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DE&Iは「手段」?それとも「文化」?

先日、DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン、以下DEI)に関するセミナーに参加した。パネリストは、日本を代表するトップ企業のDEI推進担当の方々であった。私は普段、障害者雇用の文脈からDEIを考えることが多いが、今回は一つの企業にとってDEI推進(多様性の尊重)がもつ意味を学び、考える機会であった。その中で、私が整理できたことが一つある。

DEIは、イノベーション創出や利益を生み出す「手段」なのか?

もしくは、

DEIは、個を大切にし、個の成長を組織の成長につなげていこうとする社員一人ひとりの「マインドセット」であり、そのようなマインドを有する社員が集う場で醸成される「組織文化」なのか?

きっと両者ともに、企業にとってDEIを推進する意味であることは間違いないだろう。でも、どちらを強調して語るかで、ストーリーの受け手にとっての印象は大きく変わるなと思った。

私の場合、前者の語りをされると、「多様な人=イノベーションを生み出すための手段」とも聞こえてしまい、私たち一人ひとりの「心の動き」が見えにくいなと感じてしまう。確かに、後者の場合も、目指す頂き(for innovation)は前者と同じかもしれない。しかし、そのプロセスは全く異なるように感じている。個を活かそうと個に焦点をあてることは、一人ひとりの違い(多様性)の尊重につながり、個の成長を支援することは、組織の成長へとつながっていく。その過程で、みんなで組織を耕し、たくさんのイノベーションの種を組織にまいていたら、新しい品種の花(イノベーション)が足もとにポッと咲いていた。

私は、職業柄、後者のストーリーが好きだし、前者よりも、後者のストーリーで語りかけられた方が、「頑張ろう!」と思えるのだ。きっと、多くの人にとって「多様なニーズをもつ”誰か”のために頑張ることが、組織の成長につながるのだ!」と言われても、日々の余裕のなさを鑑みれば「よし、人のため、組織のために頑張ろう!」とは思えないと思う。それよりも、属性やニーズに関係なく、「目の前にいるすべての社員、一人ひとりを大切にしたい。だから、一緒に頑張ろう!」と言われた方が、内から湧き上がる想いのエネルギーは増すと思う。自分”も”大事にされていると思えるからだ。

そのように考えると、DEIが「結果(女性比率、障害者雇用率、新規事業創出の数、各種DEI施策など)だけで語られると、とても違和感があるのかもしれない…。なぜなら、DEIはあくまでも「プロセス」だからだ。「プロセス」は数値的に可視化しにくいかもしれないが、職場の「人と人との関係性」を見ていたら分かるのかもしれない。社員一人ひとりが活かし活かされる関係であり、組織の中で個を活かす「プロセス」を大事に育てていたら、長い時間をかけて「結果(for innovation)」は必ず生まれる、そう思ったのだ。

多様性の尊重が、組織のアイデンティティとして根付いている組織は、一人ひとりの社員が「この会社の中で大事にされてきた」、「この会社に育ててもらった」と思える人が多い職場であって、だからこそ、「個を大事にしたい」という価値観の人が多くいるのではないだろうか?
愛社精神とも言えるかもしれないが、「自分の居場所が会社にある」という実感を持てている人が多いとも言えるかもしれない。

自分も大事に育ててもらったから、周りにいる同僚や部下にも、同じ思いを経験してもらいたい。
自分が大変だった時に、会社にいろいろと配慮してもらったから、周りの人が大変なときは自分のできる範囲で協力したい。

といった具合に、自然と他者が尊重される。もちろん企業は、ビジネスの現場であり、私が専門とする福祉領域とは目的が大きく異なる。しかし、組織が人の集合体であり、人の成長や人のつながりによって、イノベーションを生み出し、利益をあげる可能性が高まるのであれば、やっぱり、DEIの基本には、「人を想う心」「人はかならず成長する」という確信が欠かせないと思う。そして、その思考と行動の積み重ねが、DEIの肝になるのではないかと思った。

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