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【斎藤まさし語る・後編】火花散らす戦争サミットと戦争経済 盛り上がる革命の気運を現代の「自由民権運動」へーー

ウクライナ戦争は収束の気配を見せることなく、むしろウクライナへの戦車・ミサイル供与が当然のように進んでいる。岸田政権も歩調を合わせるように軍拡化を進めている。
この戦禍の時代に、私たちはいかに平和を、新しい社会を作っていけるのか。斎藤まさしさんに未来予想図を聞いた。4月5日号に続く、インタビューの後編です。(編集部・朴)

1.襲いかかるインフレ

 今のインフレは、ロシアのウクライナ侵攻が原因だとされている。そして、エネルギー不足と食料高騰、円安が追い討ちになったと。これは事実ではない。ウクライナ戦争の前から、アメリカで始まっていた。コロナ恐慌に対して、アメリカでは異次元の財政出動が行われたからだ。
 日本のインフレも去年から始まったのではない。インフレ率をCPI(消費者物価指数)で見ると、間違える。インフレ率は、企業物価指数(CGPI)に先行的に出る。CPIは買う時の価値の変動を言い、CGPIは企業間取り引きのインフレ率を指す。
 CGPIは、一昨年の秋の段階で9%を超えていた。今も同じ状況だ。ウクライナ戦争を口実にして、企業はやっとインフレ率を価格に転嫁できた。それでも去年の暮れで4%だ。中小企業はほぼ倍以上のインフレ率に苦しんでおり、その上消費税も取られている。平均賃金は2%落ちている。つまり、実際上は7%のインフレということだ。インフレ率は今年でさらに倍になる。
 次のリセッション(景気後退)が確実に今年で起こる。賃上げも大手はやるだろう。しかし内部留保をためこんでいない中小企業でできるわけがない。賃金の格差が拡がるだけだ。今年の前半で貧困の拡大は間違いない。それも量が拡大する。
 戦争で物価が上がったのではない。誤ったコロナ対策と財政出動論がインフレを起こし、格差を拡大させた。コロナの3年間、補正予算だけでほぼ140兆円だ。無駄なワクチンを買い、10万円の一律給付も行った。生活困窮者はもらっても右から左だ。給付金の2割近くが富裕層に行っただろう。
 当初の「貧困世帯に限定して30万円」の方が政策として正しかった。だからアメリカでは批判が高まり、バイデンは最後の現金給付で所得制限をした。もしれいわ新選組の言っていた財政出動論を政府が採用していたら、インフレ率はこの程度で済んでいない。一年で140兆円というと、三年で400兆円だ。そうなればこのインフレは日本発だったろうし、もっと悲惨な状態だった。
 岸田政権はインフレに対して、経済の軍事化でブレーキをかけようとしている。軍需産業は自動車や住宅以上に経済波及効果が高い。5年間で43兆円と言うが、これがどれだけ景気刺激効果があるか。
 防衛費の中には、自衛隊員の給料や糧食費、衣服(繊維製品)も含まれる。隊舎が老朽化しているのも事実で、今回の予算倍増で一気に建て替えようとしている。また戦争が近いから、自分たちを守る壕(シェルター)を作ろうとしている。一般国民が逃げる壕は作らないのに。
 こうして、建設業界や衣料品メーカーと商社が儲かる。今の武器は全てハイテクだから、ハイテク産業も儲かる。いわゆる「大戦景気」だ。軍事拡大の恩恵に与れる企業にとってはいいだろう。しかし、9割の中小企業に恩恵はない。
 また、軍拡化の財源を法人税の増税に求めようとしている。企業のインフレの価格転嫁も半分しかできておらず、無利子・無担保のコロナ補助金も今年から取り立てが始まる。これは、中小企業に首をくくれと言っているに等しい。

2.次の世界のリーダー

 米中ロの帝国主義国は北半球にあり、北半球の経済は南半球の搾取で成り立っている。しかし今、南に大きな、世界最大の人口を擁する巨大市場ができた。インドだ。世界の資本家トップ100では、インド国籍者が順位を一番上げている。

インド・モディ首相(右)

 インドは、第四次帝国主義戦争を国家レベルで止める一番大きな力になるだろう。世界大戦の犠牲者を減らすには、インドを最大の代表者にしたグローバルサウスを作ることだ。 かつては中国がそのスタンスを取っていた。「三つの世界」論を提示し、米ソ両帝国主義の覇権争いに抵抗するとして、第三世界の代表となった。
 今はインドがその位置に取って代わった。100年の一貫した国是としての「非同盟外交」。軍事力・自衛力は経済の進展とともに拡大している。インドはGAFAなどのIT寡頭制の支配を排除し、中国やアメリカにも市場を明け渡していない。むしろ独自に作ろうとしている。次に米中以外でIT寡頭制が生まれるとしたら、インドだと思う。その証拠に、インドの新しい巨大資本に対する西側からの批判が強まっている。
 次に、NATOの中でそういう役割を果たすとすれば、「中東の大国」トルコだ。トルコは独裁体制で批判されているが、ウクライナ戦争が始まって以降はNATOの中で唯一、仲介外交を追及している。ウクライナがいくら西側(NATO)に入りたいと言っても、一国でも加盟国が反対すれば入ることはできない。
 第4次帝国主義戦争は、本質的には国家でいうと米中戦争であり、その階級的な基礎はIT寡頭資本だ。もし米中が争ったとき、戦場になるのは日本だ。ここをどちらが支配するかで勝負は決まる。
 逆に言えば、日本がついた方が勝つということだ。革命元年にするには、米中どちらとも仲良くするが、どちらにもつかないという、かつての非同盟外交をこの国で実行することだ。
 しかし日本には、国家主権の大事な一つである外交権が、アメリカに制限されて全面的にはない。戦後日本が独自外交をしたのは、アラブ外交だけだ。なぜ、日本が戦後あの地域で信頼を勝ち取れたか。中東外交だけはアメリカから独立していたからだ。
 それまで日本は、「アメリカ―イスラエル」一辺倒外交だった。「油を確保する」という経済的利益も後押しした。政治というものには、経済に対して逆作用を及ぼす力がある。最後の独自外交は対中外交だ。独自にやったことで、アメリカは日中国交正常化を進めた田中角栄をつぶした。アメリカ支配の怖さだ。

3.日本の伝統革命思想

 私の思想は一貫して、「大衆民主主義路線」だ。社会主義や共産主義は外来種だが、日本の民権運動は国産だ。幕末の倒幕運動、「大塩平八郎の乱」が一番の例だ。

大塩平八郎の乱 (『出潮引汐奸賊聞集記』 より)

 徳川の封建体制が商業主義の破綻とともに財政危機に陥ると、百姓は食えなくなり、その度に一揆は起こった。戦国時代以降、絶えたことがなかった。しかしこれは単なる暴動だった。そこで大塩は彼らに、「敵は幕府だ」と言って一揆に政治性を与えた。これが明治維新の30年前に起きたことだ。
 また大正デモクラシー以降、日本の自由民権運動が外国(ヨーロッパ社会主義思想)の影響を受ける。その影響が全くない時代に、すばらしい憲法草案を無名の民衆が全国で作った。それが「五日市憲法」だ。
 こうした150年にわたる日本の民主主義革命運動の歴史と、その遺産を引き継ぎながら、世代を超えて闘うんだ。
 レーニンはロシア民権運動の、孫文の跡を継いだ毛沢東は中国民権運動の、ガンジーやネールは、インド民権運動のリーダーだった。
 今年以降、あなたたちの世代(記者は20代)から、国産の自由民権運動のリーダーが久しぶりに生まれる。これは私の予言だ。

4.必要なのは民主主義の徹底

 憲法の「国民主権」とは、国権の最高機関である国会を通じて行使される。しかし昨年の10月、国会で一切の審議を経ず、閣議決定で反撃能力の保有と防衛費倍増を決めてしまった。
 これは、安倍晋三にもできなかった、民主主義の最終的な破壊だ。日本の戦後民主主義は、2022年末の閣議決定をもって終わった。日本はすでに内閣による専制政治だ。天皇制がGHQによって実際上つぶされた後、戦後初めて成立した国権専制政府だ。
 もはや出来合いの選挙で政権を取るなんて、ほぼ無理だ。専制政治がさせるわけがない。アメリカを背景にして、国家の最後の力(軍・警察・裁判所)で潰しにくる。アメリカは今年初めの首脳会談で、閣議決定とミサイル増税を全面的に支持し、専制政府にお墨付きを与えた。私たちは専制政府と、在日米軍を含めたアメリカを意識しなければいけない。岸田だけでなく、アメリカの監視を覚悟すべきだ。
 今回初めて、22年末と23年始に炊き出しを行った。3ケタもの人々が食糧を求めて歩いてきた。頭ではわかっていたが、コロナの3年でここまで貧困化が進んでいるのを分かっていなかった。もう革命の条件は完璧にできている。あとは誰が最初にそれを表現するかだ。
 国家主権の行使をめざすべきだ。過半数の議席を取って政権奪取するというのは、間違いだ。これは2009年に既に行った。民主党への政権交代は、革命の結節点だ。一度、人々が「一票の行使というたやすい行動で政権は変えられる」という経験をした。
 ただ、これはブルジョア革命であり、レーニンの言う「できあいの国家を使って革命をした」に過ぎない。人民権力とは、出来合いの国家とは別の権力を打ち立てることだ。
 新しい国を作るためのピープルパワーをめざそう。人民権力とは、自衛力をもって食糧を確保した人々そのものだ。権力者が国家権力を動員して潰しに来ても、反撃して自分たちを守ることができるかだ。そこでのスローガンは、「自主・自立・自衛」だ。
 自主は、「外交政治的自主」を意味する。アメリカからの独立だ。自立は、「経済的自立」だ。他国からの収奪で成り立つ経済から、この国で経済を維持できるようにする。最後の自衛は、この国に生きるすべての人々の命と自由、人権と生活を守るための軍事だ。
 これを目指す運動の中で、何が大事か。民主主義をいつも徹底することだ。官僚主義は、人が増えれば増えるほど民主主義を制限していく。私たちは逆をやる。人が増えれば増えるほど、民主主義を拡大していく。これが必ず敵に勝つ方法で、50年に及ぶ私の政治活動の結論だ。しかし、これが一番難しい。発展すれば発展するほど、民主主義が抑圧されてきた。
 中国の経済危機を表現したのは、昨年の白紙革命だった。命がけでしかデモをできない中で、声を上げたのは中国の中で圧倒的に少数の学生たちだった。ネットを使い、全国で同時にある程度のデモをやっただけで、看板政策のゼロコロナを降ろさざるをえなくなった。中国共産党大会が終わったばかりで、習近平独裁を世界に知らしめた直後だった。

白紙革命集会(昨年12月・大阪)

 天安門事件が中国の歴史的に見てどれだけ大きな傷になったか、習近平らは知っている。趙紫陽も胡錦涛も政権がひっくり返った。同じことをすれば、自分の政権が潰れることを分かっている。
 何が権力者が一番怖いか。大衆が自ら、特に若い世代が、自発的に、見える形で意思表示の示威行動(デモ)を始めたときだ。ゼロコロナは、中国経済をものすごく後退させた。白紙革命の基礎には、大衆の不満や生活世論があった。民主主義と自由を奪われたことに対する不満、それが背景にあった行動だったから習近平は恐れた。

5.岸田の反撃策に反撃せよ

 今年のサミットは歴史的なサミットになる。ウクライナ戦争はエスカレーションに入った。ロシアとウクライナのオルガルヒ(政治的影響力を持つ新興財閥)同士の戦いから、ロシア(=オルガルヒ+その背後にいる中国国家資本主義)対ウクライナ(=NATOとその後ろにいるアメリカ、尻押しするヨーロッパ)の構図になった。
 広島サミット最大の議題は、エスカレーションした戦争を今後どうするかだ。もう一つが新しい経済危機、スタグフレーション(不況と物価上昇が併存する状態)の世界的まん延に、どう対処するかだ。
 コロナ恐慌以降の経済危機に、経済の軍事化によって新しい需要を人為的に拡大することで、次のリセッションをいかに小さくするかということだ。戦争のエスカレーションは、彼らにとっても危険だ。だからコントロールできる範囲、プーチンの許容範囲で、戦争を長期化させるのが彼らの目論見だ。
 そして岸田に残された最大の反撃カードは、「核兵器禁止条約」の参加批准だ。広島サミットを前後して彼が公表する。戦争サミットという本性を覆い隠し、自分の専制主義を隠す最大のオブラートになる。これには、既存のどの政党も反対はできない。戦争に向けた政治的な挙国体制を作り、野党の全てを引っ張りこむのが思惑だ。
 しかし恐れる必要はない。野党は賛成するべきで、むしろそこへ追い込む。岸田の反撃のカードにさせないためには、同時に「だったら核搭載可能なスタンド・オフ・ミサイルなんてありえない」と言い切ることだ。岸田に対して、一貫して攻勢的に世論の拡大と運動を発展させ、支持率を絶対に回復させないことが重要だ。
 なぜこれを今言うのか。このカードを向こうが切ったとしても、効果を最小限に抑えるためだ。それくらい岸田は権力への執着が強い。何としても自分の政権を維持、長期化させたいと考えている。
 その後の闘いは選挙だ。6~8月と支持率が上がらなければ、秋の解散にまで追い込みたい。岸田に選挙をさせないんじゃない、選挙に追い込むんだ。負けると分かっている選挙をやらせるんだ。
 世界の人々に、自分たちの共通の敵を訴えるんだ。敵はIT寡頭制だ。中国の国家資本主義、アメリカのIT寡頭制との闘いだ。米中両方が我々の味方だとは思うな。(完)

(人民新聞 2023年5月20日号掲載)

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