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都市文化を継続的に育む基盤として──新会社volvox設立に至るまでの経緯

先日1月5日に新しいマーケティング/クリエイティブのコンサルティングを行う会社「volvox」を立ち上げました。

八木くんに作ってもらったvolvoxのロゴ

その背景には、3年前にCANTEENという会社をつくり、音楽と都市文化に関するさまざまなプロジェクトを展開してきたことがあります。CANTEENの主力事業は、アーティストのやりたいことを一緒に考え、それを最優先にしながら、ビジネスとして成長することをサポートするマネジメント/レーベルサービスです。このサービスを運営するなかで、もうひとつ新しい組織体が必要だと考えるようになりました。

そこでこの記事では、僕個人がどのような経緯で新会社設立に至り、どういったことを目指しているのかを書きたいと思います。実際どんな仕事をやるか、なぜ「volvox」という名前かなどは他の代表の木谷が既にFacebookにそれぞれ書いていますので、そちらをご覧頂ければと思います。

Kensuke Kidani:【会社設立のご報告】

東京とロンドンの文化に育てられて

まずこれまでしっかりと自分の経歴などをnoteで書いたことがなかったので、簡単に説明させてください。

自分は日本の大学を卒業したあとにロンドン大学SOAS(東洋アフリカ研究学院)という地域研究に特化した大学院に進学し、そこでメディア/カルチュラル・スタディーズの修士号を取得しました。在学中に、いま会社を手伝ってもらっているコサインことYulie Yoshidaと一緒に日本のアーティストをヨーロッパ圏のアーティストと一緒にラインナップするパーティを2回ほどVICE UKに協力してもらい行いました。

POKO vol.1 with Maltine Records at Birthdays Dalston (2015)

少しの間ですが、プレイヤーとしてロンドンの都市文化や西洋の音楽/カルチャーが身近なものになると、東京は世界のその他の都市と比べても文化が盛んで厚みがあるという発見と、しかし何かが決定的に欠けているような感覚があり、東京で活躍するアーティストをロンドンやヨーロッパのアーティストと並べてイベントをやるとどんな景色が見えるかを確かめたく、イベントを行った気がします。この頃から自分の中で音楽を通じて都市文化を考えたり、東京という街について相対的に考える視点が生まれたように感じます。

Birthdays DalstonというVICE UKの所有するベニューで、初期PC Musicのメンバーや今でも交流のあるbo enKero Kero Bonitoといった面々をブッキング。日本からはMaltine Records周辺で活発に活動していたSeihoさんやPARKGOLF、そして今ではCANTEENでビジネスを一緒にしているtomadなどがラインナップされていました。そこで出会ったアーティストその後も継続的に交流することで、ロンドンのユースカルチャーへの公的補助のあり方や、都市におけるブランドとクリエイターの関係性、VICEによる広義のメディア(ウェブメディアとベニュー)を使った意図的な文化循環を生み出す戦略など、CANTEENやvolvoxを設立する上で多くのことを肌で感じ取ることができました。

PC Musicのデザイナーでもあり何度も一緒にパーティをしたSimon WhybrayとJACK댄스の出演者や友人たち (2015)

帰国後にはOgilvy Japan(現Geometry Ogilvy Japan)という外資系の広告代理店でインターンをしそのまま入社。そこで「volvox」の共同創業者である木谷と同僚になります。最初はIBMチームで彼が営業、僕が戦略プランナーという立場で働き、その後グループ会社のGeometry GlobalでRed BullやNikeなどの仕事を一緒にしてきました。今思い返せば、都市文化という問題意識は東京にある外資系広告代理店で働くという点でも、そのまま引き継がれることになります。

Geometry GlobalのRed Bullチーム (2016)

また本業と並行して、ロンドン時代の親友Simon Whybrayの手がけるJACK댄스というハイパーポップの最初期を作ったパーティを日本に呼んでみたり、Maltine Recordsのアメリカツアーを企画し、ニューヨークでショーケースを行ったり。他にも国際交流基金のフィールドワークで東南アジア圏のユースカルチャーや音楽をリサーチし、日本のアーティストとの交流を促すようなプロジェクトを。大学時代の友人たちとは「Rhetorica」として思想/建築/デザインを架橋しながら批評活動を展開し、有給と休日ははほとんど個人のプロジェクトに使うような生活を3年半ほど続けました。

RBMA presents Lost In Karaoke 2015 “Maltine x JACK Room” (2015)
Yogyakarta Cultural Studies Centreでのリサーチ (2017)

Tohjiとの出会いとCANTEEN設立

転機が訪れたのは2018年夏の終わり頃。ロンドンで出会ったDouble ClapperzSintaからTohjiを紹介され、当時Jun Yokoyamaと一緒に借りていたスタジオの新年会で親睦を深めました。その時のことは強く印象に残っていて、見返すとnoteの1発目の記事はそのことについてでした。

Tohjiの活動を見ているうちに、自分が持っている都市文化に対する意識とどこか共鳴する部分を感じ、この機会を逃したら一生後悔するな、という気がして2019年の春ごろから本格的にTohjiの活動のサポートを始めます。まず1st Mixtapeの制作とそのプロモーションを手伝い、そのリリースが行われた2019年8月にその収益の受け皿としてCANTEENを設立することになります。

そこから早2年半。CANTEENは2期目の決算を終え色々なことがありましたが、現在多くのリリースやアーティストのサポートをさせてもらうことができています。

前置きがだいぶ長くなってしまいましたが本題に入りたいと思います。

「volvox」という会社をなぜ、このタイミングで、なんのために作ったか。

個人的には「都市で音楽活動を続けるための新しいアプローチ」という大義名分があるのですが、抽象度が高いので3つほどの要素に分解していきたいと思います。

  • アーティストという事業をマネジメントしてきた経験──方法論の転用

  • 音楽を都市文化として捉える──新しい生態系の構築

  • 良い文化活動を続けるために──合理性と向き合う

①アーティストという事業をマネジメントしてきた経験──方法論の転用

まず一つ目はCANTEENで得たマネジメントの方法論を、企業やブランドに対して提供したらどうなるか?という関心です。

CANTEENという会社はアーティストに対してマネジメント/レーベルサービスを提供している会社です。前述したTohjiとMall Boyzのマネジメントからスタートし、現在では専属契約しているアーティストが7組、単発のリリースやブッキングエージェントとしてサポートしているアーティストが15-20組ほどいます。2年半事業を行い、正社員ではないものの外注や業務委託でマネジメントを手伝ってくれるメンバーは4人に増え、その他のプロジェクトと会社の運営を手伝ってくれるメンバーも4人になりました。

契約している/サポートしているアーティスト(一部)
CANTEENのメンバー

普段の業務内容や、CANTEENの契約形態にどんな特異性があるかは近々別の記事で書こうと思っていますが、CANTEENの特徴を簡単に言えば、契約アーティストとレベニューシェアを行い透明度の高いマネジメント/レーベルサービスを提供することで、それぞれのアーティストを1つの事業のように、そしてアーティスト本人をその事業の意思決定者として扱うという点です。

この業態に至った経緯や音楽業界の慣習に対する懐疑は、本題とずれるのでここでは省きますが、このような事業形態を実践することで自分の中にアーティスト(クライアント)を中心に据えたクリエイティブ事業の立ち上げ、及びその運営経験が溜まっていきました。

それぞれの方向性に合わせた楽曲制作やMV、イベント制作はもちろんのこと、アーティストとしてのブランディング、また1つの事業としての組織構成もゼロから立ち上げ、それぞれのアーティストに合った形をその都度考え、構築してきました。その中で「Vanillani」というファッション/デザインプロジェクトを立ち上げたり、既存の事務所やレーベルが当然のように持っている人脈や営業先/取引先を地道に開発していくということも継続的に行いました。

Vanillani 1st Collection (2021)

最優先はアーティストの「なりたい姿」

この時ベースになっていたのが、それぞれのアーティストが「どうなりたいか」「なにをやりたいか」という部分を最優先するということです。どのアーティストもまず本人からの聞き取り、ワークショップを何回も重ね、普段の活動の中でも本人の指向性をできるだけマネージャーが汲み取り、かつそれがピュアな状態なまま発露するような事業デザインを心がけてきました。

Tohji for 032c (2020)

それぞれのアーティストにとっての「どうなりたいか」「なにをやりたいか」を最優先するということは、既に存在している枠やポジションを埋めていくような、答えのあるアーティスト像を作るのではなく、その人にしか作れないAuthenticなモノや世界観を作るということ。つまり問い自体をアーティストと一緒に設定しながら、それを世に広めていくという実践の連続でした。

アーティストを意思決定者として事業を作っていくこと、つまり彼らがそう思っていなくても彼らをクライアントとして扱うことで、本当の意味での「アーティスト・ファースト」が果たされると思っているので、この構造は自分が独立する以前に行っていた仕事(クライアントに対するマーケティングのコンサルや広告代理業)と重なるものでした。

このような実践を行う中で自分の中に少しづつ芽生えてきたのが、「これってそのまま、普通の会社やブランドにも当てはめられるんじゃないか?」という関心でした。

上記の関心が出てきてから、広告代理業ではなく会社のサポートを行っている人って誰だろう?というところから、戦略コンサルやファンドに勤務する知り合いや同級生に会い、少しづつ「volvox」という会社で行う事業のポジショニングとチャンスが見えてくるようになりました。

マーケティング / クリエイティブ領域を、金融 / 戦略コンサル領域とつなげる

まだ始まってもいない会社の話なので、自分としても解像度低いので話半分で読んで欲しいのですが、いま考えているのは市場として完全に分離している「金融/戦略コンサル」と「マーケティング/クリエイティブ」という2つのエリアの間にチャンスがあるのではないかと思っています。もちろん産業構造上の障壁があってこの2つは分離しているわけですが、自分の感覚ではこの2つのニーズの統合は「事業の成長や開発を手助けする」という意味で当然成し遂げられるものだと感じています。

つまり、僕らがアーティスト(クライアント)に対して「全て」のサポートを行うように、「volvox」でも単なるクリエイティブ制作の請負いではなく、企業やブランドの成長をクリエイティブ以外の面からも支援できるのではないかと思っています。

現状共同創業者として名を連ねている3人のスキルだと、最初に強みとなるのは「マーケティングのサポート」と「ユースカルチャー寄りのクリエイティブサポート」になるかと思います。しかし中長期的には、自分たちの能力を開発したり、新しいメンバーを雇用したり、金融や戦略コンサルティングを行っている人たちと有機的に繋がっていくことで、少しづつ上記で書かれているような事業にしふとしていきたいと思っています。

共同創業者3人

大企業で何か新しい新規事業を立ち上げたい時、中小企業で新しいことにチャレンジしたい時、ユースカルチャーに関するプロジェクトを立ち上げたい時、「あ〜なんかvolvoxっていう分かりある奴らがやってる会社あるね」となれば良いなと思っています。

②音楽を都市文化として捉える──新しい生態系の構築

CANTEENという会社を作る時に、身近な友人たちと企業やアーティスト、沿線といった都市文化を支えるさまざまな主体を「マッピング」するワークショップを何回か行いました。その結果、いわゆる大企業やデザイン業界、スタートアップ界隈、広告代理店群、メジャーレーベルなどに属さない「草原」というエリアを自分たちの活動テリトリーと位置付けました。

Mapping Workshop at Real House (2019)

「草原」はフリーランスや小さなチーム、副業的に営まれる個人プロジェクト、またその他のテリトリーと出入りしながらも自分たちのやり方で生きたり創作しているプレイヤーがまばらに存在している領域のことです。人も場所も点在しているが故に誰がどこで何をやっているか分かりにくく、外からはその実情が掴みにくいのが特徴です。そんな「草原」という領域において、大学の食堂のような場所を作りたいと思ったことからCANTEENという名前が付けられました。

「草原」概念とCANTEENのコンセプトが決まったマップ (2019)

​食事をする人もいれば、勉強をしている人もいる。友人たちとプロジェクトの打ち合わせをしている人もいれば、単にだらだら喋っている人もいる。しかしそこにくるとなんだか草原の人たちの雰囲気やどんな人がいるかがざっくりわかる。またそこにいる人に話しかけると、外からは分かりにくい「草原」の案内をしてくれる。そんな会社を目指したいと思っていました。

ところが、当初想像していたよりもアーティストマネジメント/レーベルサービスで会社をゼロから立ち上げることは難しく、結果として2019-2020年はほとんど「草原」というよりもその中の音楽というジャンルにフォーカスして活動することになりました。

UNLIRICE、GAKU、TENGAなどとの協業

しかし最近は嬉しいことに色々なお誘いがあり、少しづつ「草原」における音楽以外の繋がりができ始めています。いくつか例をあげると、「UNLIRICE」を一緒に作っているRABAチームや「GAKU」のオファーを頂いたLOGS Inc.、マーケティング全般をご一緒させていただいているTENGAなどがあります。

UNLIRICE」はSTUDIO VOICEアジア特集の編集を行っていたRABAというチームと一緒に活動しているプロジェクトで、アジアのクリエイティブやカルチャーにフォーカスしています。どんなことをやっているかは図鑑のような分厚い雑誌#00 issueを見て頂きたいのですが、雑誌の発行以降その活動はより活発になってきており、現在「UNLIRICE Music」としてアジア圏やアジアンディアスポラのアーティストと交流しながらプレイリストや楽曲をリリースしています。

UNLIRICE #00 issue (2021)

GAKU」はLOGS inc.が手がける渋谷パルコ9Fで行われている中高生向けの教育事業です。CANTEENは曲作り/歌入れ/MV制作までを参加者と一緒に行い、それらをTuneCoreを通じて実際にリリースしてみる「Beat, Flow and Promotion」という講座を開かせてもらいました。非常に意義深いものだったので、興味がある方は下記のまとまった記事を読んでみて欲しいです。

Beat, Flow and Promotionの様子 (2021)

このプロジェクトではスポンサードしていただいたLINE MUSICLINE RecordsTuneCore JapanAbletonの方々など新しい出会いがいくつもありました。またお声がけ頂いたLOGS inc.の武田さんとは、その後もいくつかプロジェクトを展開させてもらっていて、完全クローズドですが倉庫スペースを使ったパーティの開催や、今年の春からはPARCELと協業しながら新しいギャラリーをオープンする構想があります。

TENGAではファッションプロジェクトのお手伝いから、現在は中長期的なマーケティングの支援をさせて頂いており、1つ前の章で書いたアーティストマネジメントの方法論を転用するきっかけを頂きました。商材として普段詳しく調べたり手にとったりすることが少ないので、リサーチやフィールドワークなどとても楽しくお仕事させてもらっています。

TXA -TENGA by Artist- (2021)

音楽以外の仕事をすることで、普段の業務では出会えないインスピレーションがあり、繋がることのできない人に会うことができます。そこには当然アーティストマネジメントをやっているだけでは入ってこない情報や繋がれない人脈、経済的な源泉があります。アーティストマネジメントをやっている人間としてその場に行き、それら情報や人と新しい生態系を作ることで、そのリソースをCANTEENやアーティストに還元できるという強い実感があります。

「音楽」と「都市」

この1年間考えてきたのは「音楽」と「都市」という単位についてでした。音楽というと、音が鳴っている狭義のコンテンツだと思われがちですが、音楽にはそれを聴くオーディエンスがいて、パフォーマンスを行ったり音が鳴り響く空間があり、MVやイベントが制作される原資があります。どのような人が、どのような場所で、どのようなお金で作られた音楽を聴くのか。音楽について本気で考えれば考えるほど、それはクリエイティブ産業や都市文化という、ずっとメタで大きな構造の問題に突き当たるなとCANTEENで仕事をしながら感じていました。

名村造船所跡で行われた『KUUGA』リリースレイヴの様子 (2021)

真剣にAlternative(オルタナティブ=他のアーティストやレーベルがやっていない方法論)を立ち上げようとすればするほど、そこには音楽以外の障壁が存在していました。結局自分が面白いと思う音楽を継続的に文化として続けるためには、重層的なクリエイティブ産業や都市文化に対して、音楽以外の角度から構造的なアプローチが必要になってくるということを嫌なほど実感した1年だった気がします。

シークレットベニューでのパーティの様子 (2021)

そのような状況に対して、アーティストの横でアーティストのことだけを考えていても、なかなかやりたいことが思うように進まなかったり、リソースに限界があるなと感じていたので、アーティストマネジメントで培った経験とスキルを新しい領域で転用したいという気持ちが強くなっていきました。強くなったというか、その必要に迫られたと言っても良いかもしれません。

同時にその方法論の転用や都市文化のレイヤー移動が可能な感じがするのが自分の人材としての強みだというのはなんとなく感じていたので、それを活用しない手はないということで、「volvox」という会社を一緒に立ち上げ、そこに新しい生態系を作っていこうと話を進めてきました。

③良い文化活動を続けるために──合理性と向き合う

最後は合理性とどう付き合っていくかという問題です。

②で前述したとおり、僕個人の視点で言えば経済的/構造的に「volvox」という会社の設立を迫られた側面が強かったのも事実です。

2019年8月に創業して2021年9月に2期目の決算が終わり、売上は上がったものの結果としては大きな赤字が出ました。コロナでライブが減少したことや予想もつかなかった出来事によって、ROIや資金回収の計算が大幅に狂ってしまったこと、それに柔軟に対応できなかったことが理由として挙げられます。

もちろんそれらに対応できず大きな赤字を出してしまったことは経営者である自分の責任ですが、アーティストマネジメント/レーベルビジネスが持つ高い潜在リスクと、自分が理想とするアーティストとの関係を継続する難しさを痛感しました。

以前Tohji、Loota、Brodinskiによる『KUUGA』についての文章を書いた時、「詩」という単位について自分の考えていることを文章にしましたが、アーティストマネジメント/レーベルをやっていく上で、アーティストを守る=彼らが「詩」を作れる環境を提供することが自分達の最も大きな役割だと感じています。

しかし、そのために必要なのはロマンチックなアーティストとの関係や、良いものが生まれるのをとにかく待つ裏方的な姿勢ではないと痛感した2021年でした。前述した都市文化への新しいアプローチに代表されるように、僕らにいま必要とされているのは「詩」を守るための合理的な判断であったり経済的な基盤であると強く考えるようになりました。

具体的にはアーティストとの関係をロジカルに整理した契約とそのための念密な合意形成。プロジェクトにおける経済的、人的リソースの適切な配分と管理。戦略的な活動内容のPRやビジネス拡大計画などがパッと思いつくことです。「詩」「美学」「アート」「カルチャー」といった単位を扱う業種なのにもかかわらず、なんだか堅苦しく聞こえるかもしれませんが、資本主義下で企業として生き残っていくためには当然必要なものばかりです。

合理性と向き合う

そしてもう1つ大きな問題として上げられるのが、自分が理想とするアーティストとの関係をビジネスとして成り立たせる上で、参考にできる事例が日本の音楽業界にないことでした。

Aitchのマネジメントなどを行うNQの創業者Michael Adex (24) とメンバーたち

できるだけ他業種や海外の事例、近いところでいえばYoutuberやインフルエンサー事務所などの動向はチェックしているつもりですが、日々の業務に加えてそれらをインプットするのはなかなか難しく、CANTEENを立ち上げてからアーティストマネジメント/レーベル業に専念する中で最も欠けているなと感じていたのは、ビジネスに関するインプットでした。

お金を稼いでそのお金で日々僕らは生きているわけで、おいしい食事をするにも良い音楽を作るにもお金が全くなければ何もできません。そんな現代社会において、経済的合理性が全面的に支持されなかったり、そのことについてあまり真剣に考えない業界を探すことの方が難しいと思いますが、アーティストマネジメント/レーベル業というのはどうしてもその部分が疎かになりがちです。また場合によってはこれら合理性が忌避されることが他の業界よりも多いことは確かだと思います。

前述したとおり、「詩」を守りたいと思っているからには毎日「詩」や「美学」について、どうやったらそのアーティストにしか作れないAuthenticな作品を作ってもらえるのかを考えているわけですが、そのような状況にあるからこそ、それを守るための合理的な思考や情報を周りに置きたいなとこの1年で思いました。

自分の良いと思っている「音楽」や「文化」をピュアな形で続けていくために必要な経済的合理性やそのための思考。「volvox」の設立はそれらをより身近なものにし、自分がそれを整理するためのプロセスであると考えています。

volvox──都市文化を継続的に育む基盤として

だいぶ長くなってしまいましたが、まとめたいと思います。

最初に僕個人として「volvox」という会社を設立した目的は、「都市で音楽活動を続けるための新しいアプローチ」という話をしました。そしてその中に含まれる要素である

  • アーティストという事業をマネジメントしてきた経験──方法論の転用

  • 音楽を都市文化として捉える──新しい生態系の構築

  • 良い文化活動を続けるために──合理性と向き合う

の3つについてこの原稿では書いてきました。

簡単にまとめればCANTEENを初めて約2年半、Tohjiのサポートを始めてから約3年が経った時点で、自分が良いと思う音楽や文化を継続するためには狭義の音楽(コンテンツ)だけに向き合っているだけでは、できることの限界が見えたという状況がまずありました。

それに対して自分が出した答えは、良い文化が継続的に生まれるための構造や経済的な基盤についてもっと思考し、それに直接アプローチしなければいけないという問題意識でした。

しかし自分が理想とするアーティストとの関係をビジネスモデルに落とし込んだときに、現実的には限られたリソースで毎日の業務をこなしていかなければいけない状況があり、その中でも自分の思考や環境が変わっていくような身の周りの生態系のデザインが必要だと強く感じたのが2021年でした。

そんな中、素晴らしいタイミングで素晴らしい2人の共同創業者と出した答えが「volvox」という新しい会社の設立でした。      

「volvox」は今月からCANTEENの隣にオフィスを構えることになります。CANTEENの隣に新たな生態系が生まれることを期待しながら、この原稿を締めたいと思います。

このnoteを読んで一緒に仕事したい!という人は少ないと思うのですが、もしなにか僕らに手伝えることがあれば是非連絡を下さい。また仕事じゃなくても、久々に遠山と喋ってみたいなと思ったとかでも、気軽に連絡をくれると嬉しいです。

keiichi.toyama@volvoxinc.jp

2021年かなり頑張ったつもりでしたが、振り返ってみると全く結果が出ず足踏みの1年だった気がします。2022年は新たな仲間と共に、これまで以上に頑張ることができる準備ができたと思っているので、みなさま引き続き今年もよろしくお願い致します。

新年の挨拶にかえて。


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