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ポレポレ東中野で観た、映画「あみこ」のレビュー

「あみこ」という映画をご存知? 2017年に上映されるやいなや老舗映画館・ポレポレ東中野のレイトショー動員数記録を更新。勢いをそのままにベルリン国際映画祭に出品するなど、国境を超えて愛されている作品だ。

好評のあまり上映期間延長かましてたんで観てきた。いやはや超フレッシュ。ド陰険だけどエネルギッシュな世界観。坂本龍一とか向井秀徳とかが、コメント出してたりして今かなりアツい。アンダーグラウンドに差し込む一筋の光。「カメ止め」が軽やかにシーンを飛び越えたこともあって、いま、映画の売れ方が変わっとる気がしてたので、気になったの。

若干20歳のモヤが存分に出た作品

監督を務めたのは新鋭・山中瑶子。19のころに「あみこ」を撮ったらしい。山中は、もともと日芸の学生だったそう。でも中退。映画制作に焦がれるもテーマを失って、深夜に東京の街を数十キロも散歩してたんだとか。もうハンパない。距離がアスリート。プロのサンパー。いや、サンピスト? サンパーか。サンパーのほうがしっくりくるか。そんな苦悩の日々で映画の構想がまとまり、また迷いながらも、まとまり、なんだかんだで「あみこ」の脚本は完成したというわけだ。

このエピソードだけで信頼できる。完全に好きなタイプの人間。飲み交わしたい。歩き飲みしたい。俺もひとりのサンパーだから。ほんでここにこそ、作品全体から感じる鬱屈としたエネルギーの泉があるはずだ。制作側のフラストレーションや、思い通りに生きられぬストレスがよく顕れてる作品。これはもうパンクロックとおんなじ原理。レディメイドぶっ壊したいからパンクロッカーはモヒる。金もないのにギターを叩き潰す。ビビアン・ウエストウッドのメンタル構造よ。そんな繊細な破壊衝動と、愛らしさ。それがメガホンに凝縮されてる。


「あみこ」の梗概について

舞台は長野市のとある高校。一般とは少しうがった見方、つまりサブカルチャーを愛するあみこは、同じように(敢えていうと)青春をこじらせているアオノに恋をする。レディオヘッドという共通の趣味、また世間に対する見地に惹かれて、あみこはアオノに惹かれていく。アオノは一度だけあみこと会話をするも、その後交わることはなく、いつのまにか量産型女子大生と付き合っていた。ほんでどうしても納得いかないあみこは……。

イタいよね。たしかにイタい。アキレス腱断裂する寸前まで背伸びしてちょっと世間を達観して見ながら、アイデンティティを探している高校生。いわゆる「こじらせ系」だ。そしてこじらせ系のうち86%は同じこじらせ系と恋をする。これはもう自然の定理。風が吹いたらロングヘアはなびく。それと一緒。そんな男女をフィーチャーした作品だ。元こじらせ系の皆さんは悶絶し、足をバタつかせながら奇声をあげ、猛烈にノドが渇き、精神科と内科を右往左往すること間違いなしなので、絶対に見たほうがいい。

当日、親父のキュートな腹の音

アンコール上映は21:00スタート。仕事を早く切り上げて駆けつける。ポレポレ東中野はあらかじめの予約ができない。現地でチケットを買って、順番にスクリーンに入るという昔ながらのシステムだ。いまどき、映画見るのに紙の整理券とかもらわんよね。でも手渡しのひと肌が嬉しい。

着いたのは19:00を少し過ぎたころ、上映2時間前にして整理番号は26番。人気ぶりがうかがえる。時間があったので一度家に帰って米を炊き、洗濯機を回して席に着く。

のっけからスポーツ新聞を読む隣のオヤジの腹の音。「グー」ではなく「んきゅうきゅ」。顔面とは違ってえらく可愛らしい音で鳴る。気になる。やたら耳につく。逆クリオネ。これがギャップ萌えか。
いくつかの広告が流れたあと、非常口の照明が消える。シネコンじゃないので映画泥棒などはハナから死滅。係員じきじきの注意事項読み上げが終わり、いよいよ上映だ。

日常と非日常のバランス感覚が吉

この映画が優れている点は、出演者の演技の味にある。「演じている」という感覚がまるでない。あくまで自然体。あくまで人間くさい。その空気感が「あみこ」のリアリティを高めている。

かと思うと、作中、急にカメラ目線になったり、新宿駅でミュージカルっぽいダンスを踊ったりと、ふんだんにメタ要素が含まれている。さっきまでの濃いぃ現実味が一気にスポーンって非現実な世界に成りかわる。山中さんは超現実が生まれる仕組みを理解している。ユーモラスでちょっと奇天烈。よい。あみこのことを一層好きになる。


甘酸っぱいどころじゃねえ

ネタバレはヤだから、ストーリーには触れない。キャッチをつけるなら「甘酸っぱいどころじゃねえ」です。
こじらせていたあの頃を思い出したが、いざ振り返ると青春メロドラマみたいに甘酸っぱいもんじゃなかった。あぶねー。あみこに殺されかける。マジあぶねー。人中一閃よ。急所。尖った中指の第二関節でコロッとあの世よ。

というと散々な思いをしたように錯覚させるかもしれないが、それが意外にも嬉しかったりする。これはマゾヒストだからではない。もう思い出すことはないはずだった過去と酒を酌み交わすと、いらんことばっか喋るが、やはりトゲトゲした過去のおかげで現在がある気がするのだ。
そういった意味で「甘酸っぱいどころじゃねえ」です。香辛料とありったけの毒草となんか無脊椎動物の乾燥とかスティーブン・キングのペン壺とかを、すり鉢で混ぜ合わせてできた粉を舐めたときの味。舌が壊死してポロっと落ちるから、観るときゃマジで気をつけて。

あみこは10/19までポレポレ東中野で上映中。私はどこかでもう一度観るよ。念のため漢方薬を何種類か持ってくけどね。

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