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【疾患センター解説】全てのアスリートを支える スポーツ医学・関節鏡センター

健康寿命の延伸のためにもスポーツによる運動療法は大切です。老若男女問わず、ケガを負っても再び運動ができるよう支援します。

※『病院の選び方2023 疾患センター&専門外来』(2023年3月発行)から転載

スポーツ医学・関節鏡センターとは スポーツ損傷からの復帰を医療面でサポートすると同時に予防医学による健康増進についても取り組みます

スポーツに特化しアスリートの復帰を支援

スポーツ医学・関節鏡センターではアスリートに寄り添った医療を提供します。患者さんの ADL(日常生活動作)回復に、「スポーツ活動への復帰」という目標が加わります。

中心となるスポーツドクターには一般的な整形外科の知識はもちろん、スポーツに精通していること、アスリート心理への理解も必要です。

スポーツによるケガや故障について診察・検査を行い、アスリートの実践復帰を念頭に、保存療法や関節鏡手術などの治療を行います。理学療法士による機能回復のためのリハビリテーションも重要です。スポーツのエキスパートがパフォーマンス向上のためのトレーニング指導なども行います。手術のタイミングによって、アスリートが希望する大会や試合に出場が間に合わないこともあるため、再生医療や対外衝撃波なども積極的に活用します。治療法や手術時期を調整するのも、この分野の特徴です。

またスポーツ医学には、スポーツ損傷に対する予防医療や、運動療法による健康増進という側面もあります。「気晴らし」という意味合いもあるスポーツによって楽しみながらエネルギー消費を促し、生活習慣の改善が期待できます。健康増進は高齢者の虚弱や認知症の予防にも役立ちます。

アスリートの復帰を支援する役割と、老若男女問わず健康をサポートする予防医療という2つの役割があります。

スポーツ損傷とは 外力によるスポーツ外傷と慢性的なスポーツ障害に大別されます

スポーツによる外的要因によるケガ

スポーツによる痛みを「スポーツ損傷」といい、外力によるケガ「スポーツ外傷」と、慢性的な痛みや不調「スポーツ障害」に大別されます。

代表的なスポーツ外傷には、捻挫(靭帯損傷)、脱臼、肉離れ、骨折などがあります。好発部位はスポーツによって変化しますが、全般的に多いのが捻挫です。「捻挫くらい」と過小評価するのは危険です。関節位置のずれによる関節周囲の損傷で、靱帯の損傷の程度で重傷度が決まります。サッカーやスキーなどで多いのが膝前十字靭帯損傷です。

関節の位置が元に戻らない程度にずれた場合、脱臼となります。反復性肩関節脱臼はラグビーや柔道などのコンタクトスポーツ(選手間の接触がある競技)に多い外傷で、一度起こすと癖になりやすく、注意が必要です。

特定部位の酷使によるオーバーユース症候群

スポーツ障害は特定の部位を繰り返し酷使することによって生じるため「オーバーユース症候群」とも呼ばれます。腱周囲の炎症や付着物障害、疲労骨折などがあります。

野球による肩・肘の損傷の総称を野球肩・肘といいます。全身の関節を連動させる投球動作途中、どこかの部位でエラーが生じた結果、肩・肘の関節構成体が損傷し、痛みが生じます。テニス肘(上腕骨外側上顆炎)も身体全体のバランスを崩した結果として起きる肘の痛みです。

ランナーに多いのがシンスプリント(過労性脛骨骨膜炎)。急激な運動量・質の変化、足の形態、足関節の柔軟性低下、疲労などを理由に脛骨周辺の滑膜で炎症が生じます。よく似た疾患に疲労骨折がありますが、炎症であるシンスプリントとはMRIなどによる画像診断で鑑別できます。

治療法について 受傷直後の応急処置、保存療法に加え、改善が難しい場合は関節鏡などを用いた手術でスポーツ復帰を目指します

早期スポーツ復帰を支える関節鏡手術

治療法はスポーツの種類、選手のポジションによって臨機応変に選択されます。

捻挫や突き指、打撲、骨折、肉離れなどスポーツ外傷が起こった直後、重要なのが安静にして冷やすなどの応急処置。それ以上、状態を悪化させないよう行います。適切な応急処置を行えば、二次性の低酸素障害(患部周辺への酸素供給が不十分な状態)による細胞壊死などを抑制できます。

慢性的な疲労を原因とする疾患、例えば野球肩などでは原因となる動作を一定期間中断し安静にして、薬物療法や理学療法(ストレッチや筋力トレーニング)を行います。

保存療法で改善が難しく、スポーツに支障を来す場合、手術を検討します。

肩・肘・膝・足などの関節には低侵襲の関節鏡手術も普及しています。小さな創口から治療を行うため従来型の手術と比較し、痛みが少なく、正常組織を傷つけにくいため早期の復帰が目指せます。また生理食塩水を流しながら行うので感染症を起こしにくいという利点もあります。最近は腰椎椎間板ヘルニアなどの治療に脊髄鏡を用いる施設もあります。基本、全身麻酔下で、ドライな状態で治療します。

スポーツ損傷は体全体のバランスが崩れた結果、酷使した部位に生じるという側面もあります。原因を探し、全体のバランスを整えることも重要です。損傷の治療は医師の役目ですが、予防も大切です。


早稲田大学名誉教授
福林 徹(ふくばやし・とおる)

1972年東京大学医学部卒業後、整形外科に入局。米国留学、筑波大学助教授、東京大学教授、東京有明医療大学特任教授、日本臨床スポーツ医学会理事、日本サッカー界理事・医科学委員長などを歴任。現・ゴルフ協会医科学委員長