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未知は救いか?

 自分の人生がもはや不完全なものにしかなり得ないことに確信を持ち始めた頃、ただただ時間をやり過ごすためのコンテンツ消費とは別に、救いの手がかりを求めて何冊かの書物に目を通すことにしたが、その選び方はヤケクソでも行き当たりばったりでもなかった。宗教、哲学、思想といったジャンルを意識する以前の話である。


 近所の小さな古本屋で、まず目に止まったのがボロボロになったちくま学芸文庫のアーレント『人間の条件』とボードリヤール『象徴交換と死』、そしてサルトル『存在と無』である。かろうじてサルトルの名前と「実存主義」というキーワードは、高校時代から読んでいた中島らものエッセイで知っていたけれど、パラパラとページをめくるだけで「読み進めることすら不可能なもの」であることだけはわかる。従って、そこに何が書かれているのか、そして仮に読み通せたとして何が得られるのか、皆目が付かなかった。


 それでもぼくは「どこかに救いがあるとすれば、それはきっとぼくがまだ知らない世界の中にあるだろう」と思い至った。そしておそらく、未だにぼくは、その時の論理的帰結への途上を彷徨い続けている。方角も現在地もわからないままに。これはまことに恐ろしいことである。

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