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CHILKは2人あってのもの。人生を変えた古着文化を小林市から放つ | CHILK 轟木凌也・比志島隆太

近ごろ「ニコイチ」という言葉をよく耳にする。2人1組であることが常であるような、そんな分かち難い関係性。磁石のN極とS極のように正反対の性質を持つもの同士が引き合い、同時にどちらかが欠けていても成り立たない。

2人の感性が融合し、強烈な熱量とパワーが生まれる。そこに若さが加われば可能性は無限大に広がっていく。

とてつもない魅力を放つ誰か・何かと出会えることは幸せだ。その存在に心躍り、人生の目標となることもある。

自分たちが憧れた場所を地元につくりたい。それがまた誰かの心を動かすきっかけになるかもしれない。

場所をつくる人、魅力に感染し、地元に古着屋を開いたニコイチ青年2人のお話。


カルチャーを浴びに、2人に会うために、小林に人が集う


宮崎県小林市の街中心部には赤松通り商店街というレンガ敷のストリートがある。長年営まれたラーメン屋やブティックが並び、道の両端では大きな鯉が優雅に泳いでいる。情緒ある昔ながらの小さな商店街。近年、コーヒーショップや宿泊施設など新規開業が相次いでおり静かな注目を浴びている。

その筆頭ともいえるのが2021年7月に開業した古着屋「CHILK(チルク)」だ。店名は「CHILL(くつろぐ)」と「FOLK(人々)」を組み合わせた造語。広い空間でゆったりとくつろぎながら洋服を楽しんでほしいという想いが込められている。

白を基調とした内装、整頓された余白のあるスペースに厳選された古着が並ぶ。店内のほぼ半分はギャラリーとして活用され、オープン以来さまざまな作家による個展やイベントが行われた。ふとした瞬間目に入るグラフィックやアンティーク、“チル”できる音楽。洋服にとどまらない総体的な文化の魅力が、そこかしこから醸し出される。

取材時、ギャラリーでは写真家Shingo Ataguchi氏の個展が開かれていた

感度の高い若者がここを訪れてはカルチャー話に花を咲かし、古着を購入していく。鹿児島といった県外や遠方からやってくるお客さんも多い。
 
CHILKを営んでいるのは小林市出身の2人組だ。轟木凌也さんと比志島隆太さん。2人は高校の先輩と後輩にあたり、轟木さんのほうが2つ上。部活も一緒だったという。

轟木さん(左)と比志島さん(右)

2人は高校卒業後、東京を本拠地とする同じ企業へ就職。偶然にも轟木さんの勤務する千葉県の工場へ、後を追うように比志島さんも配属された。それ以来、休日は一緒に行動することが多くなり東京へよく遊びに出かけていた。

今でこそ2人は古着屋を営んでいるが、お店をやりたいと思うほど昔から洋服に興味があったわけではない。彼らが洋服、とりわけ古着の世界へ魅せられたのはあるお店と、そこで働く人々との出会いがきっかけだった。その出会いは2人がCHILKをオープンするにあたって重大な転機となった。

運命の出会い。覆された古着屋のイメージ


「自分たちのルーツであり、いつまでも尊敬の対象です。そのスタイルを目指すことを、今は2人の共通認識として持っています」(轟木)
 
SNSで見つけた東京・祐天寺の古着屋。初めての雰囲気に「緊張ガチガチ(比志島)」で店内を回った。一通り見終わったあとにオーナーから声をかけられた。話は弾み、いつの間にか緊張もほぐれ、気づけば4時間は滞在していたという。当初抱いていた古着屋の近寄りがたいイメージ、ある種の偏見を大きく覆された。
 
「初めての場所なのにこんなに居心地の良い空間があるんだって衝撃を受けました。オーナーの人柄、店内やお客さんの雰囲気、その場にいるみんなが形づくるコミュニティ。その場で何かが生まれつつある感じが刺激的でした」(比志島)

気づけば一月に2〜3回は通うほどの常連に。それも終電を気にしたくないからと、わざわざ千葉から車で1時間以上かけてだ。あの場所へ行けば日常の雑事も時間も忘れられる。自分たちを受け入れてくる人たちがいる。いつしか2人にとってかけがえのない場所となっていた。

「服を買うというよりその場にいる人たちに会うために通っていましたね。オーナーさんは言葉に嘘がなくて信頼できる人。僕らが初めて訪れたときに何を買ったかまで覚えているんですよ! ほかのお客さんにもそう接しているのが伝わってくる。この人が勧めてくれる服だったら間違いないなって思うし」(轟木)

通い出して4年は経つころになると、比志島さんの心に変化が起きた。毎日満員電車で通勤し、夜は遅い時間に帰宅する。仕事に対しても魅力を感じられなくなり「古着屋がやりたい」という想いが芽生え、轟木さんへ一緒にやりませんか? と声をかけた。

最初は冗談だと考えていた轟木さんも、じっくり話を聞いていると比志島さんの本気度が伝わってきた。実は轟木さんも同じタイミングで仕事や人生に迷いが生じていた。

「30歳になる前に人生の自慢話の一つでもつくりたかった。お互い信頼し合える関係だからできると思いましたね」(轟木)

2人とも地元に残した家族を案じ、いつかは小林に帰りたいと思っていた。宮崎には自分たちにとって魅力的と感じられる古着屋がない。ないなら自分たちでつくろう、どうせなら地元を盛り上げよう。出店するなら車社会の小林市でも、唯一人が歩く赤松通り商店街がいい。あそこは思い出の詰まった場所でもある。およそ2年間の準備期間を経て帰郷し、新型コロナが猛威を振るうなか店舗をオープンさせた。

着たい服を着ればいい。服と出会ったときの衝動を大切に

CHILKの空間づくりは文化の発信拠点をコンセプトにデザインされている。古着屋でもありギャラリーでもありイベントスペースでもある。そんな複合的な空間にした理由を2人は「いろんな角度から古着に興味を持ってもらえる入口をつくるため」と話す。

「洋服は映画や音楽、雑誌などのサブカルチャー、生活上のいろんな道具や文化と結びついています。それらに影響されて洋服を好きになっていく人たちは多い。僕らが東京のお店でハマったように、古着を好きになってもらいたいし着てもらいたい。だから、服以外の分野のもの、絵や写真や陶芸などに触れる場を設けることで、個展を目的にやって来た人たちが古着に関心を持つ動線をつくりたかったんです」(比志島)

ギャラリーとしても活用できる利点は思わぬ効果も生んでいる。

「個展をすると日ごろ来店しないような人たちと出会えて楽しいんです。たとえば、陶芸家の個展をしたときは料理人の方が来ていました。ものづくりをする人たちの出会いの場にもなったり、個展を見て自分も出したいという話が起きたり、そんな流れができています」(轟木)

CHILKで取り扱う古着は2人が好きなもの、お店の雰囲気に合うものを買い付けている。洋服選びといえば店内やECサイトを巡り「良い商品はないか」「今持っている服との組み合わせは」と頭をぐるぐると悩ませてしまうが、轟木さんは「自分が心を動かされたものを買うほうが楽しいですよ」と話す。

「僕らの恩人は『テンションで自分の着たい服を着ればいい』という人でした。恩人もお店の服もかっこいいからこそ説得力があって、その考え方にすごく影響されましたね。どこのブランドものを買うかってことよりも、デザインやシルエットのかっこよさ、その服に出会ったときの衝動を大切にしてほしい」(轟木)

「誰から買うか、というのも重要な点だと思っています。そこはCHILKでも念頭に置いている考えで、まずは僕ら2人のことを知ってもらい、派生して内装や古着の趣味・趣向を好きになってもらいたいと考えています」(比志島)

CHILKを2人でやることに意義を感じている


オープンから2年とCHILKの歴史はまだはじまったばかり。今は土台を築き固めていく時期と捉え、目の前のお客さんがいかに楽しめる状態をつくるか知恵を絞っている。2店舗目の構想もあるというが、まずは新しいことよりも小林という土地にどう根付くかに意識を傾けているようだ。

接客は基本的に2人で行い、商品撮影は轟木さん、画像編集は比志島さんといった役割分担もある

「小林でCHILKのようなお店ができることを外部の人や若い人たちに伝えていきたいんです。同じ感性を持った人が小林で新しいことをするきっかけになると嬉しい」(比志島)

出店の相談を受けるようにもなり、実際に鹿児島でお店を持つ若者も現れた。それはかつて2人が東京のお店に感化されてCHILKをつくった流れと同じである。

轟木さんと比志島さんの2人は今、9月末に行われる地元開催の音楽イベント「山麓フェス」に向けて多忙な日々を送る。轟木さん、比志島さんを含む小林市にゆかりのある4人の若者が中心となり企画。自然と音楽の融合した屋外フェスを行うことで地域活性化を狙っている。出演アーティストのブッキングやスポンサー集めなど、CHILKでつながった人脈が良き循環を生み出している。

「勢いではじまったプロジェクト。やるしかない! と背水の陣の状態です(笑) 僕は石橋叩いて渡る慎重派なので不安になることもありますが、轟木さんが楽観的なので救われることも多く(笑) 物事を進めるときにすごく助かっています」(比志島)

「自分が『なんとかなるっしょ!』という性格だから比志島とはいい具合に補い合えるんです(笑) 今回のフェスも一度やってみると何か得られると思っていますし」(轟木)

まったく正反対の2人だが、喧嘩することもなく素直に意見を言える関係だという。CHILKはまさに2人がいるからこそ成り立つ。

「2人でやることに意義を感じている」(轟木)
「僕1人では古着屋をする決断はできなかった」(比志島)

CHILKの物語はまだ序章だ。2人がかつて東京の古着屋に憧れたように、CHILKに憧れる人々が出てきて小林に新しい風を吹き込む。そんな未来が待ち遠しい。


(取材・撮影・執筆|半田孝輔

【轟木凌也】
1995年3月生まれ。28歳(掲載時)。
宮崎県小林市出身。高校時代まで小林市で過ごす。
高校卒業後、インフラ企業への就職を機に上京。
2020年12月に退職し、小林市にUターン。
2021年7月21日に比志島と共にCHILKをオープン。

【比志島隆太】
1996年7月30日生まれ。27歳(掲載時)。
宮崎県小林市出身。
小林市にUターンしてもうすぐ4年。
臆病者でマイペースだが新しいことが好き。
週に2〜3回、近所のサウナに通う。
ラジオのジャンクリスナー。たまにCHILKでDJ。

【CHILK】
営業時間:13:00〜21:00
定休日:水曜日 + 不定休
住所:〒886-0008 宮崎県小林市本町32−7
HP:https://chilk.shop/
Instagram:@chilk2021

https://www.instagram.com/chilk2021/


【2023年9月30日開催 山麓フェス】
(追記:無事開催され盛況となりました!)


小林市を拠点にしているクリエイティブチーム「B面」による音楽イベント。
小林市北霧島の自然に囲まれた野外スケートパークが舞台。自然や食といった小林の魅力を最大限に活かすとともに、エコフレンドリーな取り組みを行う野外音楽フェス。フェス、出演アーティストの詳細はホームページをチェック!


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