとっては、いかに付加価値をつけて他社と差別化を図るかが課題となるが、それについて賢広さんは「ずっと遊び心を忘れないでいたい」と話す。
 
「職人は『できないこと』に興味が湧くんですよ。未知のものに出会うと『すごい! これ、どうなっているの?』『素材は何を使っているの!?』とついつい考えてしまうんです。追求した先に自分たちのオリジナリティが生まれるのかな、なんて思ったりします。常に時代の流れに晒されていますから、キャンプ用品を製作している今でも挑戦を続けていますよ」

会社の変化を支える、変わらないポリシー


建具を中核として、ものづくりの幅を広げている川﨑クラフト株式会社。今後は鉄や皮など木にとらわれない素材を使った製品づくりを構想している。つくるものの種類が増え、会社の在り方が変わってきても絶対に曲げたくないポリシーがあるという。

「自分が携わっている以上は中途半端な仕上がりではリリースできませんね。うちの製品として出すものには絶対に妥協したくない。たとえば、ある作業を外注したほうが楽だとしても、その作業や出来上がったものについて、自分が関わらないので説明できないのが嫌ですね。お客さんから質問を受けることが結構ありますが、長くなったとしても丁寧に返すようにしていて。お客さんにとって川﨑クラフトの川﨑賢広が受け答えしているって重要なことだと思っています。それが結果的に信頼へと結びつきますからね」

つくるものの精巧さや丁寧さ。
その職人としての態度はそのままお客様との関係性にも共通する。賢広さんはカスタムギアをはじめ自社製品の仕様をブログや動画、あるいはSNSを用いて詳しく説明している。同時に、新しい製品ができれば自社の従来品とどう違うのか、その変化を細かく紹介。何度か「手を抜けない・抜いていない」という言葉が口から出ていた。誠実さがいろんな場面で表れている。

「お客さんの声はかなりモチベーションにつながりますよ。評価していただけると嬉しいし自信にもなるし。時には核心突くご指摘いただくこともあるけれど、それが製品の改善につながって喜んでいただけてホッとして、また活力になりますからね」

今では仕事を任せられる職人にも恵まれ「彼らのためにも頑張らないと」と話す賢広さん。木の可能性、そして建具職人としての技を今日も変わらず磨き続けている。


(取材・撮影・執筆|半田 孝輔
(写真提供|川﨑クラフト株式会社)
※一部写真をお借りしています

【川﨑賢広】
川﨑クラフト株式会社 代表取締役
1976年8月1日生。宮崎県小林市細野。
細野小学校、細野中学校卒。宮崎県立小林高校卒。宮崎県産業開発青年隊卒。
1996年20歳で家業の川﨑建具店就職。2016年川﨑クラフト株式会社設立し、代表取締役社長就任。

【川﨑クラフト株式会社】
住所:〒886-0004 宮崎県小林市細野4080-5
TEL&FAX:0984-23-4739
HP:http://www.kawasaki-craft.co.jp/
Instagram:@kawasaki_craft


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