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デジタルサイネージ・展示系の仕事

まえがき

2社目で10年ほどWEB屋をやった後、3社目ではWEBから範囲を広げて展示系のデジタルコンテンツの仕事をやっていました。(現在は4社目になるので、厳密にいうと前職という事になります。)最近、街のいたるところでデジタルサイネージを見かけることが非常に増えましたね。全国の主要都市の駅にいくと一面サイネージだらけと言うことも珍しくなくなりました。また電車に乗っていても車両運行系の横長のサイネージやトレインチャンネルもよく見かけるようになりました。(今はフルリモートワークなので電車に乗る頻度は激減しましたが…)

当初私は2社目の会社ではマネージャーをやっており案件だけでなく、組織的な業務も兼任していました。

「人の行動はオンラインの数値だけにあらわれるものではない」「もっと広い世界を自分の目で見て感じてみたい」「これまで培ってきたWEBの知識は必ずオフラインでも活きるはず」「人と人とのコミュニケションの設計はどんなメディアでも共通である」などプレイヤーとしての視野や知見、経験を更に広げたい…だけど理想が広がれば広がるほど日々時間に追われる暮らしとの対比の中で様々なジレンマを抱えていました。

転職活動に関する話はまたどこかで書くことが出来ればよいなと思いますが、そんな折、ご縁あり映像展示を主体とした様々なデジタルコンテンツ(WEB含む)を取り扱う会社のプロデューサー職として門をたたくことになりました。

デジタルサイネージ・展示系の仕事概要

私が所属していた会社は、企業様のショールームやPR施設、商業施設、博物館、科学館を始め、資料館などの様々な施設にデジタルサイネージをはじめとした機器を組み合わせたハード的な提案~コンテンツ系のソフト的な提案を行うところから納入まで一貫して対応する形態をとっていました。

簡単に言うと基幹システム系は除きデジタルにかかわるものはほぼ全部、全工程対応していました。

主に常設展示(期限を設けずいつでも見れる展示)の比率が高く、イベントや展示会など短期的な展示案件はゼロではありませんでしたが、比率としては少なめでした。(コロナ以降は、展示系案件の比率が少なくなり、WEB系をはじめとするソフト系の案件に比重は移行していきましたが…)

業務の範囲

そんなわけで業務は多岐に渡りました。簡単に書くとこんな感じです。(あくまで私が居た会社での業務です。会社により違いはあると思います。)
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①お客様への営業活動(既存顧客から新規顧客まで)
②案件獲得のための提案
③引き合い案件の対応
④ハード調達
⑤見積作成
⑥資料作成(機器資料、システム資料、企画書など)
⑦顧客折衝
⑧プロジェクトメンバーアサイン&調達
⑨設計(システム設計、情報設計、UI設計など)
⑩プロジェクトマネージメント&ディレクション

~ここまでが主にプロデューサーが担う領域~
⑪デバッグ
⑫設置調整(関係各所との調整/取り合いに関する事、予定等)
⑬現場設置

~ここまでは、専門性のあるメンバーとの協業で進行~
・アフター対応
・請求書発行

~クロージングはプロデューサーが対応~
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…と、案件の頭からお尻まで全部に関わりますね(笑)。最初は面食らいましたが、慣れてくると人間慣れるものでした(笑)。

携わった技術範囲

上記の通り、業務や案件の範囲も多岐に渡りますのでもちろん得手、不得手な部分も生じます。私はやはり現場関係は未経験のところからスタートでしたので、どうしても電気に関する知識は乏しく電源の取り合いを協議する際は電気系に明るい方のフォローで何とか乗り切っていました。(最初に空配管と言う言葉を聞いた時もちんぷんかんぷんでしたが、何度も出会ううちに通線に必要な経路の確保の話だと理解できました。通す線の本数や太さによりどれくらいのPF管を通すとか…そんな話です。)

よって私はWEB出身だったということもあり、どちらかと言うとソフト系知識を活用する案件が多かった気がします。ハード系も取り扱いましたがそこまで複雑なものはなかったような気がします。技術系でいうと下記の範囲辺りでした。

・タッチサイネージ関係(モニター、タブレット、スマホ含む)
 ※情報コンテンツ、ガイドコンテンツ
・AR/VR関係
・RFID関係 ※どこかで記事書きたいです。
・WEBを介した配信サイネージシステム関係
・WEBシステム関係
・WEBサイト/スマホアプリ関係
・先端デバイス(スマートグラスなど) ※どこかで記事書きたいです。
・バーチャルVR展示会、など

主に、ターゲットは大人から子供まで様々でした。
特に子供を対象とした案件をやる際には下記の本が役に立ちました。

技術を中心にリストアップしましたが、どちらかというとデザイン領域を中心とした業務によっていましたね。やはり何より人間の行動や心理、そしてオフラインでの稼働するシステムであるだけに状況にフォーカスしてイメージする事が大切だなと改めて認識を強めることが多かったです。

デジタルを突き進めて行けば行くほど、アナログに回帰しているような感覚を覚えたのもこの頃でした。

商流

商流は様々でしたが、企業直は稀で、広告代理店、ディスプレイ会社、施工会社、印刷会社、制作プロダクション経由が多かったです。施設を作る事を考えると様々な役割が必要になります。そのため1つの会社で完結はなかなか難しく協力し合って作り上げるという事が求められました。

入社してから最初の3か月

入社以降最初の3か月は修業&空気に慣れるための期間でした。元々実務経験があったWEB領域の案件をフォローしながら、ほぼ毎日図面とにらめっこの日々です(施設の平面図、機器寸法図)。どんな機械が何の役割を果たすか、などを学習しながら、機器屋さんに電話して仕入れの見積依頼をしたり、機器資料をまとめたり、ハードウェアの選定などとにかく映像機器に触れる毎日でした。

例えば単にループ再生する映像システムを作るだけでも、家でちょっとやってみようかな、みたいにはいかないわけです。
・価格は?
・スペックは?
・現地とモニタの明るさのバランスは?
・メンテナンス性は?
・設置形態は?場所は?(材質、耐荷重は条件にマッチしているか?)
・重量は?
・寸法は?
・設置スペースは?機器の保管スペースは?
・電源はどこからとる?
・付属機器は?
…など、色々考慮しなければならないポイントがあります。

製品の型番や寸法、仕様って重要な情報だと理解したのも、この仕事に携わってからでした。今や何かあるたびに型番と寸法を調べる癖がつきました(笑)。

これらを考慮して選んで、確認してもらい再度選定して…みたいな感じで少しづつ鍛えられていきました。

必要となる資格

これは会社にとって必要となる資格と、個人で必要な資格に分かれますが、主要なところで言うとデジタルサイネージ関係の工事を行っていましたので会社の場合は電気通信工事業に分類されていた記憶があります。その場合、500万円以上の設置案件を取り扱う場合「建設業」の資格が必要になります。つまりはこの資格を持っていないと、500万円以上の案件は取り扱えません。私の所属していた会社はもちろん資格を取得していましたし、電気通信施工管理技士の有資格者も在籍していました。

県により違いがあったり、資格関係はとても細かな決まりがあるので、このくらいにしておきます。参考までに

次に個人の場合ですが、単にオフィスの中で業務を行うだけであれば特筆すべき資格は必要ないですが、設置業務を行う際、立ち入るのは完成前の現場です。そのため、高所・感電、安全衛生責任者、作業責任者などの資格が必要になります(認可された団体による講習や教育を受ける必要があります、ちなみに私は高所・感電、安責、T社場内作業資格までは持っていました)。安責や作責保持者がいないと現場では作業してはいけない、などこちらも細かな決まりがあるので、このくらいにしておきます。

見積

基本的には、案件の引き合いがあった際に、引き合い元から見積に必要な情報をヒアリングします。が、大体明確になっている案件って少なくアバウトな状態で来ることがほとんどでした。特に提案段階の時などは更にそのアバウトさが上がります。

ですので大体が概算(または概概算)になることが多かったです。(過去にこういうのやったな、とか。あの人がこういうのやってたな、などの情報を参考に既存の見積を書き換えてスピードを上げるようにはしていました。)なぜなら、とってもスピードを要求されることが多かったのです。

3日くれるなら十分だといつしか思うようになりました(笑。大体が明日までとか、今日欲しいとか、そんな感じでしたので、ざーっと想定して対応し、正直詳しいことは受注してから考えよう、みたいなところもありました。。

基本的には…
・ハードウェア費
・設計費
・デザイン費
・ソフトウェア開発費
・設置作業費
・ディレクション費
・必要経費
・管理費

の構成で組み立てを行っていました。設置場所が遠くなったりするとその分交通費や場合によっては宿泊費も必要となるので経費の部分に計上したり、また機材の運搬を自分たちでやるケースや運搬会社を使用するケースなど様々ありますので、その辺りは事前に聞いておきます。

システム構成とシステム図、機器資料など

展示系のシステムを検討する際にはシステムのブロック図を書きながら考えることが多かったです。このブロック図を見ながら図面と設置条件などをつきあわせ「PC設置するなら、ここはスペースがないから超小型PCじゃないと厳しいですよね」とか「機器の保管庫から5m超えているのでHDMIの場合は延長期かまさないと信号届かないですね」だったり、色々検討します。久しぶりですが(笑)、いくつか例を記載します。

例1:55インチのデジタルサイネージを使って映像をループ再生する映像システム

比較的よくありますが、とてもシンプルな構成です。単にコンテンツをループ再生させたいだけであれば、PCは必要なく、デジタルサイネージ用のメディアプレイヤーを使用します。メディアプレイヤーには再生スケジュールをコントロールできるオーサリングソフトがありますのでそちらを使い、番組表を組んでいきます。後は人的な運用方法などを詰めていきます。

Block図

例2:タブレットを使って大型サイネージ内のコンテンツを操作するインタラクティブな映像システム

こちらは過去にとあるショールームでやった際、構成したシステムですがショールーム内でアテンダントの方がお客様を誘導しながらこのシステムを使い、色々と説明をする、そんなシーンで提案+実現したものです。

この場合、タッチディスプレイでも代用は可能ですが、やはり「状況」を考慮することによって、ユーザがより使いやすく満足度を高めやすい仕組み+先進性を打ち出せる仕組みとしてこのような形となりました。

人の行動や状況にフォーカスして何を考えるべきか?どうあるべきか?を常に考えることは、WEBだろうと、展示だろうと、アプリだろうと変わらない普遍的な要素であると思っています。

Block図2

実線や破線などを使用していますが、これは飾りでそうしているのではなく信号により線種が決まっているので、そうしています。

また、現地ではいちいちコンセントの抜き差しはしません。たくさんの機器が動いているため通常は、集中電源のブレーカーを落とす形で運用を行います。そのため、PC類の機器は正常にシャットダウンされません。それだとすぐに壊れてしまうので、運用の仕方に応じUPS(無停電電源装置)やROM化のソフトウェアを接続し突然の電源ON/OFFに対応できるようにします。

ハードの選定、在庫確認

映像関係で使う機器も様々ありますので、ここではデジタルサイネージを例に取って紹介したいと思います。基本的には国内主要メーカーの機器を使用することにしていました。他にも主要メーカーはありますが主にこちらの3社から選定することが多かったです。ラインナップの豊富さ、スペック、用途、価格、そして保証(ここ大事)など、業務用で使用するディスプレイは家のテレビを選ぶのと少し事情が違うので、そういった理由からです。

ちなみに、諸々ありますが明るくなればなるほど価格は上がります。明るさ(輝度と呼ぶ)はcd/㎡(カンデラ)と言う単位で記載されていますが、平均的には350~500cd/㎡のモデルが標準モデルとしてラインナップされています。ちなみに家庭用のテレビは大体200~300cd/㎡と言われているため、家庭用テレビよりも輝度が高いことが分かると思います。

これより上になると700~1500cd/㎡の高輝度モデルになってきますが、正直かなり明るく価格も跳ね上がります。なので一般的な屋内で使用するサイネージは標準モデルくらいで十分です。

次はベゼル(テレビの外枠の黒縁)の厚さにより価格も変動します。単体で使用する場合はこのベゼルが厚くてもそれほど問題になるケースは少ないのですが、マルチディスプレイ(複数のディスプレイを組み合わせて大画面を作る手法)の場合ですと、どうしても継ぎ目が気になるとおっしゃるお客様が多かったためベゼルの厚さには気遣う事が多かったです。

ただ、こちらも輝度同様ナローベゼル(0.3~1mmくらいの厚さ)タイプになると価格が跳ね上がるのでこちらも使用状況により選定するモデルは検討していました。

尚、ディスプレイには屋内モデルと屋外モデルがあります。当然のことながら屋外モデルの方が輝度が高く高価になります。(太陽光が降り注ぐ環境下においても、視認性を保持するとなると輝度が高くないと難しいのです。輝度的には1500cd/㎡~2500cd/㎡辺りになります。)

とにかく大きなモニターを使いたいと言われた場合

たまーにお見えになりましたが、とにかくでっかく!派手に!目立つように!みたいな理由で大きなモニターを所望されるお客様も見えましたが、これも全て実地において適した大きさか?視聴するユーザの状況により合う、合わないがあるので一概にその通り対応するばかりではありませんでした。なぜならば、大きな画面って近くで見ると目が疲れる経験された方も多いかと思いますが、それは視聴距離と画面の大きさのバランスがおかしいのでそうなっているという事ができます。最適視聴距離と言う考え方があり、以下に参考リンクを貼っておきます。何かのご参考にしていただければと思います。

サイネージプレイヤー

思いのほか長丁場になってしまいました。(笑)
こちらで最後にしたいと思います。上記でメディアプレイヤーに触れましたが、最も使用されているのはBrightSignシリーズではないかと思います。低価格、多機能でラインナップも豊富ありまして、世界1位のシェアを誇るデジタルサイネージプレイヤーブランドです。

サイネージ用プレイヤーに関しては各社様々なベンダーからリリースされていますので、もちろんBrightSignシリーズ以外のプレイヤーを使うケースもあります。

映像のループ再生からWEB配信、そしてタッチコンテンツなど多岐に渡るコンテンツをこれ一台で実現できるので、私も相当お世話になりました。特に付属のBrightAuthorですべて管理できるので、現地での運用、リモートでの運用など用途に合わせて使用することが可能です。ちなみに、メディアプレイヤーを使用する際は、プレイヤー単体ではダメで、コンテンツの配信設定を行うためのオーサリング作業と言うものが必要になります。

こちらのBrightSignはオンライン配信(BrightSignNetwork)を除き、MicroSDを抜き差ししてコンテンツを入れ替えたりするので、備品として計上するのもお忘れなく。MicroSDカードはCLASS10レベルのものを選定します。

オプションが豊富で人感センサーで反応する映像システムなんかも比較的簡単に構築できます。このBrightSignは本当に優れていて、いつも驚いていました。いつかはデジタルサイネージのコントロールも含めたCMSを作りたいと思うきっかけになったソフトです。

最後に

いかがでしたでしょうか?気づけば原稿用紙15枚分くらいのボリュームになってしまいましたが…。

この仕事をやって実生活でも色々と役立つ知識も身についたと思います。整線部材を今も5種類は常に持っていますし、配線の乱れが許せなくなりました(笑)。

街で見かけるデジタルサイネージを届ける仕事はアナログ×デジタルの可能性を無限に引き出してくれるものだと今でも思っています、それに何よりやってて楽しかったです。特に現地でシステムが通電し、動き始めた時の感動は無限大でした!そして何より今のキャリアにつながる人間中心設計に出会ったのもこの会社にいた時でした。

本当に密度が濃く、アッという間に過ぎ去った3年半でした。

他にも触れたいことは多々ありますが、それについてはまた続編的にお届けできればと思います。

ありがとうございました!

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