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南極のおじさんたちと、料理するわたし

どこにも行けない日は、自分のためにおいしい料理でも作ったらいいじゃない。

最低でも10回以上は観ているこの作品を、わたしは台所に立って、料理しながら観ることが多い。数年前のクリスマスイブの夜、せっかくのクリぼっちを堪能すべく自分にとびきりおいしい料理をつくってあげようと思い立ち、その料理中のお供にこの作品を流したのがことのはじまりだ。そして、「南極料理人」はわたしのお気に入りクリスマス映画として殿堂入りを果たした。

主人公は、海上保安庁から南極のドームふじ基地にやってきた料理人・西村淳(堺雅人)。本作は、平均気温は衝撃のマイナス54度という極寒の地に派遣された8名の隊員たちの暮らしぶりやそれぞれ人間模様を描く。数々の「珍事件」に声を出して笑わずにはいられないのだが、何よりこの作品の中心軸となっているのは、毎日の食卓(そして、珍料理)である。

包丁で刺し身をゆっくりと切り分けたり、熱々のおにぎりを握って海苔を巻いたり、カンカンと中華鍋を鳴らしながらエビチリを炒めたり……どの所作もとにかく丁寧で、観ていて清々しい気持ちになると同時に、わたしもこんなふうに料理がしたい、と思わせてくれるところがある。だから、この映画を見ているだけで、なんとなく料理する手がいつもよりスマートに動き、おいしいものをつくれるような気がする。

そして、どうせこのご時世で、今はどこにも行けないのだ。ひとりでいたって、料理だけはわたしを裏切らない。作るよろこびを与え、自分だけのための特別な一皿は、いつだってわたしの腹とこころを満たしてくれるのだ。

ストーリーはわかっているし、なんなら次にくるセリフだって覚えている。なのに何度観ても笑って泣けるのは、実力派(いや個性派?)俳優たちの名演技のおかげかもしれない。堺雅人も本当にいい味を出しているのだけど、やっぱり本作の名セリフ「西村くん、僕の身体はね、ラーメンでできているんだよ」となんとも悲しげな瞳で訴える、きたろうがベストアクターだろう。原作のエッセイ本『面白南極料理人』については、また別の機会に。

南極料理人
監督/沖田修一
出演/堺雅人
製作/日本(2009年)


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