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変わるローカル、変わらぬローカル

 フィンランドの首都ヘルシンキにLokal Helsinkiというフィンランドのクラフト・デザイン・アートをキュレーションしているショップがある。フォトグラファーやキュレーターとして活躍しているKatja Hagelstamが、2012年にヘルシンキがWorld capital of designの首都になったのに合わせてローカルのクラフトマンやアーティストにフォーカスを当てた「20+12」という本を作ったことがきっかけで、このLokal Helsinkiが生まれた。

 マガジン a quiet dayでも2016年夏に発売したSeason2、そして最新号のISSUE2020の過去2回に渡り、オーナーのKatjaにインタビューをしてまとめているし、自分がヘルシンキに立ち寄った際(数時間のトランジットであっても空港と市内を往復する時間があれば)は、仮にインタビューをする時ではなくとも必ず立ち寄りKatjaと近況報告をするのがお決まりのコース。そんなオーナーのKatjaたちが8年間の間、こだわり続けていたのがフィンランドのクラフトやデザイン、アートをキュレーションしていくこと。この部分は頑なにこだわり続け、勢い余って海外展開を狙うということもせずに、ローカルで作られローカルで消費されるという持続可能な経済循環を作ってきた。

 しかしこのLokal Helsinkiが2020年の秋にグラスハウス·ヘルシンキという未来思考の事業開発を手がける企業の一部になったというニュースが入った。今までの姿勢やスタイルが変化してしまうというという少しネガティブな懸念やどことなく感じる寂しさがなかったといったら嘘になるが、現地で直接Katjaたちに話を聞けた訳ではないので、プレスリリース上の情報しか手がかりがないのだが、現在までの企画内容やSNSなどの発信などを見るにつけ、とてもポジティブな変化なのだろうなという感触を得る。現在はクリスマス前までKansallissaliという中心部にある建物で、オールドデパートメントスタイルの期間限定のショップがオープンしている。そこで展開している商品などを見てみると、軸足は現在までのLokalが大切に貫いてきたフィンランドで活躍している方たちのプロダクトにプラスして、エリアをNordicの国々に広げLokalの世界観と相性が良いプロダクトをキュレーションして成立させているように見られる。つまりローカルという言葉を拡張して変化を促しているという訳だ。

 処は変わり、北陸の金沢。市内の片町というエリアにある「三幸」というおでん居酒屋がある。先日、休暇も兼ねて金沢に滞在した時に立ち寄ったのだが17時のオープン前から長蛇の列でなかなか入れそうになく、他のお店を検討し始めた頃に、予約と予約の間の50分間でよければという条件で、お店で食事をすることが叶った。関東近県ではあまり見ることのない加賀野菜、そして日本海で採れた新鮮な魚介類やおでんを肴に一杯やっている地元の常連客と旅行者たちが絶妙に混ざり合い、機敏に動くスタッフの方たちの姿は、ガヤガヤはしているけれど独特のノリとどこか懐かしい団欒を感じさせる。そんな雰囲気に圧倒されながらも、50分という限られた時間の中で舌鼓を打つ体験をすることができた。壁に飾られた写真には、来店した有名人と一緒に映っているおやっさんの接客業でありながらも、どこか職人気質を感じさせる佇まいや姿勢を写した姿は今と変わっていないようだったが、常連客には言葉少なく接し、その人の日常として過ごしてもらい、旅行者たちにはその素材の味を堪能してもらい特別な体験をして欲しいという姿勢は、とても一朝一夕に真似できたものではなく、長年の試行錯誤をも推察され、その重ねられた時間に敬意を表したい気持ちに駆られお腹も心も満たされた。

 変わるローカル、変わらぬローカル。国も違えば文化も違うという大前提はあるものの、変わらないために変わり続けていくという本質を身をもって感じた体験だった。

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