短編小説 SF 「クロノス・ジャンクション: 時間のカフェ」
空が電子の海に溶け込み、未来都市は静かな喧騒で息づいていた。その片隅で、大学生のリョウは、自らの家族の歴史に埋もれた謎を探るべく、街中の古書店やデジタルアーカイブを巡り歩いていた。彼の家系には何世紀にもわたる未解明な秘密があり、それがリョウの好奇心をかきたてるのだ。
ある運命的な日、リョウは古風な路地に迷い込んだ。高層ビルに囲まれたこの場所は、まるで時が静止したかのような静寂が支配していた。そこにひっそりと佇む「クロノスの隠れ家」の看板が、リョウの目を捉えた。外観は近未来の都市の建築様式には全く異なり、錆びついた鉄と古木で構築されていた。しかし、その退廃的な雰囲気が逆に新鮮に映り、彼の探究心をくすぐった。
リョウが店に足を踏み入れると、懐かしいレコードの音が薄暗い室内に響き渡り、軋む木製のドアが彼を迎え入れた。カフェの内装は、時間が逆行したかのようなアンティークな調度品で満たされていた。天井から吊り下げられた銅製の照明、壁に掛けられた蒸気機関車の絵、そしてギアと歯車が散りばめられた時計が、不思議な空間を形作っていた。
空間は、一見してただのレトロ調のカフェとは一線を画している。端々に、未来的な機械の細工が施され、時計の秒針が逆向きに動くなど、不可解な光景が視界を飛び交った。奥へと進むにつれて、タイムトラベルを連想させる絵画や写真が飾られており、それらは歴史の異なる時代を彩る衣装を身にまとった人々の姿を捉えていた。
リョウはこの場所がただのカフェではないと直感した。カウンターに座ると、さりげなく配置された書物の中に、タイムトラベル理論や量子物理学に関する専門書があるのを発見した。彼の研究心がさらに燃え上がる。この場所が、彼の探し求める答えへの鍵を握っているかもしれないと、リョウはそう確信に近い予感を抱いた。そして彼の前に現れた謎多き女性店員イリスの姿は、その予感をさらに強くしたのだった。
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