相場観を養うために市場関連業務従事者の筆者が実践してきたこと

筆者は大学時代から少額ながらも投資を開始し、社会人になってからもマーケット関連の職種に就いているので、マーケットに向き合ってきた時間は普通の人よりは長いと思う。
そこで筆者が長年に亘って実践してきた内容を少し紹介したいと思う。
残念ながら金融機関に入社して以降は、個別株への投資は一切合切禁止されており、インデックスファンド(S&P500とナスダック)への投資が太宗を占めているため、投資家を名乗るには恥ずかしい限りではある。
個別株への投資が禁止されていなければ、NVIDIAの株は買っていたんじゃないかなあとか妄想する日々で、金融機関を引退出来た暁には個別株への投資も始めたいと思っている。
とは言え、業務において足元のマーケットを理解している必要はあるし、マーケットの構造や各アセットクラスの理解は当然必要になってくる。
補足しておくと筆者が属しているのは、インサイダー情報を扱う投資銀行部門ではないため、アクセスできる情報量は他の投資家と全く同じである。厳密には業務で情報端末を使うことは出来るが、そこで確認できるのは全て公開情報であり、筆者は一切お宝情報は持ち合わせていない点は強調しておく。
公開情報にしかアクセスできない中で筆者がマーケットに対する感度を高めるために実践していること・実践してきたことを公開してみたいと思う。

1.マーケット分析の土台となる金融知識の学習
筆者は大学時代は東大の経済学部の金融学科に所属していたため、そこでファイナンスや会計、マクロ経済更にはデリバティブ理論などを学習した。
また学生時代から証券アナリストや簿記などの資格に挑戦し、社会人になってからは米国証券アナリスト(CFA)の学習も行った。これらの学習を通じて、金融の土台となる知識は有している(はずである)。
このような学問的な知識はプロの投資家から見たら、あくまで机上の学問と一蹴されてしまいそうだし、別にこれらを学んだことで投資の腕が上がるかと言われたら全く持ってそんなことはない。その一方で、これらの学問を修めたことで、逆にネットに落ちている情報や書籍に記載されている内容の真偽を判別することが出来るようになった。
個人的な意見にはなってしまうが、投資で騙されたり、間違った理解をしないためにもこのような机上の学問も馬鹿にならないのではないかと考える。
そのため、筆者は今現在でも時間があるときにはマーケット関連の学術書は読むようにしている。
以下に筆者が考える、投資を行う上で重要であると考える学問の一部を列挙する。

・マクロ経済
・中央銀行の金融政策
・会計、簿記
・コーポレートファイナンス
・基本的な統計学
・各アセットクラスの理解(株、クレジット、為替、金利、不動産等)

これらを一定程度理解していれば、投資関連書籍やネットで情報を拾ってきた際に、その情報が間違っているか否かを判別することが出来るようになるはずだ。これらの基本的な知識を身に着ける上では、証券アナリストと簿記の勉強はおススメである。また筆者自身は資格を取得したわけではないが、FPの学習を通じてマネーリテラシーの基本を押さえることが出来る。

2.経済指標の動向は常に把握する
これは業務の一環として行っていることである。
マーケットは何もなしに動くわけではなく、何らかの情報を織り込んで動いていくものである。
例えば、政治・紛争などの時事情報や企業の決算情報、更には一定の期間ごとに公表される経済指標である。

筆者は上記いずれの動向も追っているが、相場を動かす情報はその都度変化する。例として少し前までは、市場はアメリカのCPI(物価水準)に踊らされていたし、直近足元では、企業決算の動向に注目点が移っている。
このようにマーケットでホットなテーマは移ろっていくものではあり、まずは大局を見る必要があるが、それと同じくらい細かなファクトにも目を配る必要がある。
勿論決算動向や時事情報を追うことも重要であるが、決算は基本的に四半期に一回しか出ないためまず注目すべきは、経済指標である。
一か月の中で公表される経済指標には、ぱっと思いつくだけでも、以下のようなものが挙げられる。

・CPI(消費者物価指数)、PPI(生産者物価指数)
・雇用関連指標:非農業部門雇用者数、失業率、平均時給、新規失業保険申請件数、失業保険継続受給者数、JOLTS
・GDP
・PMI(購買担当者景気指数)
・ISM製造業景気指数
・住宅関連指標:住宅着工件数、中古住宅販売件数
等である。
他にもFOMCの議事録にも目を通すべきである。

ちなみにこれらの指標の絶対的な水準感も重要ではあるが、それよりも注目すべきこれらの指標が事前のアナリスト予想を上回ったか下回ったかである。
筆者は基本的には毎朝起きたら一番はじめにこれらの各種指標を確認するようにしている。

3.各アセットの理解を深める、中央銀行の金融政策を理解する
ここで言うアセットとは、株式や社債などの金融商品や金融商品を構成する指標のことである。
代表的なアセットとしては、株式、クレジット、金利、為替、不動産、デリバティブ更には近年注目度が高まっているオルタナティブアセットが存在する。
マーケットの面白いのは、実はこれらのアセットは相互に連関しているところである。
ただその中でも一番重要なのは実は金利である。金利はこれらのアセットの全てに影響を与えるので、実はマクロ経済の動向を追う上では一番重要である。一見、株式が一番重要に見えるが、マクロ経済の動向を決定するのは何よりも金利である。
そしてこの金利の中でも短期の部分、いわゆる短期金利(政策金利)を決定するのは日銀やFRBと言った中央銀行であるので、中央銀行の動向を追うことがとても重要になるのだ。
そして例えば、米国の中央銀行であるFRBがターゲットにするのが物価水準と雇用であり、これらの情勢をみながら政策金利を引き上げるか引き下げるかを決定するため、物価や労働市場の動向を見ることがとても重要になるのだ。
話は脱線したが、社債などの金利、クレジット商品やオルタナティブアセット更にはデリバティブはどちらかというとプロの機関投資家や証券会社更には銀行が扱う商品であるので、一般投資家が気にするべきは、株式、為替、金利、不動産である。
為替であれば、ドル円やユーロ円の水準を金利であればとりあえず、日本とアメリカの金利水準は気にした方が良い。
また不動産については、現物の不動産の動向を追うことも重要であるが、REITの価格動向を追うことも重要となる。
REITは、物流REIT、レジのREIT、ホテルREIT等様々なタイプがあるのだが、これらの価格動向を追うことで世の中のトレンドをある程度追うことが出来る。
例えばコロナ期間中は巣篭り需要が高まったため、amazon等のECを支える物流施設に対するニーズが高まったことから、物流REITの価格は上昇していたし、足元ではインバウンド需要からホテルREITの価格が上昇している等世の中のトレンドを知ることが出来る。

4.基本的な決算分析は自身で行う
これに関しては主要銘柄に関して、決算資料(有価証券報告書、決算短信、プレゼン資料)を確認するようにしている。
有価証券報告書を全部確認することは難しいので、基本的には決算短信とプレゼン資料を確認するようにしている。
このような分析を行う際に、証券アナリスト更にはCFA、公認会計士の資格試験を通じて学習した内容が活きてくる。
決算だけでなく、大型のM&Aや公募増資(株式発行による増資)などの情報も適宜確認するようにしている。
自分自身で決算分析が行えるようになると、誤った情報に踊らされる必要がなくなる。

5.マーケットの歴史を学ぶ
今現在マーケットで起きていることを理解する上では過去を知ることはとても重要である。
例えば、足元日本で生じている株高と、バブル期の株高の違いは何か?
2000年前後に米国で生じたITバブルと現在のAIバブルの違いは何で、逆にどのような点は似ているのか?
これらを考える上では過去のマーケットの歴史を知ることはとても重要である。
他にもインデックスファンドへの投資は足元では当たり前の常識として知られるようになったが、インデックスファンドはどのような経緯で組成されるようになり、また市民権を得たのか?
これらの知識を得るために筆者は基本的に過去のマーケットの歴史が記載されている書籍には目を通すようにしている。

6.週刊誌やSNS、Youtube等の情報源も侮らない
週刊誌と書くと、少し馬鹿にされてしまうが、世の中のトレンドを追う上では馬鹿に出来ない情報の宝庫だったりする。
投資を考える上では、世の中のトレンドを追うことは重要である。またトレンドが必ずしも重要ではなかったとしても、その背景には何があるだろうかと考えることも投資のマーケット理解の足腰を鍛えるものとなる。
簡単な例であるが、ホストの売掛問題などもその事象のみを捉えるだけでは面白くないので、なぜ今この問題が出てきたのか、なぜ今ホストなのか、利用者はどのような層の女性なのか、彼女たちがホストにはまる社会的な背景には何か、彼女たちはどのようにして資金調達を行っているか、彼女たちはどのような問題を抱えているのかといった、彼女たちはどこ出身で、なぜ東京に出てきたのかといった様々な観点から事象を捉えることが重要である。

また世の中のトレンドを把握する上では、SNSやYoutubeも重要となる。こちらは有象無象の情報が流れてくるが、適切に情報を取捨選択出来れば、足元のトレンドを知る上ではかなり重要なアイテムとなりえる。

7.本屋には毎週訪れる
実は本屋は、世の中のトレンドが詰まった場所である。本屋に行ってどのような本が並んでいるかを確認するだけでも世の中のトレンドを把握することが出来る。
また出来るだけ新書は自分自身でお金を払って購入するようにしている。筆者は社会科学に興味関心があるのだが、新書を読むことで世の中の構造を立体的に捉えることが出来るように(なっている気がする)

8.自分で実際に街を歩いてみる
筆者は旅行も兼ねて今話題の場所には実際に自分の目で見て確かめたいタイプなので、時間があれば足を運ぶようにしている。
また普段東京を歩いて街の風景を見るだけでも色んな気づきがある。
ドライブが趣味なので、REITが購入した工場施設などを自分で見に行ったこともよくあった。
ちなみに今気になっているのは、熊本である。なぜ熊本かというとTMSCの工場が誘致され、そのバブルに菊陽町という誘致先がバブルに沸いているからだ。そこで働く人はどのような人で、どのような製品を工場で作る予定で、そこ街にはどのようなインパクトがあるのかを歩きながら考えてみたい。
実際に自分で足を運んだついでに温泉に入ったり、熊本の地場のグルメを味わいたいと考えている。

9.些細な事象にも目を向ける
毎度受験の話になってしまって申し訳ないが、実は受験の情報も世のトレンドを知る上で、かなり重要なソースである。
例えば、今中学受験で共学が人気になっていることの背景を考えたり、東大受験では理科一類の人気がうなぎのぼりに上昇しているが、その背景を考えることも相場観の涵養に役立つ。
はっきりとした原因は分からないが、例えば共学の人気の背景には、女性の社会進出に伴い、男性にも恋愛のスキルが要求されるようになったことで、早い段階から共学に入れた方が将来の恋愛で有利だと保護者が考えるようになったことが背景にあるかもしれない。
また理科一類の人気の背景は割と明らかでこれは、受験生の首都圏一極集中と足元のAI・情報系ブームが挙げられる。
また今受験生である学生は4年後はたまた6年後には社会に出てくるわけである。高度な情報系の学問を修めた学生が社会に出てきた際にどのようなh変化が起こるのかを想像(妄想)することも社会理解につながると考えている。
学歴厨のようで恥ずかしいが、受験産業も立派な情報の宝庫なのである。

10.インデックスファンドでもなんでも良いのでまずは投資する
とにかく投資する。これが一番重要である。勿論投資はリスクがあるので、そこは事前に認識しておいた方が良いのだが、実際に自分の残高を確認することや銘柄選別をしていく中で世の中の事象に興味関心を持つように自然となる。とにかく自分の身銭を切って投資することが重要である。(投資は自己責任なので、筆者は一切責任は持てないが)

11.投資仲間や職場の仲間とお互いのマーケットのビューを語り合う
これも意外と重要で、他人の意見に耳を傾けることは重要である。
他人は自分とは違った観点を持っているので、そのような見方があったか!と納得する場面も多いし、何より人に自分の相場観を語ることで自分自身の理解が深まる。
筆者の場合は幸いにも、職種がマーケット関連なので職場に行くといつでもこのような相場の話が出来るし、強制的にでもしないといけない環境にある。

以上が筆者が自身の業務のため、また今はインデックスファンドにしか投資できていないが個人の資産形成のために行っていることである。
(インデックスファンドだけでも足元では爆益を生み出しているので、個別株への投資が本当に必要かは吟味する必要はあるが、、)
それにしても早く個別株の投資がしたいのだが、それは金融機関を引退した時の楽しみとしておこうかと考えている。