見出し画像

【創作】小説の女神は存在するだろうか?

「私は漫画の神様から愛されなかった」
ある日、担当していた現役の
漫画家さんからそう言われ、
びっくりしたことがあります。
打合せの終わりどきでした。

正確には、突然のことで、
その漫画家さんの意図を
よくくみとれてませんでした。

その方は、まだ全然、現役だったし、 
雑誌でも描いてたし、
コミックスも出せていたからです。

そのクラスの漫画家さんの中では
確かに地味な存在でしたが、
神様から見放されているとは
それは私には大げさに響いたものです。

もう書く場所を失った作家や
コミックスなど出なくなった作家が
まだまだたくさんいるというのに。

でも、しばらくして
ふと腑に落ちたんです。
あの漫画家さんは仲のいい漫画家と
自分を比べてしまっていたのか、と…。

確かに、彼女の友人で
もう漫画の神様に愛されている、
といえる人がいたんです。

彼女は常に雑誌の看板になったし、
コミックスは出すと何万部にもなった。
そんな結果的なことではなく、
その人が描く描線は、
ただそれだけで読者を
うっとりさせたし、
いつも次回が気になる
魅力的な終わり方をした。

そんな同業者を友人に持つというのは
正直、苦しい気持ちになるでしょう。

こういう場合は、
具体的に、自分と人気作家との
格差がずっと付きまとうから
辛いでしょうね。

自分ひとりで書きながら
まだデビューもしていない
作家志望の人の、茫漠とした、
雲をつかむような不安とは
絶望の中身が全然違いますね。

私が担当していた漫画家さんも
最初の頃は、よきライバルとして
一緒に切磋琢磨していたんでしょう。

ただ、40歳を過ぎたあたりで、
人物の眼や頬の描線ひとつで
圧倒的な違いを見せつけられると、
落ち込んでしまうのも
無理はないでしょう。

それにしても、
ドラマではみたことがある
「私は〇〇の神様に愛されなかった」
という言葉を、
生の人間の、それも執筆を稼業に
している人の口から聴くとは
思ってもいませんでした。

その点、私なんて暢気なものです。
アマチュアであることをこんなに
幸せに感じることもありません。

 

 

 

 

 

 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?