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詩・小説

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思いついた言葉の倉庫です。 たまに深夜のテンションで小説も書きます。
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雪に沿って舞う夏の金魚

その日の朝、今年初めての雪が降る。 彼女は靴を履きながらこれからのことを考える。 空には私が舞っている。 雪は冷たく、彼女の息が白く霞む。 私は今年死んだ金魚。 彼女の家の庭に埋まった。 でも今はこの静かな明け方の空で雪と一緒に遊んでいる。 彼女は毎日、庭で手を合わせる。 私はそんなことしなくてもいいのにと思いながら、彼女のそばまで行く。 彼女の頬が赤く染まっていた。 私と同じ色だった。

もうここには彼女はいない

祭壇に添えた老人は粒々の涙を流し始めた 牢にいた生活のように 彼女のことを思い出しては嘆いた 帰ろう、ここにはいない 帰ろう、彼女はいない 祭壇に添えた花束に煌々と照りつける太陽の火 蝋に似た生活のせいで 彼女のことを忘れてしまっていた、と 帰ろう、ここにはいない 帰ろう、彼女はいない 見下ろした街に微笑む 洗濯物は嵩張ってカゴの外へ ドアの向こうに感じる あの温かい声で もう一度 僕の名前を呼んで 帰ろう、彼女はいない 帰ろう、ここには居ないから

彼女の月曜日

憂鬱な月曜の朝に 彼女はコーヒーを飲んだ 甘いけど苦いから 足りないのは何? 痛い期待 つまんない ここから早く出たい 大好きな存在を全部 取り上げて笑う愚弄者 彼女はもう知っていた ここに答えはない 詰まる息苦しくて ここから早く出たい そのままの私を受け止められないのなら ひとりになりたいの 放っておいて欲しいの 毎日が月曜日のよう 痛み止め 空のコップと 彼女はもう泣いていた 追い詰めたのは誰? その問いに答えはない ここから早く出たい そのままの私を受け止めら

その日には咲かない気持ちに水をやる。

随分前からこの気持ちに嫌気が差していた。 誰かと話していても、ひとりの時もモヤモヤとしはじめるのはどうしてなんだろうか?きっと長い間私の中に溜まってしまった結果だと思う。 「ミサキさんは少し自分の気持ちを伝えるのが苦手のようです」 そう通信簿に書かれていたのを見た母はどうしてかしらねぇ?と首を傾げていた。 私は素知らぬ顔をして絵を描き始める。 季節はまだ肌寒い春のことだった。 それからしばらくして学校で友達ができた。名前はミサトといい、私の席の後ろの子だった。名前の響きが同

カフェオレ・カフェイン中毒

いつだって飲み物はカフェオレ カフェイン中毒のあたしは今日も頑張って生きていきます どんなに身を削って稼いだとしても最後は 残っているものなんてあるのでしょうか? 粉になっていくよ コップの底に沈んでは溶けるのを待つよ いつか消えるその日まで 本日の飲み物もカフェオレ カフェイン中毒のあたしは明日の朝まで夜を生きます どうやっても解決するには時間がないけど 残っているものをなんとかしないとね 混ざり合っていくよ コップから溢れるカフェオレ どうすればいいの? あたしの涙

こっちへおいで

だから言ったの 悪いことしちゃダメよって バチ当たるって それでもいいのね? なら 全部全部 投げ捨てて こっちへおいで そのお守り 効き目なんてない 今日の占いは当たり外れ トレンドなんかで叩いてる訳 見守りの誤りでストーカーみたい だから言ったの 正義なんて復讐では元に戻らないと それでもいいのね? なら 全部全部 投げ売って こっちへおいで 一面の記事 隠し持つナイフ 裏切りの感情で精一杯 効き目なんてない お守りの中 占いは一日中 当たり外れ だから言ったの

最果てのパラレル

地球の裏側に行きたいんだ  まだ誰も知らない僕だけが知る世界に 幾日もの拷問をまた繰り返している日常から僕を救って (どうにか生きなくちゃ) 最果てでキミに会ったけれど 可哀想に感情が一切ない 言葉の残骸かき集めては口にするよ  不味くても吐き出さないでいて 誰かのせいにしたい 誰かの声にしがみつく 誰かのせいの死体 誰かの生にしがみつく   回って周って巡って行き着く先は 地球の裏側に行きたいんだ また 誰も知らないキミだけがいる世界に 幾日もの拷問をまだ繰り返してい

じいちゃん家

時計が数えてる もうすぐ眠りの夜 答え合わせして 車でさようなら  帰り道 帰る道 どこにも居場所はなくても 母も父も疲れた顔に もう諦めて 明日も明後日も私は独りを楽しむだけ 愉快だなって 笑えるねって なんだか少し寂しいみたい 空気みたいに 当たり前に なんだか愛を求めてるみたい アラームが鳴り響く 朝日の眩しさを恨めしく思って 遊びと学びから 今日の予定に終止符を打つ じいちゃんが待ってた門の向こうは帰る場所 ばあちゃんが作ってた私の大好きな唐揚げ 美味しいね

じいちゃんは言った 「生きるのに必死だった」と 私は思った 「生きる理由が見つからない」と 誰か書いた 「理由が見つかるまで生きろ」と

【オリジナル小説】ブラックホール病【続】

↓前回の続きになります。コツコツ書いていこうと思いマッスル! 終わりの始まり 「でさー俺名前もつことにしたわ」 「は?マジで?なんで?」 驚くこいつの顔は意外と嫌いじゃないと思いながらあの時のことを思い出す。 片腕が無くなっているにも関わらず、あの警備員は先生とかいうやつをもう片方の腕で抱き締めていた。「まだ名前を聞いていません」と泣きながら。 先生が無線で事細かに今の状況を伝えてくれていたおかげで救急班やら警備班やら、特に何もできないけどと言いながら何か助けになりたい

【オリジナル小説】ブラックホール病

ねぇパパ 「ねぇパパ、私はいつまでここにいなくちゃいけなの?」 娘のシルビアが曇りガラスの向こうに何か絵を描きながら言った。 「そうだね、もう少し、かな」 「もう少し?もう少しってどのくらい?」 屈託のない目でこちらを見てきた娘を見て唇を噛み締めた。 「そうだな…」 考えるふりをして下を向いた。いろんな感情が私を襲ってきたのを娘に悟られたくなかった。 「ねぇパパ!」私に考えがあると言わんばかりにシルビアが声を上げた。 「パパのいた場所で一緒に暮らせばいいんじゃない?」 「パ

神社の夢から醒めないまま

いつからだろうか、現実世界と区別がつかなくなっていた。 自分が眠っているのか起きているのかわからなくなっている。 初めは面白がって話を聞いていた友達も最近は夢の話を聞かなくなった。 よく夢の中で行く神社に今日も行った。 でもこの世界が本当なのかわからない。 現実か夢なのかを確かめる方法は色々あったが、一番手っ取り早いのは自分の体が男なのか女なのかを調べることだ。 不思議なことになぜか夢の世界で私は男性なのだ。 すらっとした体に申し訳程度に筋肉がついており、股間に異物を感じる

廃線  その先に見えるのは いつもと同じ世界だった 忘れないように 景色を額に納めた だって この気持ちになるのは この瞬間だけだから

銀杏の葉がざわめいて 朝を迎える 代わりに無くしたものはなんだっけな? 夜のうちに支度をしなくちゃ あの青さに奪われる前に