より病弱に、よりデブに、より貧乏に(そして、よりバカに)

プラスチック汚染に関連して、もう一つ。上記のタイトルは、アメリカの小児科医であり研究者でもある、レオ・トラサンデ先生による著書「Sicker, fatter, poorer」を私なりに訳したモノです。この本にはちゃんとした和訳が存在して、「病み、肥え、貧す:有害化学物質があなたの体と未来をむしばむ」となっておりますが、元のタイトルの方がインパクトあるなぁと思い、インパクト重視で訳してみました。あ、ちなみにかっこ内は私が勝手に本の内容に基づいて付け足しましたので、ご了承を。

この本が出たのは、2019年。内分泌かく乱物質、またの呼び名を環境ホルモンという化学物質類の恐ろしさを説明しています。出版当時は、日本でも少しは注目を浴びて、講演会なども催されたようです。「トラサンデ BPA」で検索していただければ、結構詳しく本の内容を説明してくれるウェブ記事もちらほら見つかります。けれど、「有害化学物質」、「内分泌かく乱物質」、「ビスフェノールA、或いはBPA」や、「環境ホルモン」と聞いても、なんだか怖そうだけど、珍しい、新しい物質で、近寄らなければいいんじゃない?私には関係なさそう!と思った方は、多いのではありませんか?それが、大間違いなんです!

プラスチックだらけの日本!

冒頭にプラスチック汚染と書きましたが、この場合は地球環境汚染より、体内環境汚染に関する方です。トラサンデ先生によると、プラスチック製品に添加されるビスフェノールA(BPA)という物質こそが、私たちの生活における、最も身近かつメジャーな環境ホルモンだそうです。BPAはプラスチックの透明度を上げたり強化したりする大変便利な化学物質ですが、食品や飲料のプラスチック容器から溶け出て私たちの体内に入り、女性ホルモンであるエストロゲンの真似をして、免疫機能を狂わせ、肌を荒らし、不妊を促進させ、太らせ、糖尿病や癌など様々な怖い病気を惹起し、子供たちのIQを下げるのです。プラスチック製品は生活の中に溢れています。ラップやタッパー、ジップロックは、お台所の必需品!お子さんの可愛い食器やコップ、お箸、スプーン等、割れにくいプラスチックですよね。しかも、タッパーなど、長く使って傷がついた表面から、より沢山流出するそうです。その上、BPAは、低温や高温でより沢山溶け出すというのですから、お持ち帰りの熱々餃子やお団子、冷蔵や冷凍食品、テイクアウトの飲み物(紙コップでも!)、レトルト食品、お弁当やおにぎりをレンジでチン!も全部アウトですね😱一つ一つのプラスチック製品から溶け出す量は僅かでも、これだけ毎日色んなプラスチック製品を使っていたら、蓄積します。ちなみにペットボトルにはBPAは入っていないそうですが、アンチモンという金属が溶け出て健康被害を起こすそうです。

缶詰、レシート、衣類、飲料缶も危ない!

BPAは、缶詰やアルミ缶の錆防止にも使用されています。さらに、レシートなどの感熱紙や、スパンデックスなどの衣類にも入っているそうで、飲食物経由だけでなく、肌からも体中に入ってくるそうです。プラスチック容器で販売されている化粧品や軟膏などに消費期限があるのは、多くの場合、商品の劣化よりも溶け出たBPAがやばいレベルに達してしまうからだとか。BPA-freeと書いてあるプラスチック容器も、BPSという同じように有害な類似物質に置き換えられているだけの可能性があるので信用できません。ついでに言えば、これはBPAではありませんが、残留農薬や合成香料もBPAと同じくホルモンバランスを乱す悪者だそうです。最近は香水がきつくて香害なんて言葉も聞きますが、皆様、実際要注意です!

厚生労働省は何をやっているんだ?

そんなに有害な物質が、厚生労働省に野放しにされている訳がありませんよね?確かに、厚生労働省のウェブサイトには、ビスフェノールAについてのQ&Aなるページがあります。そこには、BPAの耐容一日摂取量は動物実験の結果に基づいて、0.05 mg/kg体重/日と設定され、それに基づき、日本国の食品衛生法はBPAの溶出試験規格を2.5 μg/ml (2.5 ppm) 以下としている、と書かれています。ですが!この数値は、なんと30年前に定められたもので、ウェブページ自体も、2010年以降、更新されていません。

一方、欧州食品安全機関(EFSA)は、今年(2023年現在)BPAの耐容一日摂取量を0.2 ng/kg体重/日と定め、これは、2015年に一時的に定められた4 μg/kg体重/日を更に下回っています。
…え???😰
これって、つまり、日本の設定値は、欧州の25万倍って事?!8年前に定められた一時的な値でも、10倍以上。つまり、日本の食品には、ここ十年近く欧州の10倍以上のBPAが混入していて、今の基準からすると、それ実は25万倍多すぎたわ!って言う事ですよね😱

厚生労働省がどのような対応を行う予定か、という問いに対して、同ページでは、今後の国際的動向を含め、必要な情報の収集を行い、規制の見直しを行うとされています。じゃあ、2015年にEFSAが日本の基準値の10分の一以下に決めた時、なぜ動かなかったのでしょう?さらに、関係事業者に消費者BPA曝露を減らすため、自主的な取り組みを推進していくように要請しているそう。はあ。その結果、企業が実際にどれだけ努力したんでしょうか。BPAをBPSに置き換える、とかですかね???缶詰のBPA溶出濃度は0.01ppm以下、飲料缶は0.005 ppm以下になるように2008年から業界のガイドラインが設定されているそうですが、ちょっと計算してみましょう。スタンダードの飲料缶が350 mlとして、一缶に入っているBPAは、0.005 μg×350=1.75μg、つまり1750 ng。新しいEFSAの規定によると50 kgの人間が一日に摂取しても大丈夫なBPAは、0.2 ng×50=10 ng。一口飲めば、完全にオーバーです😭

妊婦さんに対しては、厚生労働省はBPA曝露をしないように、偏った食生活を避け、缶詰を毎日食べない様に、とアドバイスしていますけど、プラスチック容器や飲料缶に関しては一言もありません。まあ、あったとしても、今の日本の状況で、実際にどれだけこれらを避けられるかは疑問ですが。しかも、缶飲料一口でも飲めば耐容一日摂取量を超えてしまうレベルでは、外食もお呼ばれもできません。本人の努力だけではなく、周りの家族や友人も徹底して缶詰&飲料缶フリー、プラ容器回避、脱テフロンや無香料生活をしないと、妊婦さんの環境ホルモン曝露回避は実現できません

少子化・花粉症増加もBPAのせい???

欧米諸国が必ずしも進んでいて、正しい!とは、言いません。どの国も、大抵経済的利害を元に政策を進めている訳ですから、非人道的な事も沢山しているでしょう。それでも、EFSAがここまで劇的にBPAの耐容一日摂取量を減らしたという事は、経済的なり人道的なり、かなり確実で切羽詰まった理由があるという事です。トラサンデ先生も、医師として健康面の懸念を訴えるだけでなく、病人が増え、子供のIQが下がる事で出るであろう経済的打撃を算出する事で、BPAを含む環境ホルモンの使用を止めるように訴えかけています。

人種は違えど人間同士ですから、同じ化学物質の被害が、欧米であって日本では無い、なんて事はあり得ません。実際に、ここ数年の日本の大きな話題と言えば、少子化と花粉症増加。それがBPAの仕業と断言まではできませんが、その原因に加担している可能性は、十分あります。

まずは、花粉症。これは、ご存じの通りアレルギー性鼻炎ですから、つまり免疫異常で、BPAが惹起しうる症状です。BPAがプラスチック製品とともに、大幅に使われ始めたのが、1958年。そして、日本で最初に花粉症が報告されたのが1961年、スギ花粉症が出てきたのは、なんと1963年です。最初のケースはアメリカ由来のブタクサがアレルゲンでしたが、スギはどうでしょう。江戸時代から沢山のスギが植林されてきて、そのずっと前からも日本にスギは生えていました。それが、BPA入りプラスチック製品の誕生からたった5年で、アレルゲンになってしまった事実は、とても偶然とは思えません。

次に少子化。女性の社会進出による晩婚化やバブル崩壊後の経済でき不安などの原因がまことしやかに挙げられていますが、不妊症や草食男子など、ホルモンバランスが関係している生理的現象には、環境ホルモンの影響の方が断然疑わしいです。それに、日本だけの傾向ならまだバブル崩壊や日本の伝統的な家族形態云々で説明がつくかもしれませんが、少子化は自由経済の諸国で世界的に1960年以降に起きていて、しかもアメリカ・欧州・日本の順に起きています。BPA入りのプラスチックが開発されたのは、アメリカ。それが共同開発に関わっていたドイツ経由で欧州に広まり、日本に。偶然にしては、出来過ぎていませんか?さらに偶然がもう一つ。これは、人間の精子の数が、50年前から減ってきているという事実です。こればっかりは、日本の文化では説明がつきませんよね😅

対策は?

トラサンデ先生によると、希望がない訳ではないそうです。自分でできる事をしていけば、かなり環境ホルモン曝露は抑えられ、人によっては人体が無害にできる程度まで下げられるそう。具体的には、

  • 缶詰飲料缶は絶対に食べない・飲まない

  • レシートは極力素手で触らない。触ったら、必ず石鹸で手を洗う

  • 食べ物に触れる物は、プラスチック製品は使わない。代わりに、金属製品や耐熱ガラス容器を使用する

  • 外出時は、プラスチック製ではない水筒・魔法瓶などで飲み物を持参する

  • なるべく有機栽培の農産物にこだわり、野菜・果物はよく洗って食べる

  • テフロン加工香料が施された製品を使わない

  • スポーツブラなど、スパンデックスが使用されている衣類は着ない

  • 外食は極力控える

等です。他にも、化粧品や軟膏などに使われるパラベン類も環境ホルモンである可能性が疑われているので、敏感肌の人は避けた方がよさそうです。

でも、せっかくプラスチックが便利にしてくれた生活、忙しい毎日ではとても手放しがたいです!欧州でさえ、耐容一日摂取量を減らしはしたものの、BPAの使用自体は禁止していません。また安心して冷凍食品や軽くて便利なプラ容器を利用できるように、厚生労働省にビスフェノールA規制の見直しを要求しましょう

もったいない?

まだまだ使えるタッパーや使い慣れたプラスチック製品、お徳用で買って使用期限がちょっと過ぎてるシャンプーなど、もったいなくて捨てるのは忍びないですよね。ごみを増やすのもSDG的によくないし。でも、考えてみてください。食べたら絶対におなか壊すと分かっている食べ物なら、まだ食べられそうでも躊躇なく捨てますよね?そういう事です。

お子さんの喘息やアトピー、ADHD、ご主人のメタボ、ご自身の花粉症、妹さんの不妊症、おじいちゃんの癌…。可能性がとても幅広く、誰がどんなふうに苦しむのか予測もできないのが、環境ホルモンの被害です。入院費、治療費、ジムやダイエット商品の費用、家庭教師や高い塾、諸々にかかる交通費など、環境ホルモン被害さえなかったら、かからなかったかもしれない出費。お金だけではなく、通院やらなにやらにかかる時間、そして、ストレスを考えたら…😰そのプラスチック製品、それでも捨てるの勿体ないですか?

皆で減らそう!環境ホルモン被害

この記事に書いた事は、今分かった事ではありません。厚生労働省も、少なくとも30年前からBPAの危険性に気づいています。それでも、トラサンデ先生の著書の出版や、今年に入って欧州のBPA規制見直しが行われた事から分かるように、BPAを含む環境ホルモンの危険性とその緊迫性が、ここ最近、より明らかになりました。

これらの情報は、一部の学者や健康オタクの間では広まっているようですが、まだまだ一般常識からは程遠いようです。腰が重いお役所を動かすには、多くの人が懸念を示すことです。そして、より多くの消費者がプラスチック製品を買わなくなれば、企業も割れにくく軽いガラス容器など、安心できる代用製品を作ってくれます。それに、同じ職場の人が香水や香りの強い柔軟剤の使用を控えるなど、より多くの人が実行してくれないと、妊婦さんや敏感な人は、いくら本人が頑張っても被害にあい続けます😭

脱・BPAは長期戦

脱・環境ホルモン被害を成功させるには、注意点があります。それは、長期戦だという事です。大抵のホルモンには急性と慢性の作用があり、慢性の作用では遺伝子発現操作、つまりタンパク質の生産を促したり止めたりするので、その影響は長期間に渡って現れます。どれくらい長期間かは、作用によりますが、例えば皮膚の再生期間(ターンオーバー)は4週間と言われていますから、大抵それくらいはかかると思っていいでしょう。ホルモンの影響で一番分かりやすい思春期など、何年にもわたって体に変化を起こしていくのですから、作用によっては年単位で現れる物もあります。それは、環境ホルモンの被害も同じです。逆に言うと、今日環境ホルモン曝露を全て絶っても、しばらく体調は変わらないかも知れません。環境ホルモンの危険性を知って、一週間程度プラスチック製品や香水の使用を止めてみたけど何にも変わらなかったわ、と言って元の木阿弥になってしまっている方もいらっしゃるかも知れません。BPAや環境ホルモンをご存じで、試しに色々やめてみたけど全然変わらなかったという方は、是非この事にご注意ください。

もう一つの注意点は、環境ホルモン源の多さです。例えばBPAなら、プラスチック製品の使用や缶詰・飲料缶の使用だけ止めてみても、敏感な方ならスパンデックスなど他の物から曝露して、被害にあうレベルまで達してしまうかも知れません。是非、見落とした環境ホルモン源がないか、調べてみてください。

物は試し

BPAが誕生して65年。30年ほど前から疑われていたとはいえ、ここまで長い間規制が緩すぎた理由は、便利過ぎる事は勿論、BPAが真似をするエストロゲンの作用が多様過ぎるためだと思います。サリドマイドなどの様に、これを飲んだら奇形が生まれた!など、作用が明らかに直結かつショッキングなものではなく、アレルギーや癌、糖尿病など症状が多様過ぎる上に、長期間に渡って現れるので、症状が顕著になる頃には大気汚染やストレスなど、他にも色々原因が転嫁できる状況になりがちです。しかも、昔から色んな物に使われてきたものだから、今更誰も疑いもしない。そして、エストロゲンの作用自体、どんどん新しい知見が生まれているため、それらとBPAの関連性を見つけて証明するのに時間がかかってしまった、なども考えられます。

ごちゃごちゃ色々言ってるけど、そもそも自分は健康だし、大体あんた誰だよ!と言われるのも、無理もありません。大変ごもっともですし、どこぞの馬の骨ともわからぬ者が書いたインターネット記事を鵜吞みにしないのも大変賢明です。普通、別に体に支障がないのに、わざわざ生活を変えるなんて億劫で非合理的な事しませんよね。ただ、元々体が丈夫な方も、今は自覚症状はないかも知れませんが、老化とともに環境ホルモンの影響が出やすくなることもあります。若い頃に体に負担をかけると後で付けが来るのは、たばこもお酒もBPAも同じです。未来の保険と思って。物は試しです。最後に、私は何者かと言いますと、神経内分泌学を研究していた博士であります。今は研究職には就いていませんが、このような形で皆様の健康に貢献できれば、幸いです🥰

知識は力なり

この記事に書いてある事をご存じなかった方、是非シェアしてください。無関係な人などいない程、身近な問題ですから。今これを知る事で、10年後・20年後に病気に翻弄される運命を抜け出せるかも知れないのですから、知識は誠に力なり、です。そして、一人でも多くの方に知ってもらう事が、問題解決への一番の近道です。どうかご協力、お願いいたします🙇‍♀️

参考資料

https://endocrine.org/news Press release: Endocrine Society experts applaud proposed EU limits on BPA in food, Washington DC, April 19 2023

https://www.efsa.europa.eu/en/topic/bisphenol

https://mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/kigu/topics/080707-1.html

http://databank.worldbank.org/data/views/variableselection/selectvariables.aspx?source=world-development-indicators


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