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【読書】大江健三郎は何から読み始めたら良いのか?

大江健三郎。
今年の春に亡くなった
戦後作家の超巨人。

1969年生まれとしては、
それなりに読んできたつもりですが、
最近改めて、大江文学って
なんだったのだろう?と考える。
そうして、大江文学について
大してわかってなかったことに
気づいてしまった。

ちなみに、
今から大江文学に入るなら、
どんな作品から入ればいいか?

伊坂幸太郎さんは
大好きだという『同時代ゲーム』を
真っ先に挙げるにちがいない。

でも、分厚くて、
それなりに難解な作品です。

ならば、何がいいだろう?
デビュー作品や
芥川賞受賞作から
読みはじめるのが王道でしょう。

でも、今読み返すと、
初期作品群は、
戦争末期や敗戦のカオスが
背景にあり、意外と読みづらい。

中期の大江文学で、
名作と言われているのは、
『個人的な体験』が
一番読みやすい。
大江さんが第2ステージに
突入したことが作品から
ビシビシ伝わってきます。
頭に大きな異物をつけて
生まれてきた子供を
まっすぐ向き合うことが
できなかった無力な父親が
どうやって子供を受け入れるに至るか?
という話は、
大江光くんの存在と話が重なります。
一見、これは私小説か?と思いきや、
いやいや『個人的な体験』は
よく出来たフィクションなんです。

それに、そんなに分厚くない。
文章がくどくないし、長くない。

あるいは、
大江健三郎最高傑作の誉れ高い
『万延元年のフットボール』から
入るのもアリかもしれない。
分厚くて、文章がクドクド長くても
負けない根性さえあれば(笑)。

『個人的な体験』か?
『万延元年のフットボール』?

結局、大江健三郎に
難解ではない作品はないのだから、
平易な道はないんですね。

それなら、 
ノンフィクションから入るという
道もありますね。

『ヒロシマ・ノート』
『沖縄ノート』共に岩波新書。
どちらも、ヒロシマや沖縄の、
戦争における犠牲者の声を
改めて、戦後、大江さんが
現地に足を運んで、
ルポルタージュとして
書きあげた作品たちです。

ルポルタージュなら、
小説よりは、
文体が平易になるから読みやすい。

大江健三郎は
60年以上、作家として走り続け、
何十冊もの作品を書いた。

そういえば、
親交が深かった伊丹十三監督が
大江作品で唯一、映画化した
『静かな生活』は、
とても親しみやすいです。
なぜ読みやすいのかというと、
いつも男の主人公目線で
世界を捉えていく大江小説とは違い、
『静かな生活』は、
光くんのお姉さんを主人公とした、
お姉さん目線の小説だからです。 
健三郎や光くんをしっかりした
お姉さん目線で語るから、
話がポンポンと弾みますね。
そこには、お姉さんが語り部になり、
深刻にはならないでくれるから。

もしかしたら、
大江健三郎の世界に、
どれから入るか?という疑問には、
『静かな生活』がベターもしれません。

でも、それで大江健三郎が
わかったつもりになるのも
ちょっと違いますね。
まだまだ深くて広い世界だから。

どうしたら、
大江健三郎の世界に入れるのか、
これから、じっくり 
再検討していきましょうかね。

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