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黒い指の話

部屋の中に、黒い粒のようなものが無数落ちている。
最初は、小さな虫の死骸なのかと思った。
掃除機で吸込もうと電源を入れたが、その前に一度、よく見ておこうと顔を近づけてみると、どうも形状が可笑しい。
手足、触覚は皆無であり、円形で細長く鉛筆の芯のような光沢をしている。
俺は、地面に落ちた砂糖をつまむように、それを右手人さし指の表面へ張り付けてみた。
途端、ぴたりと密着したそれは皮膚の一部のようになり、ほくろのようにも見える。
次に、それを左手人さし指と親指でつまんでみる。
二本の指に挟まれたことによって、先ほどとは、まるで感触が違って、欠けた磁石のような固さがある。
俺は、指の間でそれを転がしながら、生き物ではないと確信し、一先ず安堵した。
だが、そうなると、謎は余計に深まって来る。
この黒い物体は、外から持ち込まれたものなのか、家の中から湧き出て来たものなのか。
どちらかではあるのだが、ただ、今の段階で俺が思うことは、これを外でも中でも見たことがないということだ。
床に顔を近づけ、部屋を一周してみる。
至る所にあるそれを、指に引っ付けて、全部集めてみようと思った。
自分でも、何をしているのか判然とせぬが、ただ、無性に黒い物体が気になって仕方なかった為、夢中になって集めている内に楽しくなって来て、俺は、物体の正体が何であるのか、どうでもよくなって来ていた。
俺の指には、黒い粒のようなものが無数付着している。
不思議なことに、集めている間、それは落ちずにずっと指にくっ付いているので、両手が黒くなって、俺の姿は、段々と、気味が悪くなって来ていた。
 
 
 
 
 
 

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