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天国と地獄〜巨大スズメバチの巣🐝騒動〜



9月の初め、我が家の軒下菜園に蒔いた大根と人参の種が、10月の初め頃には葉っぱを広げ
間引きしなくても済むような間隔で細々と育っていました。

私は毎日お勝手のドアを開け、菜園を覗きに行くのがとても楽しみでした。

ある日菜園にしゃがみ込んでいる私の頭上を、おびただしい程のスズメバチの群勢が、三角屋根の内側の窪みに巣を作り始めていました。

スズメバチの巣はみるみるうちに大きくなっていきました。私が菜園にしゃがみ込んでいると、娘が家の前に車を止めて私の方を見上げながら、

「巨大な巣やね!お母さん大丈夫?」

と心配そうにたずねました。

私がおもむろに立ち上がると娘は、

「スズメバチは周波数がとても高く、仲間を大切にして、調和のとれた波動の高い生き物なんだって!それにスズメバチが巣を作ると、その家に幸運をもたらすんだって!」

と言いました。

「やっぱりね、お母さんも昔、蜂の巣が出来たらチャンスが舞い込むとか、大金が手に入るとか聞いたことがあるわ!」

それ以来私は、

「スズメバチさん、
寒くなるまで、ここを使っていいからね。幸運をいっぱい運んで来てね!」

と心の中でいつも念じました。


日に日にでっかくなって行く、茶色に白いマダラ模様の入った芸術作品ともいえる蜂の巣を見上げながら、

「これで我が家も運気が上昇するわ!」

と思いました。


ハチも私を仲間だと思っているのか、私の頭上で羽音をブンブンたてるだけで、私を攻撃することはありませんでした。


10月の半ばを過ぎた頃、用事で帰って来た息子が、車のドアを開けたとたんスズメバチに一撃されたらしく、正面玄関を開けるや否や、

「痛い、痛い」

と両手で頭を押さえながら、板の間で転げ回っていました。

「ちょっと待って!うちはよもぎエキスしかないけど、タオルにたっぷりつけて傷口を押さえるからね!」

「痛い、痛い、何この匂い?」

「3年もののヨモギエキスよ、傷にはよく効くから。」  

「3回刺されたら命はないんだって!」
と息子。

「大丈夫よ、30分くらいしたら痛みは無くなるから。」

しばらくして息子は、こりごりした表情でこっそりうちの玄関を出て行きました。

それから何日かして、太陽が山々を赤々と染め始めた頃、外出から帰って来た私のもとへプロパンガス屋さんがゆっくり歩いて来られました。

黒いマスクを顎まで垂らし、睨みつけるような怖い目で私の方を見ておられます。

「奥さん、あのスズメバチに気づいていますか?誰が見てもわかりますよね!
私はこの前ガスボンベを運ぼうとしたら、いきなりあのスズメバチに刺されたんですよ。2回目なので3回目はもう命がありません。」

私は、ただただその人の前で頭を下げるしかありませんでした。

「申し訳ありません」

「早く市の環境課に電話してハチ駆除の会社と連絡を取って下さい!」

翌日の昼過ぎ、ハチ駆除レスキューの年配の男の人がやって来て、

「奥さん、3時間くらいの作業で終わりますから。これからは安心していられますよ。それにしてもこんな巨大な巣は滅多にないですわ。もっと早く連絡してくれたら費用も安く済んだのに!」

レスキューの人は、車の中から薬剤の入ったホースをスズメバチの巣へめがけて
長い間放水していました。

ハチたちがエサを持って巣に戻って来るので、そのたんびに放水し、高いところからハチがバタバタと地面に落ちて来ました。

レスキューの人が帰られた後スズメバチの巣を見に行ったら、蜂の巣がごっそり無くなって、ハート型のあとだけが真っ黒く残っていました。

あたりは鼻を強く刺激するような薬剤の匂いがプンプン立ちこめています。

軒下菜園は油で土がベトベトになり、野菜たちはみどり色の繊維だけを残して固くなった土の上にへばりついていました。

生垣の下の、山の水が流れている小さな溝のふちにピンク色の草花がびっしり敷き詰められていましたが、薬剤入り放水を浴びて茶褐色にしなだれ、まるで焼け跡のようになっていました。

「ハアーッ、、、」

私は大きなため息をつきました。

暗くなりかけた空を見上げていると、冷たい北風が私の首筋をサアーッと通り抜けていきました。

もうすぐ、寒い寒い冬がやって来るわ!

巨大蜜蜂の巣の残像。
ハート型になりました。

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