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Joe妻の短編小説

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【短編小説・下】 君との愛を知りたい(約6,500字)

【短編小説・下】 君との愛を知りたい(約6,500字)

前回

 スーパーの仕事は午後三時に終わった。その足で待ち合わせ場所のレトロな喫茶店へ行き、真美ちゃんに朗報を伝える。

 「ママ向けの雑誌でお悩み相談の特集を組むらしくて。そこに読者の心をリラックスさせるような、優しい動物の挿絵が欲しいんだって」

 持ち込みをした東光愛樹社から、簡単な仕事がきた。オファーが来たのは持ち込みをした書籍部ではなく、雑誌部だった。

 相原さんが雑誌部の同期に私を紹

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【短編小説・上】 君との愛を知りたい (約5500字)

【短編小説・上】 君との愛を知りたい (約5500字)

「佐和子、さみぃよ。暖房つけてよ」

 グレーのスウェットに着替えている亮平(りょうへい)が不満気味に声をあげる。あぁ、そうだ、忘れていた。ごめんごめんと、小ネギを切る手を止めた。

 数歩先の壁に備え付けてあるエアコンのリモコンを手に取り、スタートボタンを押すと、古いエアコンが動き出した。「コタツもすぐ温まるから」と、電源をプラグにさした。

「ここ数日で一番寒いのに。お前、よく耐えれるなー」

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【短編小説】部長、お答えください(1,600字、純文学)

【短編小説】部長、お答えください(1,600字、純文学)

 一体、こんな想いは何度目だろうか。思い出したくない過去に蓋をして、なんとか「見える世界は尊いものだ」と信じてきた。

 信じていた人たちもいた。今も信じている人たちがいる。それでも、平気で私を裏切る誰かもいる。

「誠に申し訳ございません」

 大平部長が深々と頭を下げる。

 誰も息すら吸っていないのではないだろうか。まるで引越しで荷物を全て払い出したような、シンッとした空間。ここが会社の執務

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【短編小説】 美人な姉と、そうでない私(4,500字)

【短編小説】 美人な姉と、そうでない私(4,500字)

 髪の毛がくるくると上手く巻けた。
 口紅もこの80番のカラーが一番好き。口元に塗るとキュッと心が引き締まる。平凡な顔が、少しは色艶輝く。これで私は、ようやくにっこりと笑える。

「楓、準備できた?」
「うん」

 姉の雪子が部屋に入ってくる。姉はいつもと同じ、黒パンツにブラウンのカーディガンで全身をユニクロコーデにしている。

「お姉ちゃん、休みの日まで出勤と同じ格好?」

「ユニクロが一番楽で

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