見出し画像

死ぬという驚き~池田晶子『41歳からの哲学』

哲学エッセイスト池田晶子の週刊新潮での連載エッセイを一冊にまとめたもの。おそらくは著者41歳の1年間分なんだろう。それ以上には、書名にあまり意味はない。

時事ニュースをとっかかりに人生と日常のあれこれを幅広く扱っており、1話毎に数ページ完結ぐらいのボリュームながら、それぞれのテーマに鋭く切り込んでいく迫力が感じられる。そして、それら多方面への思索の核である「死」への眼差しが、一冊の全体を緩やかに取りまとめている。


日々の生活上の通念をぐらぐらと揺り動かした時にこつ然と現れてくる神秘へのおどろきがある。「生」「死」という概念に直截的にメスを入れていくのではなくて、世間の人々が無意識のうちに囚われている常識を分かりやすい形で取り出してみせ、それをくるりと反転して喝破するところの鮮やかさと痛快さ。こうした単なる形式的なものが、それでもなお事象そのものの神秘をより一層際立たせるというのは、著者の並外れた筆力か。これは本書全編に貫かれていて、もはや様式美にまで高められている。その点、とても特徴的な書き手である。

著者自身の思想的スタンスとして「他者のことは分からないから気にしてもしゃーない」と繰り返されるが、他者/集団心理の抜け目ない把握がないとこの方法は成立しないだろう。

深い哲学的洞察が敷き詰められているわけではないけれど、感情的な衝撃をフックにして読み手みずから考えることの陶酔に誘い出される。


この記事が参加している募集

読書感想文

頂いたサポートは、今後紹介する本の購入代金と、記事作成のやる気のガソリンとして使わせていただきます。