見出し画像

東欧グルーヴ 通信(3)

東欧グルーヴ通信、早くも第3弾です。今回は年代、国、ジャンルとかなり幅広く紹介していますので、一枚でも刺さる作品があれば嬉しいです。東ドイツのエ〇ジャケもあります。全て『東欧グルーヴ・ディスクガイド』未掲載!まだまだ良い作品があるんですよ。。

1)Locomotiv GT.『X』

(ハンガリー、82年  Pepita:SLPX 17736)

12''

一つ謝らないといけない。私はハンガリー最初のヒップホップは84年にリリースされたMikiによる『Jól Nézünk Miki』だと自著に書いた。だがそれは間違いだったようだ…。たしかにこの作品がアメリカ留学経験のあるMikiが追求した初の本格的ヒップホップ作品であることは変わりない。しかし82年の本作B-1を聴いてみると、LGTの得意とする王道ファンクの中にラップパートが紛れているではないか!狙ったものなのか偶然なのかはわからない。トレンドをいち早く取り入れ、さらに実験的で先進的なサウンドを作り続けてきた彼らならどちらの可能性もあり得る。いずれにせよ、本格的なラップを82年に自身のファンクサウンドに自然に取り入れ、ヒップホップを消化しているのは驚くべきことだ。
Discogs

2)Arnulf Wenning『Arnulf Wenning』

(東ドイツ、87年  AMIGA:8 56 304)

12‘'

Reggae Playのヴォーカリストとしてレゲエの先駆者となったArnulf Wenningは、84年にソロへと転向。86年に発表したラテンなシンセ・ポップ「Eisdame」(本作B-1にも収録)は、才能ある若手を発掘する歌謡祭「Goldene Rathausmann(黄金のラートハウスマン)」で1位を獲得するなど、成功を収めた。本作は満を持して発表された彼のソロ・アルバムで、作詞作曲・演奏をKreis~Pop ProjektのリーダーArnold Fritzschが手掛けている。WenningとFritzsch、80年代東独音楽シーンを牽引した二人の作品だけあり、イタロ・ディスコからニューウェーヴまで、あらゆるトレンドを網羅した聴きごたえある作品となった。ダンサブルなA-1、そして強靭なビートが刻むニューウェーヴなA-5がオススメだ。目を引くエロジャケにも注目。
Discogs

3)Oceán『Haifa Remix』

(チェコスロヴァキア、91年 OPUS:91 2380-6331)

12''

Oceánは85年に結成されたチェコのロックグループ。パンク~アンダーグラウンドシーンで活躍していたヴォーカリストPetr Mukや鍵盤奏者Petr Kučeraらによって設立され、ニューウェーヴなサウンドを持ち味とした。88年のRockfest(※)で受賞したのを足掛かりに1stシングルをリリースし、チャートでの成功も収めた。90年、91年と立て続けに2枚のアルバムを発表。本作はその2ndアルバムの収録曲をリミックスした4曲を収録したものだ。ロックグループが自身の曲をリミックスし、クラブシーンにも呼応した点で非常に画期的な作品と言える。リミックスはドラムのJan Vozáryが手掛け、ニューウェーヴな原曲に四つ打ちのビートをつけてDJユースに仕上げた。A-1、B-1がオススメ。
Discogs

※Rockfest…正式名称Celostátní přehlídka československých rockových skupin Rockfest(チェコスロバキア・ロックバンド・ロックフェス全国ショー)は、社会主義青年同盟(=Socialistický svaz mládeže、SSMとも)のもと86年から89年にかけて開催された。当時、国内のパンク~ニューウェーヴのグループは当局から激しい弾圧措置にさらされていたが、このことは海外からも批判を受けていた。そこで批判を緩和するために開催されたのが、当局お墨付きのこのロックフェスだった。出演オファーをボイコットしたグループや、The Plastic People of the Universeのように出演を拒否されたグループもいた。アンダーグラウンドシーンでは”ポチョムキン・フェスティバル”と揶揄されたが、政治の自由化と共に徐々に一般的なロックフェスへと発展していった。

4)Bisera Veletanlić『Sutra Će Biti Bolje』

(セルビア、80年 PGP RTB:2520028)

12''

歌手Senka Veletanlićの妹としてザグレブで誕生したBiseraは、60年代に姉と共にベオグラードへ移住。ソウルフルな歌声を持ち味とするジャズシンガーとして活躍した。80年にリリースされた本作は、前作のジャズ・ファンク路線から進化し、洗練されたAOR風味を纏った名盤に仕上がっている。ボスニアのインダストリアル・ロックグループTeška Industrijaの元キーボディストGabor Lenđelが作曲を手掛けており、彼によるシンセサイザーも聴きどころだ。スペシャルサンクスとしてハンガリーのジャズトランペッターTomsits Rudolfの名前があがっており、彼も演奏に加わっている可能性がある。
Discogs

5)Ангел Заберски『Избрани Песни 2』

(ブルガリア、83年 Балкантон:ВТА 11207)

12''

ブルガリア作曲家同盟メンバーの作品を集めたコンピ『Избрани Песни(Selected Songs)』シリーズの一枚で、本作はAngel Saberskiによる楽曲をセレクトしたものの2枚目にあたる。彼はオペラとビッグ・バンドに魅せられ、クラシックの叙情性とジャズのグルーヴを併せ持つ作曲家。B-2にはその持ち味を遺憾なく発揮した、メロウなグルーヴ歌謡を収録しているため必聴だ。歌うのは人民軍所属の音楽隊として活躍したSilver Stars。ブルガリア最高峰のセッション・ミュージシャン集団Sofiaが演奏する怒涛のジャズ・ファンク歌謡A-4、Kristina Dimitrovaの歌うスウィートなソウル・バラードA-6もオススメの必携盤!
Discogs

6)Ирина Флорин『Краят На Началото』

(ブルガリア、90年  Балкантон:ВТА 12571)

12''

Irina Florinは81年に歌手デビューし、ヴォーカル・グループDominoの初期メンバーも務めた。当初は人気が出なかったものの、歌謡祭やラジオ出演で地道に実績を積み、90年にようやく1stアルバムをリリース。FSBの鍵盤奏者Konstantin TzekovとRoumen Boyadjievが編曲を手掛けた結果、煌びやかなシンセに打ち込みの強靭なビートが加わったイタロ・ディスコな内容に仕上がっている。B-3はブルガリアン・ヴォイスの伝統歌唱を盛り込んだトライバル・テクノな一曲。彼女は90年代半ばに楽曲「Цвят лилав - Dreamhouse Radio Edit」がヒットし、クラブアンセムとなったことで一躍スターとなる。
Discogs

7)Moulin Rouge「Moulin Rouge」

(スロヴェニア、87年 ZKP RTVL:LD 1480)

12''

Videosexの鍵盤奏者Matjaž Kosiは85年にグループを脱退し、新たにMoulin Rougeを結成。イタロ・ディスコ~ハイ・エナジーのサウンドを持ち味に世界的に活躍した。ヒット曲となったシングル「High Energy Boy」「Boys Don't Cry」はここ日本でもリリースされ、特に後者はWinkに日本語カヴァーされたことでも有名だ。本作は彼らの魅力が詰まった1stアルバムで、スロヴァキア屈指の人気盤として高値で取引されている。キラーなハイ・エナジーが並ぶ中、ひときわ輝くシンセ・ファンクB-3は超必聴!
Discogs

8)Maryla Rodowicz ⅰ jej gitarzyści『Żyj mój świecie』

(ポーランド、70年 Polskie Nagrania Muza:SXL 0598)

12''

ポーランドを代表する歌手Maryla Rodowiczによる記念すべき1stアルバム。2ndの方が有名だが、こちらも良作だ。アコースティック・ギターを生かしたソフト・ロックなサウンドが心地よい。美しいストリングスが入ったグルーヴ歌謡A-1は中でも名曲。作曲したMarian ZimińskiはNiemenの演奏を務めたAkwareleやGrupa ABCにも参加していた人物で、本作では鍵盤奏者としても活躍している。ジャズ・サックス奏者、ピアニストのWłodzimierz Nahornyも参加し、本作ではフルートとピアノを担当。美しいRodowiczの歌声とヴィジュアルにも引き込まれる一枚だ。
Discogs

いかがでしたでしょうか。またレコードが届き次第、アップしていきますので次回をお楽しみに。
皆様のいいねとフォローが励みになりますので、ぜひお願いいたします!

最後に宣伝です…。
自著『東欧グルーヴ・ディスクガイド 革命前夜の音を求めて』
絶賛発売中でございます!何卒。。
(画像クリックでAmazonに飛びます)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?