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突発的な短編マガジン

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1話完結の短編です。
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記事一覧

異形ハロウィン2023

 今年もあいつが来る――

 僕はウエストポーチに大量の金平糖を詰め込み、玄関とキッチンの間で待機していた。
 一昨年は玄関から来た。去年は台所の換気扇から入ってきた。
 毎年手を変えて侵入してくることは分かったから、どこから襲われても大丈夫なように、既に右手を金平糖の中に突っ込んでいる。
 しかしこのとき僕は、ひとつの失態を犯していた。
 わずかな過去のデータに甘え過ぎていたのだ。

 毎年ぬち

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死に滅んでゆくおれを最後まで見届けてくれるか?

「どうした、酔っ払って電話を掛けて来るなんて君らしくないじゃないか」
「……うぅ。おれが書かなくたって、世の中に小説はいっぱいある」
「え? ど、なに。急にそんなこと言うなよ! 僕は君のファンだぞ!」
 僕が声を張り上げて宣言しても、電話越しの彼はズルズルと洟をすすっている。
「占い師と同じなんだ。彼女らは、占いをすればするほど当たらない恥ずかしい瞬間を世間に見られる可能性が高まる。そもそも占いな

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わたしたちは似ている。

 目の前の同僚男は、瀟洒なカフェで、フルーツティーのポットの底に沈むブルーベリーを、緩慢な動きで取ろうとしていた。
「昔は、人に優しくされたり良くしてもらうと『自分にはそんな価値はないのに』と思って、ものすごく申し訳なく思ってたな」
 わたしは残りわずかになった抹茶ラテの表面を、ストローで撫で続けている。
「分かるよ。自分のために相手が頑張ってるのを見ると、自分は人に負担を与える存在なんだと考えた

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AIに作ってもらったプロット『鳳凰殺人事件』

ChatGPT(https://chat.openai.com/chat)というAIで、ミステリ小説のプロットを作ってもらいました。

①じゅんすたが入力したこと②ChatGPTくんの答え 初手この小説は2023年の東京を舞台に、何か青春したいと願う単純な性格の男子高校生の物語を描いている。彼は、花屋の息子であるクラスの人気者とコンビを組んで、郊外の小さな町で起きた連続殺人事件を捜査する。

事件

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絶対に川崎市民にしか伝わらない架空の戦記プロット「川崎戦争」

武蔵小杉ブームの新住民が新興勢力となり川崎区へ圧力をかけたのが、川崎戦争の発端となった。

川崎戦争の要となるのはJR南武線である。
南北に細長い川崎市を縦断する。
南武線の駅を制圧していくことで簡単に陥落する地域もある一方、東急田園都市線や東横線、小田急線など、都内〜横浜方面と繋がりがあるハブ駅も存在する。

◆麻生区 - 不戦勝を狙う麻生区は南武線が通ってないので、戦うまでもなく全滅するのを待

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大人と子供に平等な犯罪を考えている兄弟の話

 時々思うのだ。大人が罪を犯すより、未成年者が犯罪行為に手を染める方が簡単じゃないか? と。
 だって、酒を飲んだだけで違法になれる。子供はやっちゃいけないことだらけで、ちょっとでも大人にしか許されないことをしたら、それだけで御用だ。
 ……ということを、16歳の弟に言ったら、ひどく叱られた。
「お前はなあ! 高校生が酒を買うことのハードルの高さを分かってない。コンビニ店員ってすぐ、『身分証の提示

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昼寝で見た夢のやつ。蛍のイベント

昼寝の夢は妙だ。

地元の川に蛍を呼ぶイベントの計画があることを3ヶ月ほど前に知った。テレビ局が主催だが、ほとんどの人は知らなくて、一部の熱心な人や関係者以外気にもとめていない。わたしはそのイベントを異常に待ち望んでいた。
夏が近づき、わたしは蛍を楽しみに毎日を過ごしていた。
区内に蛍が住んでいる川があるのは知っていた。地元の川は一級河川で橋桁から5mはあるし、蛍が住むような場所ではないが、区内に

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きょうの非行@ガオーシティ(1) 月を上げ下げする綱を切ってみる

 地球の地下奥深くには、マントルを避けるように、丸い空間が作られている。
 ガオーシティ。本当はすごく暑いらしいけれど、鉄球の中を空洞にくり抜いたような形の街の内面には、冷却用の水道管が張り巡らされているので、快適だ。
 僕こと綿貫カズオは、ハイスクールに通う十六歳だ。ちょっと悪いことをするのを生き甲斐にしている。
 非行の相棒は、クラスメイトの瀬尾。
 一見冴えない金髪もじゃもじゃだけど、頭が切

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輝く殴打

 ――最近のひとは、『ガラスの灰皿』と聞いても、なんのことか分からないらしい
 そんな噂を聞いたので、僕は、もう少し適切な凶器を考えることにした。
 パブリックイメージに合う、適切な、資産家の男性を殴りつけるのにふさわしい鈍器とは。

 一応確認しておくと、ガラスの灰皿というのは、そのままずばり、ガラス製の灰皿である。お皿みたいな薄いものではなく、分厚いガラスの塊だ。
 複雑にカットされた表面は、

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枕辺探偵事務所の鍛錬記録〜クリスマスイブのQRコード合戦〜

「おい、弥山。事件だ」
 そう言って枕辺さんは、デスクチェアに座ったまま、汚い床を蹴った。
 キャスターがゴロゴロと音を立てて、冴えない名探偵を運んでくる。その右手には、何やら薄いものが握られている気がした。
「……ちょっと、きょうは予定があるので、事件は無しでいいですか?」
「ダメだ、ふざけんな。きのうの失態を忘れたわけじゃねえだろ? お前にはキビシ~イ鍛錬が必要だ」
 僕はうっと言葉に詰まる。

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#いいねの数だけ自キャラを振り返る2021

ツイッターのハッシュタグがあったので、書き出してみました。
おかげさまでたくさんのいいねをいただけて、全部紹介できます。
ほとんど没作です。

以上です。

ほんとはもっとというか、かなり没作があるのですが、プロットがっちり作ったのにキャラ名をつける前に没にしたものが多くて、振り返ることもできず。
ごめんな、名無したち。dropboxの中で安らかに眠ってくれ。

12月現在、書き途中の数作でざっと

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仔鴉占い処

「……人は、人に迷惑をかけたくないときに、占いにハマるんですね。初めて知りました。占いに来たくなるなんて、人生初です」
 そう言ってうなだれてみせたのは、本日午後一発目の迷える仔鴉・夏野楓さん、二十七歳。百貨店の販売員だった。
「どうなさいましたか」
 僕は努めて優しく、ほんの少し身を屈めて、下から覗き込むように目を合わせる。
 夏野さんは、少し驚いたように目を見開いたあと、視線を泳がせながら所在

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会見に至る病

 僕は一刻も早く傑作を書いて、ポー像を手に入れたかった。大学の授業中も、食事中も、風呂の中でも、いつもミステリについて考えていた。
 だから、運転中に警察官に呼び止められたときでさえ、『殺人事件でもあって、検問中なのかな?』と思った。僕の一時不停止だった。
 免許を取って三日目。エドガーアランポー賞を獲るより早く交通違反を犯すなんて、許されない。罰金は七千円。そんな金があるなら、小説添削講座に申し

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あの赤い板について(•ಲ•ʔ⋚⋚)و

 かごの中から見える世界は、八畳半の部屋の半分にも満たない。でも、僕にとってはそれで十分だし、さして見たいものもない気がする。
 元はと言えば、外の世界から来たはずなのだった。
 どこかの国で生まれて空輸されて、ペットショップのガラスケースの中に並べられて、そして赤ちゃん時代の旬を過ぎ、生後六カ月という殺処分ギリギリのところで、珍妙な人間に飼われた。
 そういう経緯は知っているものの、記憶にはない

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