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危機に立ち向かうための「誠実さ」 〜アルベール・カミュ『ペスト』を読む

1月半ばから、新型コロナウイルスの問題で、社会が大きく揺れ動いていますね。日常の仕事では医療メディアに携わる者としても、一市民としても、日々移り変わる状況・それに伴って起こる事々に落ち着かない気持ちを感じております。

そんな中、今朝、こんな記事を目にしました。

そう、アルベール・カミュ『ペスト』は、感染症と社会の動きを考えるうえで、本当に本当に重要な一冊です。

もともとこのnoteを始める際の最初の記事や、ときどきの記事で触れているように、現在編集を手掛けているNHKテキスト「きょうの健康」において、毎月1冊、“医療”“健康”というキーワードのみの縛りで自由に本を紹介する「“健康”の本棚」という連載枠を設けています。その企画を始めるにあたって、絶対に取り上げようと思っていた本が、この『ペスト』でした。

そうして書評として取り上げたのが、2015年3月号のこと。雑誌はもう流通もしていないから時効でしょうし、そもそも自分が書いた文章ですから、そのまま紹介させていただきます。

 昨年は、西アフリカで猛威を振るい、世界的にさらなる感染拡大も懸念されるエボラ出血熱が、また国内では蚊を媒介とするデング熱が、大きな社会問題となり、「感染症」の脅威を改めて認識させられたように思います。
 時に命にも関わる感染症は、何より病気として怖いものですが、「感染する・広がる」という特徴は、それとはまた異なる脅威を社会にもたらします。感染症の拡大が社会に及ぼす影響、極限の状況下で生きる人間の心理を想像するための1冊として、ノーベル賞作家アルベー ル・カミュの長編小説『ペスト』を取り上げます。
「黒死病」と呼ばれ、かつてヨーロッパ中を震撼させたペスト。根絶されたと思われていたこの病が突然、20世紀半ばのアルジェリアの小さな港町を襲います。封鎖された町での人々の様相、そして主人公の医師リウーらの苦闘が、冷静な文体で綴られていきます。
 事態をなかなか認められないまま、じわじわと蔓延する恐怖。精神的に耐えられない人が出る一方、非常時だからこそしたたかに生きる人も。感染症は、身体だけでなく、人の不安な心にこそ強く作用し、それは不確かな情報や相互の不信感を広げることにもつながります。ペストと戦う唯一の方法は「誠実さ」である、という本書の言葉は、実に示唆に富むメッセージではないでしょうか。
(NHKテキスト「きょうの健康」2015年3月号)

紙媒体なので、読書・原稿作成から刊行までにはちょっとタイムラグがあり、この本を読んでいたのは2014年末のことでした。

先の書評記事でも、また上記のツイートからもわかるように、致死的な感染症が国内外で問題になったタイミングで取り上げたのでした。(岩田健太郎先生のこと!!)

でも、私がこの本をじっくり読んだのはそれよりももうちょっと前、2009年、新型インフルエンザが日本で流行したときでした。

当時、私はまだ現在の編集部にはおらず、医療メディアには関わったことがありませんでしたが、サイエンス・医療への関心はもともと高かったこともあり、当時の“おかしな”風潮に疑問を抱きながら日々を送っていました(関西への出張時、マスクだらけの状況に、ものすごく不可解な思いを抱いていたことをよく覚えています)。

そんなときに、そういえばと思って味読したのが、この『ペスト』だったのです。

……あれからもう、10年の時が経ちました。私たちは、その時間と経験をきちんと消化し、実にできているでしょうか。真に問われているタイミングだと思います。

ということで、私もまた今から、改めて読み直したいと思います。(ちょうど先週末、本棚を整理していたら出てきたのです)

紙版は品切れも出ているそうですが、電子版もあるようですから、この機会にぜひお手にとってみてください。

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